あぶない婦警物語2

元々遺産相続とか偽者とか脅迫状とか不穏な空気は流れていたもののまさか広美さんの義母が殺されるなんて予想できないじゃない?
誰か死ぬなって予想したとしてもそこは義房叔父さんでしょ。大穴過ぎるわ。
とまあ、ここでも江戸川さんの呪われし特殊能力が遺憾なく発揮され、不幸にも殺人事件が起きてしまった。群馬まで来てこんな目に遭うなんて。

到着した群馬県警が死体発見時の詳しい状況を聞いていく。山村という刑事さんが犯行可能なのはこの家にいた人間、というが被害者は直前までずっと出かけていたので風呂に行く以外ひとつの部屋で固まっていた私達には無理だと広美さんが言った。
犯行が可能なのは風呂に入っている間だが、そうなると死体発見直前に入浴していた母が怪しいが、彼女には初対面の人間を殺す動機がない。
しかし山村刑事はそれでも母を怪しんでいた。たまらず広美さんが母を庇うと彼女が口にした「有希子」という名前に反応する。

「って、あなた女優の藤峰有希子さんじゃありませんか!?」
「え?はい…」
「毎週観てましたよ!あなたが主演されてた『あぶない婦警物語』!!」

山村刑事は興奮気味にそう話した。あぶない婦警物語と言えば母の代表作の一つで、すぐに拳銃をぶっ放すハチャメチャ婦警のあぶない刑事ドラマである。私も昔観たことがあるがあぶないドラマだった。

「あ、もしかしてこちら娘さん!?そっくりじゃないですか!」
「え?ど、どうも」
「でしょう?自慢の娘なのよー!」
「いやー、もうドラマのこと思い出しちゃうなー!僕はあなたに憧れて刑事になったんですから!」
「あらやだもー!」
「となるとますます怪しい」

えー!?
ドラマの話を引き合いに出し、拳銃やナイフの扱いに手慣れているじゃないですか!と真剣に疑ってきた。凄い…大人で私と同レベルかもしれない人初めて見た…。
さらには死体を見て「うひゃあ!」と私以上の悲鳴を上げ、後ずさった。殺人担当の刑事さんじゃないの?と思えば現場に来るのは今日が初めてで死体は苦手だと言う。
おいなんかやばい刑事が来たぞ大丈夫か。

この人に任せていたら殺人犯にされると不安に思ったのか、いつもの江戸川さんの現場荒らしに母も加わり、今回は二人でやりたい放題やっていた。私はもう眠いよ。
日付も変わり皆の疲れもピークに達していたが、まだ誰が犯人なのか分からない状態で自由行動をさせるわけには行かないので、今夜は警察の監視付きの元、全員同じ部屋で休むことになった。

***

次の日、凶器が見つかったと山村刑事を呼ぶ警察の方の声に起こされて、のそのそと外へ出る。
凶器の出所について出しゃばりな江戸川さんがちゃっかり一緒になって話を聞いているのを横目に、私は身支度を整えた。
犯人が見つかろうがなかろうが、ここにいるのは今日の夜までの約束だもんね。早く帰りたい。
そこへ遺書の内容を読み上げに、弁護士の方が訪ねてきた。こんな状況で遺書もくそもないので当然のように山村刑事が発表を延期すると告げたが、義房叔父さんを偽者と疑っていたくらい遺産に執着している面々は納得できるわけがなく結局警察立会いの下、時間を早めて遺書を読み上げることになった。

「では、これより…薮内義親氏の遺書の発表を行います」

私達親子もついでに聞かせてもらおうと山村刑事と横並びになる。
何故だが隣に座る江戸川さんがそわそわしていた。トイレ?
と思ったら、突然何かが凄まじい勢いで義房叔父さんの方へ飛んでいった。こぼしたお茶を拭いていたカルロスに当たるところだったが、間一髪で義房叔父さんが彼を庇うように動いて何とか避けた。
襖を貫いて向こうの部屋まで行ったそれは、矢だった。調べたら茶ダンスに自動的に発射される仕組みのボーガンが仕掛けられていた。
…めっちゃ怖いんですけどー!昨日で終わりじゃねーのかよ、江戸川さんと泊まると2日目も事件起きるの!?怖いんですけどー!!
震える私と違って、江戸川さんは母と部屋中を調べ上げると不審なカセットテープを見つけたと言う話に反応して山村刑事より先に出て行った。あの二人の事件への探求心がすごい。


見つかったカセットテープには被害者が亡くなる直前まで行っていた二次会の会場の音が録音されていた。
それを聞いて全て謎が解けたらしい江戸川さんが、母に探偵役を頼む。私が前回断ったことをちゃんと覚えていたみたいだ。
しかし母もそっけなく断る。あれま。

「って、なると早希子。オメーしかいねーな」
「残念だけど無理だね…」
「頼むよ、一回だけ!」
「どうせもうここには来ないだろうし今回は自分でやれば?旅の恥はかき捨てって言うし」
「恥じゃねーよこれは!そういう問題じゃねーから!」

私の意思は固く、折れた江戸川さんが山村刑事の背後から麻酔針を打って眠らせた。あ、そっか!探偵役がいないと関係ない人が麻酔の餌食になるのか!
い、一回目ならセーフかな…?と心の中で謝っておく。前回に引き続き、また新たなる名探偵を生み出してしまった…。

そこからいつも通りに進む江戸川さんの推理。普段と異なるのは終盤になってサングラスを掛けた謎の男こと我が家のお父さんが乱入してきたことだろうか。
事件の真相は江戸川さんが辿り着いたものとは少し違って、美味しい所はお父さんが掻っ攫う形になった。
なんでお父さん?と思ったが、よく考えたらお母さんと喧嘩中だったのできっと迎えに来たのだろう。どいつもこいつもフットワーク軽いな。
とりあえず帰りのノーヘルバイク四人乗りは流石に死ぬかと思った。次出掛ける時は車がいい。

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