警視庁密着24時

女子中学生探偵の名を利用して静岡県警から手に入れた例のフロッピーの中身を確認したところ、博士のパソコンがウイルスに感染し、使い物にならなくなってしまった。
哀さんによると、バット組織以外のパソコンでデータを開こうとするとウイルスが発生する仕組みになっていたのでは?という事みたいだ。
というわけでお目当てのフロッピーが使えなくなったためアポ何とかの解毒剤は当分お預けとなり、全ては振り出しに戻った。

それはつまり江戸川さんと哀さんがもう暫くは子供姿のままってわけで、今後も哀さんは博士の家で暮らして江戸川さんの同級生として米花町に居続けるってことになる。いつまでなんてわからない。予定は未定。
江戸川さんはそんな哀さんに対して色々と思うところはあるもののとりあえずは同志(ちょっと違うかな?)として共闘することにしたみたいだ。
まあ、スローペースで頑張ろうということになって、あの事件以降、哀さんは哀さんでそれなりに楽しく学校にも通っているらしい。
小嶋先輩達とも仲良くなり、いつの間にやら少年探偵団なんてものが結成されていて、博士の発明品で楽しく事件に首を突っ込んでいる。すっかり彼らも事件慣れしてしまったようだ。

「おおー!これが警視庁かー!でっけえな!!」
「ここでいーっぱい事件の捜査してるんでしょ?」
「日本警察の親玉みたいなものですからね」

なんだかわくわくしちゃう!と盛り上がるお子様達を博士と江戸川さんが窘める。
ここに来たのはピクニックでも職業見学ツアーでも何でもない。先日、哀さんも加えたメンバーでとある事件に遭遇し、その参考人として目暮警部に呼ばれたのだ。すげえなホント。少し目を離したら光の速さで事件に遭遇するな。
それで、なんで全く無関係の私までいるのかって言うと「さっちゃんもおいでよ」とあゆみんに誘われたからである。そんな気軽に来ていいのか警視庁って。引っ張られたから来ちゃったけど。

常にピクニックムードの私達を出迎えてくれたのは捜査一課の高木刑事。上司の目暮警部は3日前に起きた銀行強盗に掛かりきりなので代わりに来てくれたそうだ。
お子様達が無邪気に高木刑事をいじり倒しているとドアが開いて綺麗なお姉さんが入ってきた。この人も捜査一課の刑事で佐藤さんと言うらしい。
女性で捜査一課とは珍しい。婦警さんって大体交通課でしょ?こち亀はそうだった。
その佐藤刑事も本来なら銀行強盗の捜査本部に行っているはずだったが、被害に遭った銀行の支店長から話したいことがあると連絡をもらったので2時にここで会う約束をしたんだとか。
話をしていたら別の刑事さんが噂の支店長を連れてやって来た。奥さんと一緒に来るという話だったが、一人である。
ここで落ち合う約束のはずなんですが…と言うと電話を借りて家へ連絡した。
その姿を眺めながら哀さんが「三回…」と呟いた。すぐに時計を見た回数が多すぎると江戸川さんが言う。なんか息ぴったりだなこの二人。

「お気に入りの時計なんじゃない?」
「さあ、どうだかね」

私の言葉に哀さんがフッと笑った。おっとー、嫌な予感がしてきたぞー。
私の勘も侮れないもので受話器の向こうから離れていても分かるくらい大きな悲鳴が聞こえてきた。じ、事件や。
危険を察知した刑事さん達が車へ向かうと江戸川さんが素晴らしい反射神経でくっついて行った。あいつどうにかならないの。

「皆いなくなっちゃいましたね…」
「つーかコナンは?」
「一緒に着いて行っちゃったよ」
「彼、事件に首を突っ込むのが好きなのね」
「まあ、野次馬根性の固まりみたいなやつだからね」
「これ、早希子君…」

ぽつん、と取り残された私達は勝手に帰るわけにもいかず、とりあえず人の居ない捜査一課でだらだらお喋りを続けて待つことにした。
飲み物もあるし、椅子も机もあるし、人はいないし、お喋りには最適な場所だ。一旦コンビニでお菓子や軽食を買い込み、机の上に広げてお喋りパーティーが始まる。

「灰原さんのね、手提げのかばんとっても可愛いんだよ!うさぎさんがついててね!」

あゆみんが転校生・哀さんの私物の可愛さについて語るのを聞いて思わず顔がにやける。はいそれ私があげたやつ〜!
どうやら私があげた手提げかばんはB組女子の中でかなり評判になっているらしい。ですよね〜!
ただ、流石に手提げだけではまだおしゃれ番長の座にはつけないようだ。やっぱりみんな髪型とか洋服とか目立つ部分で評価しているっぽい。
洋服もちゃんと渡したんだけど、趣味に合わないのか実年齢が許さないのか哀さんは中々着てくれないのだ。私はチェックのスカートを穿く哀さんが見たいだけなのに。

結局、高木刑事(と江戸川さん)が帰ってきたのは7時過ぎ。
よくここまで待たせてくれたものだ。というか待っていた私達も私達だが。
これでようやく事情聴取が始まるのかと思いきや、帰ってくるなり高木刑事は机に突っ伏して凹んでいた。なんなの?やる気あんの?
江戸川さんに聞いたら「もうダメだな…」と半笑いで返された。よくわからないけどこいつ結構酷いな。

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