コナン!!! on ICE

雪のちらつく日、江戸川さんと哀さんは学校からの帰路で偶然にも怪しいバット組織の男たちの車を見つけ、運転手として博士を巻き込み3人で彼らを追跡したらしい。
辿り着いた先は米花シティホテル。奴等が紛れ込んだ映画監督の酒巻昭氏を偲ぶ会(黒服大量発生)の会場に潜入し、探りを入れた結果、会に参加していた政治家の呑口議員は殺され、犯人である自動車メーカーの会長・桝山氏は謎の死を遂げた。
なんと桝山会長はバット組織の一員でピスコというコードネームを持っていたそうだ。ジンにウォッカにピスコに江戸川に哀さんついでに博士も参加し、米花シティホテルでゴメラもびっくりの大乱闘の末、哀さんは当分の間松葉杖での生活を送る破目になった。

この話の何がすごいって、江戸川さんは黒ずくめの奴らの車(推定)を見かけた途端、奴らの物だと言う確証もないのにハンガーでロックをこじ開け、中に盗聴器と発信器を仕掛けて追跡し始めたのだ。もう病気だよあいつ…。
合っていたから良かったようなものの関係ない人の車だったらどうする気だったのか…いや、合っていても別によくはないか。
ちなみにニュースでやっていたのだが、殺された呑口議員の家族は蒸発し、犯人の桝山会長ことピスコの自宅は全焼し、何も残っていないらしい。これを哀さんは組織の仕業だと断言した。

「疑わしきは全て消去する…これが彼らのやり方なのよ」

松葉杖をつきながら、哀さんは江戸川さんにそう言った。自分達の不利益になりそうなものは全消去。何の痕跡も残さないわけね。
だから江戸川さんや哀さんは誰にも正体を気付かれてはいけないのだ。二人の存在が組織に勘付かれたら本人たちは勿論、関わりがある全員をバット組織は消しに来る。これがどれだけやばい事なのか、自覚しなくてはいけない。
蘭ちゃんを始めとした親しい人物に江戸川コナンの正体を明かしてしまえば、最悪の状況に陥った時に巻き込んでしまう。それは嫌でしょ?と言うのが哀さんの意見。

えー?でも私めっちゃ巻き込まれてるんですけどー?嫌だよ何かあった時に死ぬの。何勝手に巻き込んでくれてんの?私も巻き込みたくない大事な人じゃねーの??
と江戸川さんにツッコミを入れたら「バーロ、俺達はたった二人の兄妹だろ…」と言われた。意訳:一緒に死んでくれ。
死ぬときは一緒だぜ…ってか?ぶっ飛ばすぞ。

というわけで私は江戸川さんにとてもとても怒っていた。家族だから仕方がないとでも言うのだろうか。そりゃお父さんとお母さんはそれで納得しているだろうけど私は無理だ。やっぱり死にたくないよ。
そんな中「久々に一緒に遊ばない?」と園子ちゃんに誘われてトロピカルランド内にあるスケートリンクへ行く事になった。
気分転換に良いだろうと思い、お気に入りの赤いコートを着ていそいそとやってきた私を待っていたのは園子ちゃん・蘭ちゃん・呪われし眼鏡の江戸川さん。え、江戸川…貴様こんな所でも私の邪魔をするのか…。
呪いを打ち消そうと視線を送るが、江戸川さんは他に何か気になる事でもあるのかずっと上の空だった。あら、珍しい。

「いるじゃない、いるじゃない!良い男より取り見取り!」
「ちょっと園子ー…?京極さんはどうしたのよ」

貸出のスケート靴を履いてリンクに入るなり、ギラギラした目で男の人を物色する園子ちゃんに蘭ちゃんが苦言を呈する。
園子ちゃんの男漁りはいつもの事、と思っていたら蘭ちゃんは聞き覚えのない人物の名を挙げた。

「京極さんって誰?」
「園子の運命の王子様よ」
「王子様っていうよりは生傷だらけの侍って感じなんだけどねー…」
「え!ってことは園子ちゃん彼氏できたの?おめでとう!」
「彼氏っていうか…えー!うふふー、やだもうー!やだー!!」

興奮したのかバシバシと何度も肩を叩かれる。ついに彼氏出来たんだ。良かった、園子ちゃん男に飢えてたもんな!
詳しく聞いてみると園子ちゃんの彼氏・京極真さんは杯戸高校の空手部主将らしい。蹴撃の貴公子の異名を持つ実力者であまりに強すぎて日本に敵がいないので外国へ武者修行に行ってるそうだ。『俺より強い奴に会いに行く』を地で行く人なんだな。
けど、外国に行ったきり全く連絡をくれないので園子ちゃんはちょっぴり冷め気味で、こうしてスケートリンクで男を漁りだしたわけだ。たくましい。
蘭ちゃんに咎められるが、行方不明の男を待ち続ける健気な彼女とは違う、と園子ちゃんは笑った。行方不明の男(目の前にいる)に目を向ければ、まだどこかぼんやりしていて、蘭ちゃん達に話しかけられると何を焦ったのか思いっきり滑って転んだ。あれ?こんなにスケート下手だっけ?

「あちゃー、この子もしかしてスケート初めて?」
「頭大きいからバランス取りにくいんじゃない?」
「こら、さっちゃん!そんなこと言わないの」

そう言うと蘭ちゃんは立たせてやろうと江戸川さんに手を差し伸べる。
そんな二人の間にちょっと派手な感じのお姉さんがものすごいスピードで突っ込んできたのはそのすぐ後だった。退いてー!なんて言われてすぐに反応できるはずもなく、お姉さんは江戸川さんにぶつかり二人して尻餅をつく。
今のはどう見ても彼女に非があると思うのだが、特に謝罪もなく「いたーい!」と座り込んだままで、友人らしき人がやってくると甘えた感じで言い訳しつつ立たせてもらっていた。
そこに続々と集まる彼女の友人達。クレー射撃仲間らしいが、初対面の私ですら「ん?」と眉を寄せてしまうのだから付き合いの長い彼らは彼女の性格にすっかり辟易しているようで、バカだとかイラつくだとか彼女に対して結構キツイ物言いをしていた。喧嘩止めて。

そこまで言われれば本人もむっとするわけで、バカ呼ばわりしてきた男性がいなくなると残った仲間に「あの人は仲間外れだから嫌い」と悪態をついた。
仲間外れとはどういう事なのか、わかるのは彼女だけで、他の友人や私達が首を捻るのを横目にトイレへと向かった。
……なんだろう、事件の匂いがする。

pumps