コナン!!! on ICE2

折角来たのだから毎晩7時に上がる花火もついでに見ていこうとリンクで待機していた私達の耳に届いたのは花火の音と園子ちゃんの悲鳴。
花火が始まる前にトイレへ行った彼女が中々帰ってこないと思っていたら、女子トイレの個室で死体を見つけてしまったらしい。その死体がさっきぶつかってきたお姉さん(友人の評判最悪)だったのだから江戸川さんの呪いは今日も絶好調だ。
自分の嗅覚が無駄に優れてきたことにげんなりする。ホントに江戸川さんのせいだからねコレ。
警察を呼んで、私達のお迎えに来ていたおじさんを車の中から引っ張り出し、皆で推理開始。誰よりも早く現場に駆け込んで勝手に一人現場検証をしていた江戸川さんが見つけた『S』と書かれた壁の血文字はダイイングメッセージだろうか?
第一発見者の園子ちゃんや被害者の友人らに目暮警部と高木刑事が話を聞いている横で血文字が示すものを考える。
Sならやっぱりイニシャルかな?射殺みたいだし、女子トイレでいきなり銃持った不審者に殺される可能性なんて限りなく低いし、普通に考えて犯人はあの友人4人の中にいるはず。そう考えるとイニシャルSであるあの佐野という女性だろうか。

「私にははっきり読み取れますよ。被害者が残したダイイングメッセージ!佐野の“S”だとね」

うわ、おじさんと推理被ったやっぱりこれ無し。
さらには高木刑事が被害者は即死で血文字なんて残せたはずがない、と言うのでおじさんの名推理は却下された。
あの“S”は犯人が佐野さんに罪を着せるためにわざと残したものだろう、というのが目暮警部の見解だ。凶器に使われたのも佐野さんの銃だったとか。

「あれれー!?なんだこれー!」

警部たちが犯行時の様子について推論していると私のすぐ傍から可愛いを全力で演じているような子供の声が聞こえてきた。
釣られてそちらを向けば、江戸川さん(17)が凶器のショットガンを指差しながら「何かべとべとしたものがついてるよー」なんて言っておじさん達を誘導していた。
何今のわざとらしい発見の仕方。100%演技と分かっているからか、声のトーンが明るすぎるからか狂気を感じるんだけど。
さらには遺体の手がポケットに突っ込まれていることを指摘し、彼女が携帯電話を握っていたことが分かるや否や最後に掛けた人が分かるかもしれないという理由でにやりと笑って「リダイヤルしてみたら?」なんて高木刑事に指示していた。子供の可愛い提案じゃない、上の立場からの指示だ。悪そうな顔してるぞ。
リダイヤルにより新たに出てきたダイイングメッセージ“KIX”に小学生とは思えない思案顔の江戸川さん。
何気なく足元に目を向ければ、まだスケート靴のまま。ここはスケートリンクからそのまま来られる唯一のトイレなので、彼だけでなく全員そうだった。バタバタしててすっかり忘れてたわ。
他の人達もそれに気が付き、とりあえず一旦靴を履きかえる許可を貰い、容疑者達も含めて皆でロッカーまで移動する。
途中で江戸川さんが園子ちゃんの携帯を見てまたもや「あれー??」と狂気を感じるぶりっこ質問をし、私を震え上がらせた。なんだろう、江戸川さんのぶりっこは見てて不安になる。

「前から薄々思ってたけど、江戸川さんってさ…江戸川さんの時とバーロの時で微妙に性格違うよね?」
「は?いや、バーロの時ってなんだよ」
「新一の時ってこと」

靴を履きかえながら、隣に座る江戸川さんに小声でそう言うと彼はきょろきょろと周りの様子を伺った後、呆れた目でこちらを見た。自分=バーロという自覚がなかったらしい。
バーロと江戸川さんって、外見が違うだけじゃないっていうか、中身にもわずかながら差があると思うのだ。普段の江戸川さんの様子を見ていて、単純にバーロが小さくなっただけではこんな感じにはならないんじゃないかな、と感じる。
よく工藤新一はキザだと言われる。探偵をやっている時に限らず普段からずっと同じ調子で、多分お母さんの影響なんだろうけど、奴は演技がかったセリフや演出を好むのだ。いつも気取っていて、初対面で「なんだこいつ」と思われるタイプ。
だから基本的に私はバーロのことを嘘くさいと言うか、日常的に演技をしているうぜー奴だと認識している。
それに比べて江戸川さんは、大人の前では普通の子供にしては大袈裟すぎるぶりっ子(怖い)を披露するものの、小嶋先輩らに対しては素の状態を見せている。その素の状態って言うのが、そもそもバーロとは違うのだ。演技も何もしてない、本当の素というか。
少なくともバーロが子供の頃は、江戸川さんのような性格ではなかった気がする。まあ、お子様の姿で周りに格好つける意味がないからかもしれないが…。

「小嶋先輩とか、周りの小学生に感化されたところあるよね?」
「そうか?自分じゃわかんねーけど…」
「あれれー??」
「江戸川さんの真似はやめろ」

先程のぶりっ子は何だったのか、子供にしては低い声でツッコみを入れると江戸川さんは現場へ戻った。そう、その感じだよ。それが素だよ。
きっとバーロの時は、無意識に演技をしているのだ。蘭ちゃんや他の人に良く見られたいから凝った言い回しをして、むず痒くなる訳わかんない演出をする。
けど、妹の私や気心の知れた博士、小学1年生の子供の前ではかっこつける必要がないので素を見せる。でも本人は相手によって立ち振る舞いを変えているつもりはないので、バーロと江戸川の時の違いが分かっていないわけだ。

なんて分析をしている間に江戸川さんはおじさんに麻酔針を打ちこみ腹話術で推理を披露し、無事に犯人は逮捕されたようで、ロッカールームで座っていた私を蘭ちゃんが「帰るわよー」と呼びに来た。あれ、結局犯人誰だって?

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