命がけのキノコ狩り

見事復活を果たした工藤新一が再び子供に戻ってから何日経ったか。
告白は失敗に終わり、その上やっぱり蘭ちゃんを泣かせたらしく、暫く凹んでいた彼もようやく調子を取り戻し、再び江戸川コナンとしての日常生活に戻った。

そんなある休日のこと。江戸川さんのお友達で少年探偵団なるいつもの愉快な仲間達に誘われ、私は松茸狩り(引率:博士)にやってきた。
採り放題というわけではなく大人3本、子供2本までと決まっていて、持ち帰った松茸は現地の管理者一族が運営する旅館で料理してもらえるんだとか。松茸狩りじゃーっ!とはしゃぐ子供達の横で詳しい説明をしてくれた旅館のおじさんが引率である博士に注意事項を伝えた。

「金網を二つ越えると狩猟区になっていますので絶対入らないでくださいね」
「狩猟区?」

首を傾げる博士に、旅館のおじさんは小声で熊が出るのだと告げた。こちら側には一頭も出ないのでご安心を、と言われるがなんてところで松茸採らせる気だよ。
若干の不安を抱きつつも始まった松茸狩り。秋の高級食材を求めて意気揚々と進んで行くが、私達の期待に反して松茸は姿を見せなかった。
そりゃ一歩進んで「あ、松茸!」「ここにも松茸!」とか言うのを想像していたわけじゃないが、ここまで見当たらないとは思っていなかった。

「あのおっさんいっぱいあるようなこと言ってたくせに全然ねーじゃん!」

子供は飽きっぽい生き物で、30分も経たないうちに小嶋先輩が音を上げた。彼だけではなく皆がご機嫌斜めだ。
そもそも松茸狩りに行きたいと言い出したのは小嶋先輩なので、その彼が真っ先に文句を言い始めたことにカチンときたのかあゆみんが「だから私はリンゴ狩りがよかったのにー!」なんて口を尖らせる。

「なんだよ、秋の食材の王様って言ったら松茸だろ!な、早希子!」
「けど、全然見当らないじゃないですか!ねえ、さっちゃんさん!」
「リンゴの方が美味しいもんね!さっちゃん!」
「うるさーい!私だって柿が良かったもん!」

きゃいきゃい騒ぐ三人に囲まれ、思わず本音が漏れる。秋と言えば柿だろうが!!
この一言が燃料となり、全員ヒートアップ。松茸!リンゴ!柿!!と揉めているところに哀さんも加わり、さり気無くリンゴの良さをアピールしてきた。哀さんはあゆみんの肩を持つわけ!?
ならミッチーを柿派にしなくては、と彼を見ればぼんやりとした様子で哀さんを見てた。お前…さては哀さんの魅力にやられたな…。
なんだか子供らしくて微笑ましかったのですーっと心が落ち着く。子供相手に張り合うな、という江戸川さんのお言葉もあり、派閥争いをするのは止めることにした。どうせ私が負けたからな。
博士の仲裁もあり、とりあえずもう一度しっかり松茸を探すことにした。

「あー!さっちゃん、これ松茸の仲間じゃない?」
「そう?結構やばそうだけど…ねー、江戸川さん見てー」
「ああ、それはテング茸っていう毒キノコだよ」
「だってさ」
「えー…」

表面に白いつぶつぶが沢山ついた茶色のキノコを毒キノコと一蹴されたあゆみんはしゅんとした様子で私の横を歩き出す。
先程の喧嘩から10分が経過。難航する松茸の捜索にまたもや小嶋先輩が「ヒントもねーのに見つかるかっての!」と荒れ始めた。
それが伝染して皆の間に不穏な空気が流れ始めた所で江戸川さんが「ヒントならあるぜ」と木を触りながら言う。いつもの推理ショーの延長戦のような口ぶりで、葉が黄緑の赤松の木の根元が怪しいと言うので皆でその周辺を覗いてみると皆が夢にまでみた小さな松茸。
まずはひとつ目ゲットだね!とあゆみんを始め、皆が明るい顔を取り戻す。江戸川さんのキノコ知識スゲーな。

江戸川さんが教えてくれたヒント通りに探し始めたところ、さっきまでとは打って変わってお目当ての松茸が見つかるようになった。
「こっちにもあるよ!」「あっちにも!」と宝探しのような気分で松茸を探して暫くした頃、ふと、あることに気が付く。

「あれ?小嶋先輩はどこ行った?」
「え?」

すぐそこにいると思っていたはずの小嶋先輩がいつの間にかいなくなっている。周囲を見回しても姿はなく、名前を呼んでも返答はこない。

「おトイレじゃない?」
「元太君、ミネラルウォーターをがぶ飲みしていましたからね」
「しかし…こんな森の中で迷子になったら大変じゃ!一度さっきの場所に戻ってみよう」

と博士が言うのでさっきの場所、つまり最初に松茸を発見した場所へと戻ることにした。
しかしそこにも小嶋先輩の姿はない。おかしいな、必ずこの森のどこかにいるはずなんだけど。
皆で首を傾げていると一人金網を調べていた江戸川さんが「元太のやつ、向こうに行っちまったみてーだな」と言った。
江戸川さんが触っている金網を見れば、真新しい土がついている。間隔も狭いし、子供が上った証拠だろう。
普通そんなことするか?と思うが、金網の向こうには葉が黄緑の赤松の木がたくさん生えているので、この推理も中々説得力がある。小嶋先輩は食い意地張ってるからな。

小嶋先輩に持たせている探偵バッチ(通信機能付き)とやらは修理中なので使えない。連絡が取れないならとりあえず向こうまで探しに行くしかないだろう。

「しゃーねーな…登るぞ早希子。肩車だ」
「えっ!」
「オイ、とりあえず俺と早希子がヤツを見つけてくっからオメーらはここで博士と待ってろ」

いや何巻き込んでんだてめー。
向こうは熊が出るんだぞ!と反論すればひとつ目ならまだセーフだろ、と言われる。そうだけどまあ…えー、登るのー?
遠い目で金網を見上げる私の後ろであゆみん達が江戸川さんの判断に異議を唱えた。心配だから一緒に探したいらしい。
やいやい揉めて結局博士がこの場に待機し、哀さんとミッチーのチーム、江戸川さんとあゆみんのチームに別れて探すことになった。

「工藤さんは江戸川君たちのチームに入ってちょうだい。彼、一人で無茶して吉田さんを不安にさせるかもしれないから」
「任せてこいつは私が見張ってるから」
「オイ」

呆れた顔の江戸川さんは無視してグッと親指を立てる。
子供に探させるのはどうかと思ったが、一応どっちのチームにも大人がついてるので安心といえば安心か。少なくとも途中で帰り道が分からなくなることはないだろう。
一時間後に再集合、として探しに行く事になった。どうしても見つからないなら旅館の人達にも頼もう、と話しながら金網を登る。

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