命がけのキノコ狩り2

私と江戸川さんとあゆみんで森の中を探し回るが小嶋先輩の姿はどこにもなかった。そもそも範囲が広すぎる。
約束の一時間はすぐにやってきて、やはり旅館の人達に頼んだ方が良いかもしれないと話しながら博士の元へ戻った私達の目に最初に飛び込んできたのは松茸を腕に山ほどかかえた小嶋先輩だった。えー!帰ってきてるー!?

「いい加減にしろよ元太!!俺達がどれだけ心配したと思ってんだ!?」

博士によるとほんの数分前に一人で帰って来たらしい。江戸川さんが当然のように怒れば10円ハゲは「皆の分の松茸を採っていたらつい奥の方まで…」などと供述しており……。
まあ無事でよかったじゃん、と思うのも束の間、今度は哀さんとミッチーが帰ってこない。二次遭難やめろ。
二人の探偵バッチに何度呼びかけても反応はなく、暫く待っていても帰ってくる気配がないため、江戸川さんの眼鏡の追跡機能で位置を探ることにした。

「って、おいおい……光彦のバッチの反応、この狩猟区の中からだぜ…」

なんと絶対に入ってはいけない二つ目の金網を越えたところに反応がある。見てみれば、金網の下の方に一か所だけ丁度子供が通れそうな小さな穴が開いていたのだ。こんなのあるなら塞いどけよ。
しかし、子供の中でも比較的賢いミッチーと頭脳は大人の哀さんがどうして向こう側へ行ってしまったのだろう。いくら食い意地の張っている小嶋先輩でも熊が出る所までは行かないだろうと予想はつくのに。仮に向こう側を探したいと思ってもあの二人なら大人に声を掛けるだろう。
二人のらしくない判断に首を傾げていると江戸川さんが物凄く自然に金網の穴を通り抜けた。

「まあいい、さっさと二人見つけて暗くなる前に旅館に帰ろうぜ」
「えー!?江戸川さん入るの?大丈夫?」
「バッチの反応はすぐそこだし、出口が近けりゃなんとかなるだろ。早く来いよ」

なんて言うものだからあゆみんと小嶋先輩まで後に続いた。確かにお前らの背丈なら熊が出てもすぐにここを通って逃げられるだろうけど屈まなきゃ通れない私の気持ち考えろよ。
さっきとは危険度が段違いなので子供だけで行かせるわけにはいかない。そのため少なくとも博士は絶対に着いて行かなくてはいけないわけだが…。

「さっちゃんと博士はこの穴通れる?」
「私は細いから大丈夫だけど博士は無理でしょ。私は細いから大丈夫だけど」
「うむ…わしは腹回りがちと厳しいかもしれんの…」
「じゃあ俺と歩美が引っ張ってやるよ。んで早希子が後ろから押せばいいんじゃねーか?」

という小嶋先輩の名案に乗っかり、予想通り腹が通らず引っ掛かった博士を向こう側からあゆみんと小嶋先輩が引っ張り、私が後ろから押し込む。これ通れたとしても熊が出たら逃げられなくて死ぬよね。
新手の拷問みたいなやり方でなんとか向こう側へ行った博士に続いて、私も屈んで金網を通り抜けると猟銃を背負ったおじさんがやってきて「どうされたんですか?」と声をかけられた。
狩猟区で猟銃持ってるってことはハンターってやつか。博士がおじさんに事情を説明し、子供を見かけなかったか尋ねるが知らないと言う。
同時に江戸川さんがミッチーの探偵バッチを見つけた。慌ててそちらへ向かうが二人はどこにもいなかった。
地面を見ればすぐ傍には大きな熊の足跡がついている。それを見てあゆみんが不安そうな声を上げた。

「じゃ、じゃあ、二人とも熊さんに食べられちゃったの!?」
「それはないと思うよ。基本的に熊は人間を怖がっているし、餌だとは思ってないから…」
「じゃが奴なら話は違うぞ。あの隻眼のツキノワグマ十兵衛ならな!」

なんか新しい人出てきた。
ハンターのおじさんがあゆみんを安心させるように優しく言ってくれたというのに、突然背後から現れた老人が人間に恨みを持つ十兵衛なら子供二人は冬眠前のご馳走だなんて物騒な発言をする。さらにはその後ろから若い男性も現れ「俺が友達の敵をとってやるよ」なんて笑いながら言うものだからあゆみんが泣き出した。
どうやらこの二人もハンターらしい。最初に声を掛けてくれた優しいおじさんも含め、三人の方が山には詳しいからと哀さんとミッチーを探す手伝いをしてくれることになった。
真偽のほどは不明だが、十兵衛という危険な熊がいる中で人探しをするならハンターが居てくれた方が心強い。人手は多いに越したことはないし。


「あ、また落ちてるよ。ポテトチップ」

計8人の捜索隊で二人の名前を叫びながら進んで行くと地面に落ちているポテトチップスを見つけた。一枚ずつ点々と落ちているそれはまだしけっていなかったので、あの二人の落し物とみて間違いないだろう。
恐らく後から探しに来る私達に道を教えてくれているんだろうけど、なんであの二人は奥へ奥へと進んでいるんだ?
道標を残しているってことは探してほしいってことだ。けれど後を追えども姿は見えない。つまり現在進行形で移動しているという事。
熊に追われていて逃げているのだろうか?ここまで足を止めずにずっと移動しているのなら相当切羽詰まった状態だったり?
不思議に思っているのは私だけではないようで、江戸川さんが博士に旅館の人と警察へ電話するようこっそり伝える。彼の話ではミッチーの探偵バッチが落ちていたところの木に真新しい弾の跡と血痕があったそうだ。
え?これってひょっとしなくても誰か死んでる感じ?事件の香りがしてきたぜってやつ?

なんて考えていたらすぐ側の草むらから音が鳴る。もしかして?と思う暇も無いほどの速さでハンター三人が音の出処目掛けて一斉に撃ち込んだ。
その正体はうさぎだったわけだが、あれがもし哀さんとミッチーだったら即死である。博士が「あれが子供達だったら…」と怒るが彼ら曰く子供と獲物の区別はつくとのこと。同行者としてこの三人は過激すぎるわ…一回別行動したい…。
しかしそんな彼らからしても十兵衛は別格でかなりやばい存在らしい。熊に会った時の対処法ってどんなのだっけ。死んだふりすると喰われるんだよね?どうしよう。

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