命がけのキノコ狩り3

【速報】十兵衛、メスだった。

ハンター三人の中でもベテランだと思われるおじいさんの情報によるとなんと冬に子熊を産んだらしい。子持ちに十兵衛はひどいだろ。
驚きの事実に、なんでメスなのに男の名前付けるんだよややこしいなって聞いたら山の神の嫉妬がなんとかでどうにかでよくわかんないけど隻眼の剣豪・柳生十兵衛になぞらえて名前を付けたという。ちょっと私の頭には難しい説明だった。普通にせつ子とかでよくね?
江戸川さんに急かされた博士が旅館の人に再度連絡を取っているのを横目に、やいやい言いつつ進んで行く。
すると博士が焦ったような声を上げた。傍で聞いていた江戸川さんが不審がるハンター三人に「子供かと思ったら子熊がだったんだって」と明るく話す。
どう考えても嘘だな、と分かる言い方だった。お得意のぶりっ子だ。
納得して進んで行く三人から離れて、江戸川さんと博士の傍へ行く。

「いるんだよ、あの三人の中に…殺人犯がな!」

江戸川さんのその言葉は意外でも何でもなかった。知ってた。なんかそういう展開っぽいって薄々勘付いてた。むしろなんで博士は驚いてるの?私より現場に立ち会う回数多いんだからいい加減学べよ。
江戸川さんの予想によるとミッチーと哀さんは犯行現場を目撃してしまったため逃げているんだとか。そして犯人は私達と一緒に行動し、ミッチーと哀さんを見つけたら彼らが何か話す前に熊と間違えたと言って口封じに撃つつもりだという。

「それで…犯人の目星はついておるのか新一君?」
「いや、全然…手掛かりが少なすぎる」
「はあ?じゃあ分かってから言ってよ。不安煽りやがって」
「早い段階での情報共有が大事かなって」

文句を言えば誤魔化すように笑う。ただでさえ十兵衛に怯えているのに殺人犯ってさ、脅威が多すぎるよね。でもこんな風に話すなら正体がわかってからにしてほしいよね。
まだ犯人はわからないが、必ずミッチーと哀さんが私達にしか分からない方法で教えてくれるはずなので心配するなと江戸川さんは続けた。

なんて言っていたらあゆみんが枝に刺さったキノコを見つけた。その周りにはバラバラに落ちたキノコ。落ちているのはともかく、枝に刺してある方は誰かが意図的に作ったものだ。
ってことは、これがミッチーと哀さんによる『私達にしかわからない』メッセージなのだろうか。正直私には全然わからんのだけど。
しかし江戸川さんは違ったようで、どうでもよさそうにキノコを放り投げてハンター三人に『意味のない物』アピールをした後、犯人が分かったと言って私と博士を下がらせた。そして三人の方へ背後から時計型麻酔銃を構える。
珍しく正しい使い方をしているな、と思っていたら標準を合わせているところに小嶋先輩がひょっこり顔をのぞかせた。
思いっきり邪魔をしてくる小嶋先輩と揉めつつ、再び犯人目掛けて麻酔銃を構える。のだが、何か思い当たったのか、す、と腕を下ろした。

「なあ、もうくだらねー鬼ごっこは止めにしようぜ?殺人犯さん?」

は、話しかけたー!
正気かメガネ。向こうが逆上して襲いかかってきたらどうする気だよ?私ら全員合わせても戦闘力5くらいだぞ。今日は非戦闘員パーティだぞ。村の子供×2と遊び人とキテレツとお茶の水博士だよ?勝てるわけねーじゃん。
普段蘭ちゃんとおじさんという戦闘力の高い二人に守られていて感覚が麻痺しているのか、困惑しているハンター三人に向かって先程捨てたキノコの暗号の謎解きを開始する。
それによると犯人はベテランハンターのおじいさん。あのキノコでそこまで読み取れるか普通?
話をしている途中、いきなりおじいさんが猟銃を構えた。そこからの展開がとにかく早い。
話題の十兵衛が茂みから飛び出してきたのだ。身体の大きさからは想像できない俊敏さに、小嶋先輩が追い込まれてピンチになったと思ったら犯人のおじいさんが上に向かって発砲し、自分に注意を引きつけた。

「灰原!子熊だ!子熊を放せ!!」

さらに江戸川さんがそう叫ぶ。状況を理解する前にとことこ歩きで子熊が十兵衛の傍にやってきた。
犯人のおじいさんはミッチーと哀さんを殺そうとしたのではなく十兵衛から助けようとしていたのだと言う。おじいさんが人を殺したのは確かなのだが、それには一応理由があるみたいでおじいさんが静かに語りだす。
十兵衛とおじいさんのハートフルストーリー、子熊を囮に使った卑怯なハンター……うつむく〜その背中に、痛い雨が突き刺さる〜…。
私の中の切ないBGMを脳内で流して〆る。その一時間後、合流した警察によっておじいさんは連行されていった。

はちゃめちゃだったキノコ狩りは無事に終わり、帰りの車内では江戸川さんがどこからおじいさんの犯行動機について気が付いたのか分かりやすく解説していた。
毎度毎度思うけどこいつにはついていけないわ。

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