犯人は後妻2

その後、なんやかんや色々あって若奥様の勘違いも正すことができ、私達の依頼人(お父さんの友達だった)も無事に判明したので皆で幹雄ちゃんを守るために家の中につけられた監視カメラをチェックするためモニタールームに集まる。
本当は本人の傍にいた方が良いのだが、幹雄ちゃんは読書中で邪魔が入るとめちゃくちゃキレるらしいのでそれが終わるまでカメラ越しということになった。命が狙われているのに一人で居る時間を作るなんて大した人物である。
どうやら本人はメイドか誰かが自分に怒られた腹いせでやったイタズラだと思っているらしい。
ちなみに今回の依頼、うちの父は友人の誼で無償で引き受けているのだが、蘭ちゃんのところは若奥様からの依頼でおじさんが1千万で引き受けたんだとか。すげー、ここぞとばかりにぼったくるな。
それで引き受けたおじさんはどこにいるのかと思えば1千万を当てにして豪遊したものの犯人はさっぱりわからず、競馬で800万の借金を作り、絶望して酔いつぶれて事務所で寝ているらしい。それで代理人としておばさんが来ているのだ。おじさんってすごいな…なんか色々…。

といった具合で毛利家の生活が懸かっているので1千万を持ち帰れるように皆で頑張って犯人を突き止めることになった。
まあ、幹雄ちゃん本人とこの件について話せない事には推理も何も進まないので、監視カメラをチェックしつつ伝説のミスコンの話で盛り上がっていた矢先、事件は起きた。

「だ、旦那様が手を上げておられます」

執事さんが焦ったように言った。つられてモニターを見れば椅子から立ち上がって両手を手を上げている幹雄ちゃん。まるで拳銃を持った誰かに脅されているようだ。
しかし、それもほんの僅かな時間で、すぐに彼はその場に倒れ込んだ。若奥様が思わず「撃たれちゃったよ!?」と悲鳴に近い声を上げる。
若奥様に警察と救急車を呼んでもらい、現場へと走る。執事さんには合鍵を取って来てもらっているのだが、部屋の前で聞こえた銃声に待ちきれず蘭ちゃんがドアを蹴破った。今日のパーティは空手家がいるから戦闘力高いな。
ドアが吹っ飛んで真っ先に目に入ったのは横たわる遺体。そうか、幹雄ちゃんが殺られたか…。

***

目暮警部率いる警察がやってきて、容疑者達への事情聴取が始まった。
といっても仕切るのは警部ではなくお母さんとおばさん。この二人は目の前で依頼人が死んだというのに動揺することなく警察相手に的確な指示を出していた。妙に手慣れているな…こいつら場数踏んでるわ…。
二人は家中に設置されているカメラに見覚えのない怪しい人物が一切写っていない事から外部犯ではなく防犯カメラの位置を熟知している者、つまり内部犯の可能性が高いと語った。そのまま目暮警部を差し置いて動機について調べ始める。
お母さんとおばさんがとにかくはしゃいでいるので、いつも元気に現場を荒らす江戸川さんも今回ばかりはやる事が無くなり大人しくしていた。私もいつも通りやる事がないのでその横で大人しくしている。ていうか子供が当たり前のように現場にいる事を誰か疑問に思ってほしい。私達関係ないから追い出してくれていいんだよ。

成り行きを見守るが、どうも推理が進まない。犯行時、容疑者全員にアリバイがあり、硝煙反応もでなかったのだ。全然わかんないけど、多分嫁が犯人だろ。
なんて適当な推理をするわけにもいかず、困り果てた母が父(お助けキャラ)に電話をかける。あの人は大体聞いただけで犯人を突き止めることができるので期待できそうだ。優作ヒントをもらおうと思って待っていれば、電話から戻った母は難しい顔のままだった。
簡単な事件のあらましを伝えたところ、父は笑って「間違った道標」とだけ言ったそうだ。何を言っているのかまるで分らないのだが一応これが優作ヒントらしい。言いたいことがあるならはっきり言えよ。

「この言葉、さっちゃんはわかった?」
「ううん、ポエム過ぎてわからない」
「そうよねー!よかったー、やっぱりさっちゃんはママの子ね!」

母もこのヒントの意味がわからなかったようで、私の答えに安心したように笑った。そりゃわかるわけねーよこんなの。
しかし、あはは、と笑い合う私達の横で「なるほどね…そういうことか」とわかったような顔をしている眼鏡が一人。
その顔にむかついたのは私だけではないようで母が後ろから思いっきり殴ると頭部に強い衝撃を受けた江戸川さんは何が起こったのか分からない、と言った様子で「え!?」とこちらを見た。今のは私じゃねーぞ。

「やーね、新ちゃんったら。一人だけわかったような顔しちゃって」
「いいじゃねーか、わかったんだから」
「じゃ、教えてくれる?探偵役が欲しいんでしょ?」
「って、言ってまた大立ち回り始める気じゃねーだろーな?」
「大丈夫、今夜はクールに地味に決めるから!」
「ホントかよ、嘘だったら途中でも早希子に変更するからな」
「やめて私に対するその嫌がらせ」

当然のように私を探偵役の頭数に入れないでほしい。
一度勝手に探偵役にしてから私に対する遠慮がなくなったようで、他に代わりがいない時は私の声を出す気満々みたいだ。せめて確認を取ってほしい。急に私の声出されても困るからホントに。
なんて訴えは目立ちたがりの二人からすれば何が問題なのかわからないらしく、軽く流されたあと江戸川さんは今回の事件のトリックを教えてくれた。こいつら自己顕示欲が強すぎる。
二人が推理ショーの段取りを確認している間、私は母の指示で他の部屋から洒落たスタンドライトとそれを点けるのに使うコンセントタップを探しに行った。なんでスタンドライト?江戸川さんから聞いたトリックに関係なかったと思うけど?
不思議に思いつつも忙しなく動く警察の方々に紛れて部屋を出る。目暮警部が取り仕切る現場なら私はどこへ行こうと顔パスで通れるので集めたライトを抱えてよたよた歩く女子中学生に何か言ってくる人はいなかった。言っていいんだよ、うろうろするなって。

そして11時を過ぎた頃、母による推理ショーが始まった。
母の手により、突然消える照明。私達は誤魔化されたのよ、犯人の手によって…と語る母の足元には私が集めてきたスタンドライトがずらっと並んでいる。
暗くてよく見えないが、この場にいる全員の目は声の発生源であるこちらに向いている事だろう。
先程急遽作られた台本(脚本主演:母)の台詞「でも残念ながら、探偵の目は偽りきれなかったようね」を聞いたところで小道具担当の私はコンセントタップのスイッチを一気につけた。

「この闇の男爵夫人のプライベートアイはね!」

決め台詞(多分)を放ち、暗闇の中、足元のライトにパッと照らされた母は満足気だ。クールで地味に決めるとはなんだったのか。
残りの時間、私はスタンドライトの片付けに追われた。

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