皮膚の下の頭蓋骨2

江戸川さんが急いでいたのは死神云々ではなく、自分の姿が生放送のテレビに映ってしまったからだった。昨日妙な車に尾行されたばかりなのだ。誰が観ているか分からないのに、リアルタイムで場所が特定されてしまったこの状況はまずいだろう。
というわけで、ここは俺が残るからお前らは脱出しろ!と急かされて私と博士は哀さんの眠る車に乗り込む。うん!さっさと立ち去ろう!それでなんで江戸川さんは当たり前のように残るの?
被害者はただ向かい側に車を停めていたというだけの何の関係性もない人で、自分は犯行可能なわけでもない子供(の姿)で、第一発見者も別の人だというのに、なんて見事な野次馬根性なんだ。
まあ、そこはもうどうでもいいよ。私には関係ないし、と思って出口へ向かったのだが、駆け付けた警察により、現場となった地下駐車場からの脱出は不可能となってしまった。

「まずくない?哀さんさっきより辛そうだよ」
「うむ、なんとか哀君だけでも外へ出れんもんかの…」

私の膝枕で眠る哀さんを見ながら話し合う。このままじゃ犯人が捕まるまで出られないだろうが、それっていつ?子供の病気というのはナメてかかれるものじゃない。早く医者に診せて薬飲ませて安静にしないと。
と思って出口は諦め、車を現場の近くまで戻して江戸川さんに相談しにいく。殺人事件でお馴染みの目暮警部と共に通報を受けてやってきた高木刑事に頼んで、パトカーで外まで出るかと話したところで江戸川さんの背後に目立つ外国人女性の姿。

「もしかしたら奴らが外で待ち伏せているかもしんねーから…」
「奴らって誰ですかー?」

そうジョディ先生に声を掛けられて、驚く江戸川さん。すぐそこまで来ていたのに全く気が付かなかったようだ。それだけ江戸川さんが焦っているのか、ジョディ先生が忍びの者なのか。どっちだ?
もしかしたら後者かもしれない。何故なら江戸川さんが質問に答えずに無理やり話題転換し、蘭ちゃんの後ろから後部座席の私と哀ちゃんをのぞき込んできた先生の手を引っ張ると半ば強引にこの場から連れ去ったからだ。
ジョディ先生、忍びの者説を唱え、一人納得していると博士がどこかへ電話をし始めた。黙って聞いているとどうやら電話の相手は先日から帝丹高校の校医を務めている新出医院の新出先生(私も中学の内科検診で顔を見たことがある)のようだ。
検診くらいでしか関わりはないものの新出先生は帝丹中の女子の間でもちょっとした人気者だった。あの先生かっこいいよね、でもちょっと年上かもー!が皆からの評価である。25歳はそりゃ年上だよねー。

新出先生の提案で私と博士と哀さんは乗ってきた車を置いて、地下駐車場から脱出した。警察と面識のある私達が病気の哀さんを抱えて頼み込めば特別に外に出してもらえるだろう、と新出先生の言った通りに事は運んだ。まあ、私達が犯人の可能性って限りなく低いし。
現場にある停めてある車を動かすわけにはいかないので、親切な刑事さんがパトカーで私達を送ってくれる……予定だったのだが、パトカーが来る前にカッコいい車に乗った忍びの者が通り掛かった。

「Hi!Dr.阿笠、お帰りですかー?」
「ジョディ先生!?い、いつの間に外に…?」

いやマジでいつの間に?
ジョディ先生は困惑する博士に「急用で出てきましたー!」とにこやかに言うが、ほんのついさっきまで駐車場にいたじゃん。急用って、それが本当だとしてもこんなタイミングで現れる?
つーかなんで車乗ってんだ、と思ったら彼女は東都デパートではなく別の駐車場に停めていたらしい。
ジョディ先生は博士が抱える哀さんを見て首を傾げる。鈍い博士が状況を説明すると「大変!!それなら私が送りまーす!」と後からやってきた刑事さんに話を通して「yes」と言う前にジョディ先生の車に押し込められた。急用は…?


***


「フルーツいっぱいいっぱい切りましたー!風邪にはビタミンCが一番ですよー!」

やっぱり怪しい、怪しいぞ、この先生。
フルーツ盛りを持って騒がしく台所から戻ってきたジョディ先生に、新出先生は「やっと眠ったところだから…」と哀さんを見ながら口元で指を立てる。
車で博士の家まで送ってもらい、ほぼ同時に新出先生もやって来て、哀さんは無事に診てもらうことができたのだが、なんでまだジョディ先生はいるの?

「ジョディ先生、そういえば急用は?」
「Ah〜、それ私の勘違いでした」

え、ええ〜〜?そんなんあり〜〜?
誰も聞かないので、意を決して突っ込んでみればそんな回答。ドジっちゃった、みたいな顔をするな。
お茶目な感じだけど正直あまり抜けてる人には見えないし、何より江戸川さんも警戒しているようだった。やっぱりこの人忍びの者じゃないかな。
問題はどこのお抱えかってことだ。うーん、バットだったら嫌だな〜〜、と考える私の目の前に、ずいっとフルーツ盛りの器が差し出された。

「どうぞ、さっちゃん!フルーツは美容にもいいからもっともっとキュートになりますよー!」
「あ、ありがとう……ございます」

動揺しつつ器を受け取る。怪しいけど良い人っぽいからなぁ。正義の忍びの者かなぁ。

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