探偵甲子園2

結局誰がどこの代表とか具体的には何も解決していないが、なんか色々なあなあになって夕食まで部屋で待機することになった。流石偽番組(仮)である。
しかしここでも問題が浮上する。各自に割り当てられた個室があるのだが、宿泊準備が整っている部屋は当然ながら参加予定だった4人分しかない。
他にも部屋はあるものの元々普段は使われていないロッジのため、埃を被っていて使い物にならないのだ。帰るにしても私達を乗せてきた船は戻ってしまったし、進行役のタレントや番組スタッフを乗せた船は明日にならないとやってこない。
そのため予定外の参加者である私と江戸川さんは今すぐ大掃除を始めるか、誰かの部屋に泊めてもらうかのどちらかとなる。
「まあ、坊やは服部君の部屋に泊めてもらうとして…」と槌尾さんがこちらを見る。

「私も別に服部先輩と同じ部屋でいいですよ」
「だ、ダメダメ!そんなの!」

私の発言に真っ先に反応したのは江戸川さんだった。慌てた様子で「新一兄ちゃんが怒るよ!」と続ける。新一兄ちゃんが怒ってるんでダメみたい。
服部先輩は「三人じゃ狭いわな」と頷いていた。部屋がもう少し広ければ雑魚寝でOKだったらしい。私が言うのも何だけどこの人精神年齢小学生だよね。

「じゃあ先輩代わりに出てってよ」
「なんでやねん」
「私と江戸川さんのこと乗せたのは先輩なんだから責任取ってもらわないと」
「いいんじゃないそれで」

珍しく江戸川さんが私の意見に同調してくれた。バーロに裏切られた服部先輩は「うっ…」と言葉に詰まると事件の推理並に真剣な顔で悩み始めた。一応責任は感じているらしい。まあ、一番責任があるのは確認もせずに私の乗船を許可した槌尾さんだけど。
流石にディレクターを部屋から追い出すわけにはいかないよな、と悩んでいるとそれまで黙って話を聞いていた越水先輩に声を掛けられる。

「なら君はボクの部屋においでよ」
「いいんですか?お願いします」
「え?いや、それはどうかと思いますが…」
「そ、そうだよ!ならやっぱり平次兄ちゃんと僕と三人部屋にしよう!」
「せやからあの部屋に三人は無理やて…」
「平次兄ちゃんちょっと黙って」

頭を下げた私に白馬先輩と江戸川さんが動揺していた。なんで?だって越水先輩って女の人でしょ?
初対面だから厚かましいかと思って口にしなかったけど、女同士で同室になるのが一番だ。向こうから言ってくれたのだから、この誘いに乗るしかないだろう。
どうやら他の皆は先輩を男だと思っているらしい。確かにボーイッシュだし、一人称はボクだけど声も高いし、雰囲気的にも体型的にも間違いようがないと思うんだが、意外と探偵って抜けてるんだな。こりゃ私もイイ線いけるんじゃないの?

部屋も決まり、甲谷さんが布団を用意しましょうかと言ってくれたが越水先輩が「ボク達一緒にベッドで寝るから大丈夫」と断った。私寝相悪いけど落ちないかな。
なんて心配しながら部屋に入って真っ先に目につくのはベッドでも机でもなく隅に置かれたラベンダーの花だった。ラベンダーの香りって強いからすぐわかるんだよね。そして、その横には小さな工具箱。何のために置かれているのだろうか?

「ラベンダーってボクちょっと苦手なんだよね」

鉢植えを一瞥した越水先輩が上着を脱ぎながら言う。私もあんまり得意ではないので頷いた。
先輩が備え付けの小さなクローゼットからハンガーを取り出すのを見て、私も持ってきていた鞄を開けた。中には中学の制服。服部先輩が持ってこいと言ってきたので渋々入れたもののこのままではシワになってしまう。
掛けさせてもらおうと取り出せば、それを見た越水先輩が明るく言った。

「へぇー、セーラー服なんだ。ボクとお揃いだね、ほら!」
「え……せ、先輩も制服持ってきてるんですか?」
「え?そりゃそうだよ。探偵甲子園っぽい服装で参加って言われてたんだから」

あのオジさんにさ、と続けられてようやく服部先輩が言っていた持ち物について理解した。
そうか、だから制服持ってこいって言ったのか。てっきりあの人が変態なのかと思ってた。そういうマニアックな趣味があるのかと。
となると先程別れる前に槌尾さんが言っていた「夕食には探偵甲子園っぽい格好で集合」というのも制服着用で、という意味だったのか。それならそうと言ってくれないと私みたいな駆け出しの素人探偵とやらには通じないんですよ??
さっさと着替えようとすっかり掛ける意味の無くなった制服を広げた。

***

トイレのために部屋を出て歩いていると途中、制服姿の服部先輩達と遭遇した。夕食の支度が済んだらしくダイニングに集まるよう甲谷さんが皆を呼びに回っているそうだ。

「アイツとは仲良うやっとるか?」
「うん、夜は枕投げするって」
「なんや遊び気分やな」

遊びに行かへん?って誘ったくせに。

「君一人かい?彼女は先にダイニングへ?」
「まだ部屋にいますよ」

時津先輩に尋ねられ、部屋の方を振り返って示しながら答えた。
ただ、越水先輩の学校は規則に厳しいらしく支度に手間取っているのでまだ準備は出来ていないかもしれない、とだけ伝えておく。
服部先輩が不思議そうにしているのを横目に目的地のトイレへ向かった。

初めての場所なので道順がよく分からなかったが、少し前にロッジ内を探索しに行っていた越水先輩が描いてくれた地図を頼りに進めばなんとか見つかった。
古い建物なのでトイレはちょっとしたお化け屋敷だった。日が落ちているのも良い演出だ。次は誰かに一緒に行ってもらおう。

さて、お待ちかねの夕食だと私がダイニングに着くのと越水先輩を加えた一団がやってきたのはほぼ同時だった。
このロッジにいる全員が勢揃いかと思いきや、槌尾さんがいない。
甲谷さんの話では部屋に声をかけに行った時は何の返事もなかったという。あれれ〜おかしいぞ〜〜?

ということで皆で槌尾さんの部屋へ迎えに行くと相変わらず返事はない上にドアノブには血が付着していた。
そこからの服部先輩の行動の早いこと早いこと。合鍵がないと分かるや否や体当たりでドアを破ったのだ。一応江戸川さんも手伝っていたが小1のフォローなんてたかが知れてるので殆ど服部先輩一人の力だろう。
バーロの法則でいつもなら中にいる人は死んでいるが、今回は特別に槌尾さんは縛られているだけだった。逃れられるとは運が良い。

その様子を見た甲谷さんが「探偵甲子園第一問」と発言したことで空気が変わった。これは番組側から探偵達への問題らしく密室の謎を解き明かした者は二回戦進出となるそうだ。戦いは既に始まっていた。

やだ…ハンター試験みたいな始まり方やめてほしい…、と呑気に考えていたのは私だけで、皆は"ついで"というくらい軽いノリで槌尾さんの正体について追求し始めた。
ここに来るまでに彼が偽のテレビディレクターだという根拠を各々が掴んでいたようだ。なんだなんだ、マジで偽者だったのかあの人。
まあ、番組自体が盛大なドッキリなのか彼だけが偽者なのかはまだわからない。いまいち内情がはっきりしないので、とりあえずは番組の流れに乗って一回戦となる密室の謎を解くことになった。
私の顔のモザイク処理大丈夫かしら、と不安に思っていると時津先輩が「悪いけど小生は一抜けさせてもらうよ」と静かに宣言した。

「分かっちゃったんだなー…この密室トリック」

な、なんやて時津。

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