工藤家集合

事件はとある日曜日の夜に起きた。

「新ちゃん、さっちゃん、たっだいまー!」
「いやー、やっぱり我が家はいいなー」

誰もいないからと思ってリビングのテレビでポップコーン片手に大好きなめるちゃんを大音量で観ていたら、お父さんとお母さんが帰ってきた。えー、今日帰ってくるなんて聞いてないんですけどー!?
やべ、と慌てて音量を下げるが当然のように二人にも聞こえていたらしく、玄関から真っ直ぐやってきた母に「音が大きい!」と注意された。

「ご近所さんに迷惑でしょ!」
「あれ?新一はどうした?部屋かな」
「江戸川さんなら蘭ちゃんの家にいるよ」
「江戸川さん?誰?」

あっ、そういえば二人に失踪のこと教えるの忘れてた。
荷物と沢山のお土産を置く二人を見ながら、簡潔に分かりやすく伝えるべく考える。バット、黒ずくめ、江戸川、バット、コナン、バット。

「あのなんか…お兄ちゃんバットにやられて江戸川になったんだよね」
「え?ど、どういうことなの?」
「ハハ、なんだバットで殴られて江戸川に棄てられたのか?」
「惜しい」
「惜しい!?」

バットは合ってる。
とりあえず私では上手く説明できないので急遽三人で隣の博士の家へ行き、詳しい説明をお願いした。流石の私も日曜の夜にいきなり押しかけて丸投げするのは申し訳ないと思ったが、これが一番早い。
博士との話はかなり遅くまで掛かり、待っていても全く終わる気配がないので睡魔に勝てず先に家に帰って眠ってしまった。めっちゃ他人事みたいな感じだが明日学校だし。

****

翌日、目が覚めると二人とも帰って来ていて、テーブルには朝食が用意されていた。おはよう、と挨拶を交わしてから席に着く。
しかし、いつまで家にいるのかなこの二人。学校サボれないじゃん。
ジャムを塗ったトーストを齧りながらこれからの学校生活について考えていると母がお茶を飲んで一呼吸空けてから言った。

「にしても日本も物騒になったものね。さっちゃん、ママ達今日ちょっと出掛けてくるから学校が終わったら荷造りして待ってなさい」
「え?荷造り?」
「ああ、新一も連れて外国で暮らそう。阿笠博士もその方が良いと賛成しているよ」
「ええ……」

笑顔で言った二人に固まる。そんな、英語出来ないのに。
日本語も儘ならない私が他の国の言葉なんて喋れると思っているのか。舐めんなよ。
しかしバットの使い手がいるような国に子供を残していけない、と彼らは考えたようでこの話はもう決定事項らしい。
この人達は決断してからの行動がとにかく早く「学校でお友達にお別れを言っておきなさい」と言いだした。今日が最後の登校日なんです??

呆気にとられたが、時間になったので準備をして、久しぶりに両親に見送られながら家を出た。
角を曲がったところで、学校とは別方向へ歩を進める。
今日で最後なら、もう行かなくていいと思うんだ。明日から通わないんだし、友達への挨拶は…電話でいいだろう。てか、クラスの皆も急に言われても困るだろうし。
お父さん達は出掛けると言っていたので、家に担任から連絡がいっても問題ない。
まずはポアロでゆっくりお茶を飲んで、ゲームセンターに行って、映画でも見て、買い物でもしよう。


一日楽しく優雅に過ごし、学校が終わる時間に家に帰ると案の定二人は外出中で誰もいなかった。
担任から留守電が来ていたので二人が帰ってくる前に隠滅しておく。残念だったな。もう高飛びするんだよ。

そう思ってのんびり荷造りをしていたのだが、夜になって二人が帰ってくるとなんと江戸川さんは蘭ちゃんの所に残ることになったと教えられた。
はー!?ずるい!じゃあ私も残るし!家族全員いなくなるなら仲間外れは嫌だから着いていこうと思ったけど江戸川さんが残るなら私もいいじゃん!

ということで散々揉めたが、何か危ないことがあったら即向こうへ行くという条件で私もこっちに残る許可を頂いた。
良かった、私はまだこっちで気ままなサボりスローライフを続けられるようだ。

次の日、学校で無断欠席をしたことについて怒られたのは言うまでもない。

pumps