永遠にアムロ2

安室さんとの対決の翌日、授業終わりに急いで帝丹小学校へ向かい、校門で江戸川さんを拉致した。追い掛けてくる少年探偵団を撒き、少し離れた公園まで連れて行く。周りに知り合いがいないことを確認してから、何事かと困惑してる江戸川さんに向かって本題を切り出した。

「ポアロにあんなムカつく人がいるって、なんで教えてくれなかったの!?」
「いや、誰のことだよ」
「安室さん!!」
「そんなムカつく人だったか?」

江戸川さんは不思議そうな顔で言った。ムカつかないの!?と聞いたら「変な人だとは思うけど」と返ってきた。
おじさんに弟子入りするためポアロでバイトを始めるという謎の行動力を見せ付けられて“なんだこいつ”とは思ってるらしい。

「ま、確かに?安室さんって背は高いし、顔も世良さんには遠く及ばないものの整ってるし、物腰も柔らかいから、どちらかといえば女子供に好かれるタイプの人なんだろうけど?残念でした!私は私に正論言ってくる人は敵と見なします!」
「じゃあこの世の人間全員そうじゃねーか」

工藤新一が犯人を言い当てた時のようにビシッと指を差す私に、江戸川さんは「勝手に目の敵にされて安室さんもいい迷惑だろーよ」と言った。私の方が憩いの場を侵略されて迷惑してるんだが……?

「そもそも正論って何言われたんだよ」
「学校行けって言われた!」
「学校行けよ」

江戸川さんは昨日のおじさんと全く同じ事を言うと「何かと思ったら……」といかにも下らねぇ〜と言いたげな顔をした。

「つーかそんなの前から皆言ってんじゃねーか。博士もオレもおっちゃんも蘭も、……あと昴さんもか?」
「付き合いの長さが違うじゃん!」
「昴さんは短いだろ」
「昴さんは私のお母さんだからいいの!」
「昴さんはお前の母さんじゃねーよ」

江戸川さんのツッコミはとりあえず無視する。
とにかく安室さんはただの喫茶店の人じゃん。ただの喫茶店でバイトしてる探偵じゃん?というかよく考えるとこの街探偵多いな。ぷよ○よだったら消えてるぞ。

「正論言ってくるっつーか踏み込んでくる奴が嫌なんだろお前は……」
「そうだよ。安室さんは私の心に土足で踏み込んできたから許せない」
「学校行けって言っただけなのに」

その一言が私は許せなかったんだ。ぐっ、と拳を強く握る。昨日の悔しさを思い出して眉間にシワが寄る。

「私のことなんか何も知らないくせに、最初からただのサボりだって決めつけて……!」
「実際なんでその日は休んでたんだよ?」
「そんなもんめんどくさいからだよ。悪い?」
「悪いに決まってんだろ」

江戸川さんのツッコミはとりあえず無視する。
とにかく安室さんは敵だ。私は楽しい気分を台無しにしたあの人を絶対に許さないから。
不機嫌に唸る私に、江戸川さんは呆れ顔で言った。

「どーでもいいけど、お前あんま失礼なこと言うなよ」
「……は?江戸川さん、安室さんの味方してんの!?」
「味方とかじゃなくて、オメーももう中三だろ?目上の人と話す時は言葉遣いに気をつけろって言ってんだよ」

吃驚した……急に凄いまともなこと言い出した……。
驚いて「お、おう……」と後退る。でも確かに「ハゲって寒そう」と言ってるだけなのに天使みたいだと微笑ましく見守ってもらえた幼き頃とは違うのだ。
今でも見た目は天使だが、言動は年相応のものを求められる。中学生は、大人に対してクソ生意気な口を利いても笑って流してもらえるような歳じゃない。
江戸川さんの言いたいことが分かって渋々頷く。

「ちゃんと敬語つかってるもん……」
「なら良いけどよ」
「邪魔だからシフト変えてくださいって言っただけだもん」
「やめろやめろ」

そう言って江戸川さんはため息をついた後、ちら、と腕時計(麻酔針が出てくる凶悪なやつ)を見た。

「話が済んだならオレもう行くぜ」
「ごめん、用あったんだ」
「安室さんにな」
「なんで!?」
「この間のお礼言いに行く。色々助けてもらったからよ」

それは江戸川さんが殺人犯に誘拐された例の事件のことだった。どうやら私があの時見た謎の車は、安室さんの愛車だったらしい。

「今日って絶対安室さんいるの?」
「さあ?シフト把握してるわけじゃねーし、いないなら別の日にするけど」
「……私も一緒に行く!」

散々愚痴を言っていたくせに同行する私に、江戸川さんは驚いていた。
だっていなければケーキセット頼めるじゃん!優雅にケーキ食べれるじゃん!

***


「安室さん、本当にありがとね」
「どういたしまして」

いや、普通にいるわ。
小人のバーロに目線を合わせて屈んでいるバイトのデカい人を見て一気にテンションが下がる。探偵業の片手間にやっているようなので、今日はいない可能性が高いと思ったが連勤だった。
がっかりする私の前でバーロは安室さんの「怪我が無くて何より」という言葉に「安室さん達のおかげだよ」とか言ってた。は?もう高二なんだから敬語使えよ。
話を終えた安室さんは私を見て早希子ちゃん、と名を呼んだ。

「なんですか?今日は学校行きましたけど!」
「うん、偉い偉い!」
「ケーキセットを二つ!!ガトーショコラとフルーツタルト、飲み物はどっちもアイスティー!ミルクで!注文は以上です!」
「かしこまりました」

勢いで注文を終え、そのまま二人がけのテーブル席に腰掛ける。江戸川さんはなんだこれ、みたいな顔で見ていたが何も言わずに遅れてやってきた。せっかく来たんだからケーキ食ってやる!
テーブル席で拗ねていたら安室さんの手によってケーキセットはすぐに運ばれてきた。江戸川さんがガムシロップを二つ取って渡してくれたのでお礼を言って受け取る。

「早希子ちゃんはどうして学校に行きたくないんですか?」
「え……別に行きたくないわけじゃないですけど……」

突然安室さんが学校の先生のような質問をしてきたので動揺しつつそう答えると江戸川さんが「じゃあ行けよ」みたいな顔で私を見た。

「なんか……授業中にお腹が鳴って恥ずかしいから……」
「これ嘘だよ」
「嘘じゃないもん!」
「早希子姉ちゃんは面倒だからサボってるだけだよ」
「お腹鳴って恥ずかしいのは本当だもん!」

私達のやり取りに安室さんは「二人は仲が良いんですねぇ」と言った。めっちゃ仲悪いけど。視力大丈夫?

「ここまで一緒に来たし、やり取りも遠慮がないし、あとは……ほら、さっきもコナン君が早希子ちゃんに聞く前にガムシロップを二つ渡したでしょう?」

急に何を言い出すかと思ったら、安室さんは私のアイスティーの側に転がっている空のガムシロップを見た。

「好みによるけど普通は一つ……けど早希子ちゃんは気にせず二つとも入れている。それはお互いの嗜好を把握しているということ……」
「…………………」

や、やべ……。
まさかそんなことを指摘されるとは思わず私達は黙ってしまった。これ金○一少年が隠された共犯関係見抜いた時と同じ展開じゃん。マガジンのやつじゃん。
なんて答えたら良いか分からず、江戸川さんを見る。場数を踏んでる江戸川さんはすぐに態勢を立て直し「うん!」と狂気を感じるぶりっ子声を出した。

「とーっても仲良しなんだ!ね、早希子ねーちゃん!」
「えっ、うん。私達バディだから……」
「バディ?」
「死ぬ時は一緒だぜ、って約束したの」
「…………………」
「…………………」
「…………………」

重すぎてまた空気死んだ。

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