シン・ゴメラ

私が幼稚園の頃から変わらず人気のある怪獣映画ゴメラ。私はあまり好きではないが、この手の怪獣が暴れ回る映画は今も昔も子供を中心に人気で、小嶋先輩らもゴメラも大ファンだと言う。
そのゴメラの生みの親である監督が博士の友人らしく、監督の厚意で大宝撮影所にて昔から人気の映画ゴメラの撮影を見学させてもらえることになったらしい。当然お子様達は大喜び。
へー、よかったねと思っていたらお子様達に「さっちゃんも一緒に行こっ!」「楽しいですよ!」「こんなチャンスねーぞ!」と囲まれたため一切ゴメラに興味がない私も見学ツアーに参加することになった。

「てか、なんで江戸川さんは江戸川さんのままなの?お酒飲んでないの?」
「飲んだよ…けどダメだったんだよ」

セットを見てはしゃいでいる小嶋先輩達を横目に、一歩引いたところで見学している江戸川さんがため息交じりにそう言った。
お酒を飲んだが元には戻らなかったらしい。次に会う時は戻っているかと思っていたのでがっかりである。

「つーかバレた」
「え?何が」
「服部に俺の正体が」
「マジかよ」

はえーなオイ。
この前の外交官宅での復活は無理矢理とは言え上手く誤魔化せたのに、ここひと月ほどの間に何があったというのか。
江戸川さんの話によるとつい先日ホームズファンによるホームズファンのためのホームズファンツアーに参加したらしいのだが、そこに服部先輩も来ていて、殺人事件とかなんか色々あって最終的に「お前工藤やろ…?」とバレたそうだ。
きっといつも通りちょろちょろして余計なことをしまくった結果怪しまれたんだろう。正直外交官の時にバレてもおかしくなかった。
あの時は風邪でいつもより動きが鈍っていたから何とかなっただけで万全の体調で臨んでいたら普通に「お前工藤やろ」イベントが起きていたと思う。そのくらい服部先輩は鋭いというか、江戸川さんが事件気になり過ぎて最早隠す気ないというか。
とりあえず服部先輩も我々の仲間?になったわけだ。
私が一人真面目(嘘)に学校行ってる間に話が進んでいるな……てかこいつ旅行行きすぎじゃない?そして当然のように事件起こり過ぎじゃない?

「すげー!怪獣がいっぱいだ!」

江戸川さんのあまりに安定した事件遭遇率の高さについて真剣に悩む私をよそに、ゴメラは実在すると信じている純粋なお子様達は案内された第一倉庫内の着ぐるみを見てきゃっきゃっと盛り上がっていた。
松井さんという親切な俳優さんが私達(というか子供達)の面倒を見てくれることになり、撮影所の中を回っているのだが、やってきた第一倉庫はゴメラに出てくる怪獣の着ぐるみばかり。
あー、やっぱり私はゴメラ好きじゃない。昔から思っていたが、敵キャラの造形が怖いのだ。
松井さんに軽く脅かされたあゆみんが死体でも見たのかと思うくらいの悲鳴を上げたので横にいた私も一緒になってびびってしまった。心臓に悪い。
後ずさるとこれまた怖い怪獣の着ぐるみにぶつかり、思わず「ひえ…」と情けない声が漏れる。胸を押さえてドキドキしてるとその場面をばっちり目撃した円谷ミッチーに「さっちゃんさん、怖いんですか?」と聞かれた。

「いや、別にそんなことはないようなあるようなないようなあるかな」
「え、今なんて?」
「なんだよ、こえーのか?まあ、お前弱っちそうだもんな」
「大丈夫だよさっちゃん。ゴメラがやっつけてくれるもん」
「さいですか…」

あゆみんに優しくなだめられた。何この恥ずかしいかごめかごめみたいなフォーメーション。三人で私を囲むな。
半笑いの江戸川さんをじと目で見ると松井さんが笑ってゴメラの小道具を取りに行くと言って部屋を出た。

扉が閉まるのを確認してからあゆみんがしょんぼりした顔で「でもゴメラの映画、本当に終わっちゃうのかな」と寂しげに呟いた。
先程この映画のプロデューサーの方が言っていたのだが、10年続いたゴメラ映画も今年で最後になるらしい。もう時代じゃない、というのが理由の一つみたいだがそんなものだろうか?映画業界は厳しいなあ。
なんて話をしていたら隣の部屋から松井さんの悲鳴が聞こえてきた。

***

ゴメラが人刺して投身自殺した…。
突如やってきた凄まじい展開に呆気にとられる私のことなど気にも留めず、江戸川さんは通報によって駆け付けた目暮警部に自分達が目撃した一部始終を説明していた。
松井さんの悲鳴を聞いて隣の部屋へ行ったら、松井さんがゴメラ(着ぐるみ)に足を刺されていて、そのまま逃げたというので追いかけたらスタジオでプロデューサーを刺殺し、また逃げたので後を追うと屋上に向かっていき…。

「あの屋上に追い詰めた!と思ったんだけど、屋上には誰も居なくて、下を見たらあの着ぐるみが落ちてて…」
「中には誰もいなかったというわけか…。しかし凶器の刃物も落ちていたし、犯人が消えるわけないんだが……ちゃんと追いかけたのかね?どうだった、早希子君?」
「いや、私は途中で脱落したので知りません」
「早希子姉ちゃんは階段の途中で『私に構わず行けー!』って言って座り込んでたから屋上まで行ってないよ」
「あ、そう…」

小学1年生の証言など当てにならない、と思っているのか目暮警部は追跡グループ最年長の私に確認を取ったが、残念!私は階段途中でへばってました!帰宅部の体力を舐めないでほしい。
初めから私に一切期待をしていない江戸川さんは最後まで一緒に追いかけていた小嶋先輩達に「皆も見たよな!」と聞くが、三人はゴメラが屋上から落ちて死んでしまった…と本気で泣いていてそれどころじゃなかった。小1ってこんなに純粋なの?眩しくて浄化されそう。

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