シン・ゴメラ2

私は今まで、あまりお兄ちゃんと行動を共にすることはなかった。
両親が外国へ移住してからは家族旅行の機会もなかったし、そもそも家で顔を合わせるのに外でも一緒にいる必要はないと思っていたので、基本的には別行動。
だから“私の”事件遭遇率は低かった。殺人事件なんて新聞やテレビで見かける程度の非日常的なもの。
お兄ちゃんが異常な数の事件を解決していく姿に「実は有名になりたくて自分で起こしているのでは…」と疑うくらいずっと殺人とは無縁の生活を送ってきた。

お兄ちゃんが江戸川さんになってからは、秘密を共有しているため“外”で会う機会が増えた。
その結果が外交官にゴメラだ。こんなに短いスパンで人が死ぬ現場に居合わせることある?しかも殺人だし、トリック使っててすんなり逮捕できないし。仕事中の目暮警部とこんなに気軽に会えるなんて知らなかったわ。
蘭ちゃんもおじさんも園子ちゃんも小嶋先輩達も皆お兄ちゃんと一緒にいると事件に遭遇する。
今になって私はようやく気が付いた。バーロ=江戸川は、私が思っている以上に相当やばい奴だと。

怯える私の横で江戸川さんは元気に現場を荒らしていた。手慣れ過ぎててやばい。
関係者たちから話を聞くと暫し悩んだ後、黙ってスタジオ外へ出てしまった。奴を一人にさせておくと第二の犠牲者が出そうでなんだか怖いので着いて行く。外交官の時と違って元気なので、とにかく積極的に動く。
江戸川さんは下を見て、時々立ち止まりながら屋上へと続く道を辿っていた。どうやらゴメラの足取りを再確認しているようだ。

「ねえ、さっちゃん。皆でゴメラのお墓作らない?」
「え?」

ふいに服の裾を引っ張られた。振り返ると涙目のあゆみんと小嶋先輩とミッチーがいた。

「三人で話していたんです。このままじゃゴメラも成仏できないだろうって…」
「せめて埋めてやんねーとな…。だから早希子も手伝ってくれよ」
「ああ、うん、そうだね。じゃあ線香も買ってくるよ」
「ありがとう、さっちゃん…!」

でもゴメラの墓か…結構作るの大変そうだな…。
という私の心の声が聞こえたのか「コナン君にも手伝ってもらおう」とあゆみんが言った。
現場検証中の彼にあゆみんが声をかけると気が散ったのか江戸川さんは「うるせえ!今はそれどころじゃねーんだよ!」と怒鳴りつけた。うわ、とんでもない奴だ。
小1女児にキレる姿に普通に引いてると小嶋先輩とミッチーが言った言葉で何か思いついたのか、窓を開けて下で倒れているゴメラの着ぐるみを見て笑いだし、そのまま颯爽と駆けていった。当然のように全員ドン引きである。こらアカン…。

「なんだよあいつ…」
「怒ったり、笑ったり…」
「へんなの…」
「い、いやあの江戸川さんはね、事件を前にすると精神が不安定になるの。悪気はないから優しくしてあげてね。もうなんか病気みたいなもんだから」

慌てて彼の奇行をフォローする。三人は顔を見合わせた後「わかった!」と返事をしてくれた。
よかった。もう少しで江戸川さんが小学校で孤立するところだったぜ。

***

満足いくまで現場を荒らし続けた江戸川さんは、無事トリックと犯人の正体を突き止めることができた。
しかし問題が一つ。今日はおじさんという腹話術の人形役が不在のため、折角の推理を警察に伝える術がないのだ。
黒づくめとかバットとか彼を縛る色々な制約があるので自分で謎解きを披露するわけにはいかない。しかも今日は麻酔銃を持ってくるのを忘れたらしい。

「なあ、早希子。俺が後ろでお前の声出すから目暮警部に犯人教えてやってくれよ」
「えー!やだ絶対やだ!!」
「そんな拒否するほどのことか…?」

ややショックを受けたような顔をする江戸川さんは何がまずいのか分かっていないらしい。

「だってここでうっかり受け入れたら今後も事件が起きた時おじさんがいない度に私が麻酔針打たれるんでしょ。死んじゃうよ!」
「オメーには打たねーから大丈夫だって。ちょっと口パクしてもらうだけだから」
「そんな軽いノリでぽんぽん名探偵生み出すのやめなよ。近場でやると後で後悔するよ」
「名探偵ってお前、俺の推理がホームズ並みって、褒めても何もでねーぞ!」
「今照れるところじゃねーんだよ」

しかも推理がホームズ並みとまでは言ってない。
そういう自惚れ屋な部分が好きではないので断固拒否して、結局探偵役は博士になった。
けれど麻酔針を使わずに本人が覚醒している状態で行う腹話術が上手く行くわけはなく、江戸川さんの推理に驚いた博士が「なるほど!」と言ったり「え?彼が犯人なわけなかろう!」とか普通に喋り出すので見ててひやひやした。なんか博士が二重人格の頭おかしい人みたいな扱いになってきている。
そしていよいよ犯人は…というところでお子様達の邪魔が入った。変成器で博士の声を出す江戸川さんを不審そうに見る三人。どう見ても怪しいから仕方がないね。
どうにかしろ、と江戸川さんが目で訴えてきたので「ゴメラの墓を作ろうね」と言って三人を外に連れ出した。

というわけで私は推理ショーの間ずっと小嶋先輩達とゴメラの墓を作っていた。血の付いたゴメラの着ぐるみは証拠品として押収されてしまうので、墓の中はからっぽだが気持ちがあればいいだろう細かいことは。
買ってきた線香とその辺に咲いている花を供え、手を合わせる私達に警察関係者はざわついていた。見せもんじゃねーぞ。

「これでゴメラもゆっくり眠れますね。早すぎる死でした…」
「本当にね…でもゴメラはあゆみ達の中で生きてるんだよ。ね、さっちゃん」
「はい、ゴメラは永久に不滅です」
「それは長嶋だろ」

小嶋先輩よく知ってるな。
長嶋の名言でしめ、ゴメラの埋葬は終わった。悲しい…事件だったね…。

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