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結論から言ってしまえばあの演習は合格。誰も落ちなかった。

私達の作戦はこうだ。まず私が先生の気を引き、イタチが背後から隙をつく。が、相手は上忍。そんなので上手く行くはずがない。
結局二対一になったところで、私とイタチが同時にクナイを投げる。イタチは先生に当てるつもりで、私は先生の足元へ飛ばした。
先生がイタチのクナイを弾いた時、足元へ届いた私のクナイがてっちゃんに姿を変える。つまり、てっちゃんが変化の術でクナイになっていて私がそれを使ったということだ。誰かが漫画で使っていた方法だと思うんだけど誰だったか全然思い出せない。
いきなりクナイが人に戻れば上忍でも一瞬反応が遅れるだろう。何しろイタチの相手もしているのだ。
不意をついたてっちゃんが先生の腰に提げられた鈴へ手を伸ばしたが流石に取ることは出来ずに掠めただけで、彼は腹を蹴られて吹っ飛ばされた。そこで演習は終わった。
この作戦へのシダ先生の評価は「普通」だった。てっちゃんがぎゃあぎゃあ騒いでいたが、隠された課題である『協力』をクリアしていたので合格はさせてもらったのだし、普通で十分じゃないか。むしろこれから忍になってシダ先生に師事してそこを伸ばしてもらうんだろう。

そんなわけで私は下忍になった。
庇護下にあったアカデミー生から木ノ葉隠れに所属する忍者になった。元女子高生の私が忍者ね。
忍者と言えど下忍。その下忍の中でもまだまだひよっこなので、私達は任務を受けつつ担当上忍であるシダ先生から忍術や体術の指導をしていただく。
てっちゃんはチャクラコントロールが粗いのでその特訓、私は印の組み方と一応幻術についても少しだけ教えてもらった。イタチは特に苦手なものや出来ないものは無いようで、それがまたてっちゃんに対抗心を抱かせた。

***

「お前下忍になったんだって?遅くなったけど、おめでとう」
「ありがとうございます」

慰霊碑の前で今日もまたばったり出会ったイルカ先生(13歳)は、祝いの言葉と共に彼の人柄がよく出た明るい笑顔を見せてくれた。
長らく他人だった私達が、こんな風に言葉を交わすようになったのは半年前のこと。三代目によってお互いの名前まで知ってしまった後も何度も何度も顔を合わせ続けた私達にこれ以上他人のフリなど出来るわけもなく、挨拶から始まり、少しずつ当たり障りのない世間話もするようになっていた。

「下忍生活はどうだ?任務は何回受けた?」
「えーっと、実はまだ一回しか受けてなくて…」
「は?少なくないか、それ」

下忍になって約一ヶ月、にしては任務の数が少ない。私の返答にイルカ先生は不思議そうな顔をした。
忍者の数と任務の数は比例しないので、上忍は勿論だが下忍も下忍なりに忙しい。お手伝い程度で賃金も安いDランク任務は思いの外たくさんあるのだ。
拘束期間も短いものばかりなので、担当上忍との修行の頻度が高かったとしても下忍になりたての頃はとりあえずの経験として数個は引き受ける。なのに、私は一回しか任務を受けていなかった。
そりゃそうだ、うちの班は基本的にCランク任務しか引き受けないのだから。

イモ掘りや子守りなど、里から離れる機会が少なく怪我をする割合も低いDランクと比べて、Cランクは他国への護衛や猛獣の捕獲などある程度の負傷が予想され、遠出する事もありそれなりに時間がかかる。
Dランクより依頼数が少なく、中忍向けの内容のものもあるため下忍の私達が現時点で受けられるCランク任務の数は限られていた。その結果、任務経験はまだ一回というスロースタートを切ることになったわけだ。

「ちょっと色々あって…うちの班、あんまり仲良くないんで皆での修行を優先してるんです」
「ふーん…。まあチームワークは大切だからな」

本当の理由は伏せて話すとイルカ先生は納得してくれた。
うちは特別班だから、なんてわざわざ言わなくてもいいだろう。修行を優先しているのは決して嘘ではないし、うちの班は実際仲が悪い。
いや、悪いと言うか別に仲は良くないって言うか……これ同じ意味か。友達とか仲間と言えるほどお互いを信頼してないってことだ。
あのサバイバル演習に合格したのだって答えを知っていたからで、事前知識が無ければ多分アカデミーに送り返されてた。

そんな私達がDランクをすっ飛ばしていきなり負傷も伴うCランク任務を受けるわけだから、初めての任務は本当に緊張した。ちなみに任務内容は山賊退治である。
ナルトで山賊?と思ったがこの世界に住んでる皆が皆忍者ではないし、戦争の影響からか貧富の差も大きいので山賊がいても別におかしくない。
しかし初任務が対人戦になるとは思っていなかったので不安は大きかった。チームワークがカスって言うのもあるけど、いくら成績が良くても私は所詮アカデミーレベルで実戦経験はない。当たり前だけど演習と実戦は違うのだ。
と、終始緊張していた私とは対照的に普段から喧嘩慣れしているてっちゃんは初任務+山賊狩りに興奮を押さえきれないようだった。彼はとにかく人を襲いたくて仕方がないらしい。

まあ、予想外に山賊は弱かったのだが。
シダ先生が背後で見守る中、そこそこ人数の多い山賊を子供三人でボッコボコにしてしまった。一瞬、私達に自信をつけさせるためにわざと負けてくれたのかと思ったが、本当に弱かった。
今更だが私達は忍者になるために忍術や体術を習ってきたのだ。そりゃ忍者でもなんでもない一般人よりは強くもなる。
自分の力を過信するのも良くないが、過小評価し過ぎるのも考えものかもしれない。
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