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アカデミーを卒業したばかりの下忍はまだまだ未熟な存在なので任務を受けつつ担当上忍の元で修行をするものだが、ちゃんと休みの日も用意されていて毎日集まっているわけではない。その休みも丸一日ゆっくり過ごすよりは鍛練をしている人が殆どだろう。
私もその一人で、久々の休みに家で寝ている気分にも店の手伝いをする気分にもなれず、演習場へ行くことにした。忍としては正解なんだろうが、休日まで鍛練なんてつまらないとも思う。
何て言うか、休日に出来るような趣味がないんだよね。昔に比べてこの世界は娯楽が少ない。

「アザミねえさーん」

人通りの多い道をふらふら歩いていると名前を呼ばれた。
きゃーっと大きな声を出して私の進行方向の先から走ってきた小さな女の子は、片手にクナイを持っていたので思わず二度見してしまった。なんで4歳があんな物騒なもん持ってんの。
結構な勢いでこちらまでやってきた彼女は、クナイの先端を私に向けた状態で抱きつこうとしてきたので慌ててその手からクナイを取り上げた。休日に刺されるなんて困る。

「テンテン、なんでクナイなんて持ってるの?」
「あのね、あたらしいから」
「そっか」

新品はいいよね、と笑顔で言いながら取り上げたクナイを見る。
将来の義理妹のテンテンは「返してー!」と短い腕を精一杯伸ばして頬を膨らませた。

「一人で外に来たの?」
「ううん。キクくんもいるよ」

あっち、とテンテンは自分が来た方向を指差す。目を細めるとずっと向こうの方に大量の荷物を持ったキクくんらしき人がいた。
大荷物に苦労している兄の事など無視して、妹は武器屋に行ってたのと楽しそうに話し出した。テンテンが生まれたばかりの頃、尊敬されるお兄ちゃんになりたがっていたキクくんは彼女がお喋りできるようになってから一度も兄さんと呼ばれていない。
私の呼び方がうつったのかもしれないけど、テンテンは一番上のお兄さんのことはちゃんと「兄さん」と呼ぶらしいのでキクくんは若干舐められているんだと思う。

そのキクくんは私が卒業する少し前にアカデミーを辞めて、忍者になる夢も完全に諦めた。今は本当なら私が行くはずだった普通の学校に通っている。
全部私と結婚して婿として家を継ぐためである。ずきずきと心が痛む。私って、一人の少年の人生を狂わせようとしてるんじゃないかと思った。
けれど彼に対して別に好きなことしていいんだよ、とも言えなかった。それを言うならもっと前だろう。
ようやく声が届くぐらい近くまでやってきたキクくんは、私にくっついているテンテンに向かって「先に行くなよ」と口を尖らせた。

***

同じ班のイタチがまるで彼をそのままコピーしたかのような小さな男の子と歩いていたのを見掛けたのは、キクくんとテンテンの兄妹と別れ再び演習場へと足を進めてすぐのことだった。
イタチが小さいイタチと歩いてる……。吃驚して固まっていると向こうが私に気がつき「アザミさん」と言って近付いてきた。

「修行ですか?」
「まあね。あの…」

ちら、と小イタチに目をやると相手も私をじーっと見ていた。私達が見つめ合っていることに気が付いたイタチは「ああ」と少し笑いながら頷いた。

「弟のサスケです」

へ、へえ。
自分が昔されたのと同じように少し屈んでサスケへ挨拶をすると小さな声で「……こんにちは」と返ってきた。
知らない人に会うのが恥ずかしいのか、イタチの傍でもじもじしながら挨拶をしてきた小さな男の子の姿はそりゃあ可愛い。それを温かい目で見守る兄の姿も可愛い。
だからこの兄弟が将来的にぐれちゃうとは分からなくても仕方がないだろう。
サスケのあのクレイジーな兄貴ってうちはイタチって名前だったのか。カワウソじゃなかった。
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