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螺旋丸ってあまり一般的な術ではなかったようだ。

風遁忍術について学ぼうと自室で忍術書に目を通していて、そんな考えに至った。もう一度最初から最後まで一つ一つ確認していくが、螺旋丸の文字はどこにもない。
この忍術書はシダ先生に借りたものであり、初歩的な術からちょっと聞いたことがないような特殊な術まで数多く記載されていて、秘伝忍術を除けば殆どの術を網羅しているらしい。「スナック菓子を食べなから見るなよ」と注意されたほどの書物だ。

しかし、そこに螺旋丸は載っていなかった。あの超高等忍術がどこにも書いてないなんて、もしや秘伝忍術というか極一部の人の間で伝えられている術なのだろうか。
師弟の間でしか伝わない術もあるとアカデミーの授業で聞いたことがあるし、螺旋丸もそういった扱いなのかも。

シダ先生に聞きたいが、もし本当に師弟間でしか伝来しない術なら先生も知らない可能性が高い。
チャクラコントロールが上手いと言われる私には結構向いてる術だと思っていたのだが、身近に教えてくれる人がいないとなると諦めるしかないのだろうか。
いくら漫画で見たとは言えかなり曖昧な記憶だ。こっそり何度か挑戦してみて分かったが、習得難易度の高いこの術を独学で極めるのはほぼ不可能に近い。修行方法を間違えていても指摘してくれる人がいないのだ。
派生系は無理でもせめてナルトの風遁・螺旋丸だけは…いや、それもちょっと厳しいから性質変化なしで形態変化だけ利用した状態の螺旋丸を…!なんて思っていたがそれすら無理だった。形態変化って超難しいんだけど何これ。

ということで、螺旋丸会得は暫くの間保留になった。代わりに風遁忍術とクナイや忍刀にチャクラを纏わせて強化する形態変化の特訓、拳など一点にチャクラを集中させるコントロール能力の応用について学ぶことにした。
形態変化の地道な特訓は上手くいけば螺旋丸会得にも繋がるし、コントロール能力の応用は非力さをカバーできる。チャクラコントロールはシダ先生にも指導していただけるので、流石にサクラや綱手様ほどの威力にはならないにしても上手くいけば結構な武器になりそうだ。
忍術書を閉じて伸びをする。あれこれ部屋で考えるのはここまでにして外に出ることにした。


「アザミさーん!」

あれ、デジャヴだ。
演習場へと向かう私の名前を誰かが呼んだ。先々週の休みにもこんなことがあった気がする。
立ち止まって辺りを見回し声の主を探すと進行方向の先からバタバタと音を立てて小さな男の子がこちらへ走ってきた。

「南部アザミさーん!」

何故フルネーム。
私の名前を叫ぶ男の子は、誰かと思えばサスケだった。
ちょっと待って、私あの子に名前教えてないんだけど。先々週に初めて会った時以来一度も会ってないのになんでフルネーム呼ばれてんの。
私のすぐ目の前までやってきたサスケ(3歳)はここまで全力で走ってきたようで「疲れた……」と息を切らしていた。
と思えば、ばっと勢いよく顔を上げる。ちょっとだけもじもじした後、先程までの叫びが嘘のように小さな声で私に言った。

「南部アザミさん」
「待って、なんでフルネームで呼ぶの?」
「あのね、店がなくてね」
「無視?」
「店はどこですか?」
「どこの店かな」
「こまものや」

うちだ。この辺で小間物屋と言えばうちしかない。
まさかサスケの口から家の名前が出るとは思わず、驚いていると「お店教えてください」と服の裾を引っ張られた。
一人なの?と聞くとサスケは誇らしげに大きく頷き、「3さい!」と指を三本突き出した。別に年は聞いていないが、とりあえずこの反応から察するに迷子ではないみたいだ。
何をしに行くのか聞いてみるとお母さんに買い物を頼まれたらしい。もう3歳だから一人でも行けるよね、と言われたみたいだ。
ああ、だから年教えてくれたのね。まさかうちの店にはじめてのおつかいをしに来るとは。

ここからそう離れていない我が家へ案内して目当てのものを買ってもらう。そのまま帰らせようとすれば早速うちはの居住区とは真逆の方向に進み始め、なんだか心配だったので途中まで送り届けることにした。
しかしこの子はよく私の顔を覚えていたな。やっぱりサスケだから頭良いのかな。
二人で手を繋いで歩いているとお使いを達成してご機嫌なサスケが「ねえねえ!」と口を開いた。

「南部アザミさんはさ」
「アザミさんでいいから」
「アザミはさー」
「さん付けろよ」

サスケが楽しそうに笑う。もうすっかり私に慣れたようだ。
イタチは年の割に大人びているが、サスケは本当に子供らしかった。いや3歳だから当然だろうけど、漫画のクールなイメージが強いからなんだか違和感がある。

「アザミさんはさー」
「うん、何?」
「アザミさんは………忘れたっ!」
「なるほど」

3歳のサスケってこんなバカなんだ。
いや、3歳ならこれで普通だろうけど私の知ってるサスケはこんなに明るくないし素直じゃないし今みたいに笑わない。
サスケが変わったのはクレイジーなイタチお兄さんが原因のはずなので、この時点ではまだまだ普通の子なのだろう。
イタチがクレイジーになった理由ってなんだろう。見当がつかないのだが、あの礼儀正しい良い子が変わってしまうような出来事がこの先何かあるのだろうか。

「あっ、兄さん!」

意味不明な話をするサスケの相手を適当にしていたら、途中までの予定だったのにいつの間にかうちはの居住区の方まで来ていた。入り口のところにイタチがいて、彼を見つけたサスケが嬉しそうな声を出す。
イタチはほっとした表情をした後に私を見て少し驚き、慌ててこちらにやってきた。

「すみません、アザミさん。サスケが何かご迷惑を…」
「いや、迷惑って言うか私フルネーム連呼されたんだけど何?一体何が起きてたの」
「え?…ああ。すみません。覚えたことを繰り返して言いたくなるらしくて」

言いながら、申し訳なさそうに頭を下げた。
初めて会った日にサスケが私について聞いてきたのでイタチが色々教えた結果『最近覚えたこと』として私のフルネームをひたすら繰り返し続けるようになったらしい。色々教えて顔とフルネームしか覚えなかったのか。
改めてイタチが謝ってきたが、3歳って感じがして可愛いのでまあ良いだろう。別に気にしないで、と言えば何故かサスケが「わかった!」と返事をした。何がわかったんだこいつは。
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