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結局私達が中忍試験を受験できたのは下忍生活二年目、私とてっちゃんが14歳、イタチが10歳の年のことだった。
シダ先生は志願書と一緒に「良い経験になるだろう」という一言をくれただけで、結果はあまり期待していないようだ。イタチはどうだか知らないが。

そんなわけで試験当日。一次試験は懐かしのアカデミーで行われるらしい。三回目の増築の真っ最中である校舎を進み、受付で三人分の志願書を提出するとそれぞれに番号札が配られた。てっちゃんが五十二番で私が五十三番、イタチが五十四番。番号札は無くさないように、と念を押されてから指示された教室へ向かう。

教室に入った瞬間、中にいた人達の視線が集まる。下忍といっても私達のような子供ばかりではなく、大人も多い。むしろ中忍試験では子供の受験生の方が珍しいくらいだ。
若干の敵意が含まれた視線を浴びても先頭のてっちゃんは怯むことなく中へ進んでいき、空いていた席に座った。てっきり「見てんじゃねぇよ!」とか言うかと思っていたので意外だった。この場で下手に反応したら揉め事になって収拾がつかなくなると思っての行動だろうか。変なところで冷静だ。
私とイタチもてっちゃんの後を追い、席につく。教室内を見回すと後方の席に夕顔ちゃんを見つけた。向こうも私に気が付き、お互い目だけで挨拶をする。受験生の中には木ノ葉だけでなく別のマークの額当てをつけている人もいた。中忍試験は第三次忍界大戦の後から風の国と合同で行われるようになったので、彼らは砂隠れの下忍なんだろう。

一次試験の試験官が姿を現したのは私達が着いてから暫く後で、その頃には大教室にも関わらず殆どの席が埋まっていた。試験官は黒板に一枚の紙を貼る。何かと思えば座席表で、志願書を提出した時に貰った番号札の数字が自分の席になるらしいのだが、何故か一から順ではなくランダムに振り分けられていた。連番のはずの私達は見事にバラバラの席にされる。
受験生達は戸惑いつつも自分の番号が書かれた席につく。私も廊下側の席へ移動した。試験官は全員が席についたことを確認してから厚手の封筒から問題用紙と答案用紙を取り出した。

「一次試験って、…ペーパーテスト?」

私の近くの席の誰かがそう呟いた。試験官は問題用紙の表紙を私達に見せながら試験についての説明を始める。
一次試験はペーパーテストで試験時間は 四十五分。問題は全部で十問、配点は各問1点。各班三名の合計点が25点以上の場合のみ合格となるそうだ。
それを聞いた途端、どよめきが起こる。三人で25点以上ってなると一人8点以上取らなくてはならない。
試験官が一度机を叩く。そんなに力を入れていたようには見えないのに吃驚するくらい大きな音が出て、教室内は一気に静まり返った。

「では、これより第一次試験を開始する」

***

簡単ではないが、難しくもない。それが一次試験のテストの感想だ。
武器や術に関する基礎知識から応用問題まで、普段から勉強していれば間違いなく点数の取れるもので、特に捻った問題もなかった。でも知識より感覚で忍者をやってる人には相当難しかったんだろう。
三人の合計点で判定されるからか、合格ラインが高過ぎるからか、合格者は意外と少なかった。百人以上はいたはずなのに、残ったのはたった十組だ。一クラス分くらいの人数まで絞られてしまった。
私達はといえば、合計28点で無事通過した。私は元々座学の方が得意だったし、イタチは文武両道タイプでてっちゃんも普通に勉強はできる。誰かが足を引っ張ることもなく、一次試験は難なくクリアできた。

「思ったより簡単だったわね」
「ペーパーテストとは思わなかったけどね」

それは夕顔ちゃんの班も同じだったようで試験終了後、二人で並んで廊下を進みながら話す。私達の少し前にはイタチ、そのさらに前にはてっちゃんと夕顔ちゃんの班員二人が久々の再会で楽しそうに騒ぎながら歩いていた。驚くほどうるさい。
二次試験は明日行われるらしく集合場所や時間などは各班の担当上忍から聞くよう指示され、解散となった。今日はテストやって終わりか。

すると突然、後ろからぱっと手を掴まれた。
情けないことに完全に気を抜いていたのでかなり驚いた。反射的に振り返って手を掴んでいる人物を確認する。それがあのゲンマさんだったからもっと驚いた。
彼は何故だか驚きと焦りが混じったような、よくわからない表情をしていた。数秒見つめ合った後、先に口を開いたのは私だった。

「な、なんですか…」
「……ああ。いや、悪いね。つい」
「つい?」

なんだそれ、と訝しげに掴まれたままの手に視線をやるとパッと離された。まさか彼とアカデミーの廊下で出会うとは思っていなかった。
昔と変わらず口に千本をくわえたゲンマさんは、私を上から下まで眺めると「お前アイツの妹のアザミだろ」と言った。『アイツ』が下の兄のことを指しているのはすぐにわかったので素直に肯定する。

「それが何か?」
「いや、…俺のこと覚えてる?」
「は?」

と私が声を出したと同時に横にいた夕顔ちゃんが「ナンパ……?」と呟いた。たしかにナンパの常套句だ。
ナンパ呼ばわりされたゲンマさんはむっとした顔になると、やや不満げな声で「違げぇよ」と否定する。夕顔ちゃんはゴミでも見るような目を向けていた。
その視線に耐えられなくなったのか、何か用事を思い出したのか、真相は不明だが彼は「またな」と私に言うと足早に去っていった。なんだったんだ。
ゲンマさんがいなくなった方向を見ながら、夕顔ちゃんが“アレ”には気を付けた方が良いと心配してくれた。完全に不審者だと思っている声色だった。確かに20越えてるはずのゲンマさんが14歳の私の手を掴んで声をかけてくるのは現代じゃ事案発生って言われちゃいそうだけど。
適当に笑ってまた歩き始めると先を行っていたはずのてっちゃんとイタチが階段の踊り場で立ち止まってこちらを見ていた。一度私の横の夕顔ちゃんに視線を向けてから「何絡まれてんだよ。ナメられてんじゃねーぞ」と眉を吊り上げるてっちゃんの横で、イタチがきょとんとした顔で私に言う。

「何かあったんですか?」
「えーっと、私もよくわかんない」
「なんだそりゃ。俺がボコってきてやろうか?」
「それは結構」

目を輝かせて拳を握りしめたてっちゃんを落ち着かせる。お前は暴れたいだけだろ。
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