暗殺戦術特殊部隊、通称暗部は、各階級選りすぐりの忍で構成されており、入ろうと思って入れるところではない。そこにたった11歳で所属することになったイタチはやっぱり私達とは次元が違う。
イタチが暗部に入隊してから彼と一緒の任務はぐっと減った。スリーマンセルが解消されたわけではないのだが、班で集まる話になっても彼だけ予定が合わないことが多く、かれこれ三ヶ月ほど会っていない。一気に疎遠になってしまった。
てっちゃんに「なんだか遠い存在になっちゃったね」と言ったら「元から近くねぇよ」とブチ切れながら言われた。同じ班なのに……。
そんな感じで、最近じゃイタチより弟のサスケの方がその辺で走り回っていたり迷子になっていたりして会う回数が多い。というか、なんでサスケはあんなに頻繁に外を出歩いているのだろう。
と不思議に思っていたら、彼はアカデミーに入学したらしい。そっか、私が15歳なんだからあの子ももう6歳か。早いものだ。
中忍になって引き受ける任務のレベルが上がり、以前に比べて忙しくなったせいか自分のことに精一杯であまり周りのことまで気を配れなくなった。というか最近は色んなニュースがありすぎてわけがわからない。
イルカ先生が中忍試験に合格して、同じ時にてっちゃんも別の班の子達と組んで試験に出て中忍になったと思ったら早くも上忍への推薦話が持ち上がってきたとか、夕顔ちゃんは木ノ葉流剣術の腕を見込まれて暗部への入隊が決まった上にちょっと(恋愛的な意味で)気になる人が出来たとかシダ先生は待望の第一子誕生で幸せとかなんか色々被り過ぎだろ。一回におめでたいお話全部持ってくるのやめてほしい。
ついていけない、と思いつつ全員に祝いの言葉を送り、とりあえず友人代表として夕顔ちゃんの気になる人とやらの偵察へ行った。月光ハヤテというその人は遠目から見ても分かる顔色の悪さで第一印象は微妙な感じだった。
病弱なのかな?どういう人なんだろう、と思いつつ帰った次の日。シダ先生の指示で急遽参加することになったBランク任務のメンバーリストに月光ハヤテの名を見つけた。
しかし突然のことに驚く暇もなく、忍具をかき集め、朝食のパン片手に急いで集合場所に向かった。いっけな〜い遅刻遅刻。
「ゴホッ、ゴホッ………ゴホッ…」
先に集合場所にいた月光ハヤテは相変わらず死人のような顔色の悪さだった。めちゃくちゃ咳してる。体調最悪じゃん。
今回はフォーマンセルのはずだが、彼以外の人はまだ来ていないようだ。家でパン食べれたな、と思いつつ「おはようございます」と挨拶をしながら近付く。ハヤテさんはパンを片手に現れた私に「なんかパン持ってる奴きた…」みたいな顔をしながら挨拶を返してくれた。すみません、アカデミーゆとり世代なもんで。
「シダ上忍の指示で来ました。南部アザミです」
よろしくお願いします、と続けるとハヤテさんは「あなたが……」と咳を一つ。
「月光ハヤテです。今日は急なことですみません…ゴホッ…」
「いいえ、別に……あ、時間までパン食べてて大丈夫ですか?」
「ゴホッ……どうぞ」
良かった、駄目だって言われたら朝食抜きになるところだった。お許しがもらえたので彼の隣でパンを食べる。その間も絶え間なく咳が聞こえた。
「咳、大丈夫ですか?」
「ええ、…ゴホッ……お気になさらず」
「風邪ですか?」
「いえ、体質と言いますか……ゴホッ…」
「喘息ですか?」
「そういうわけでは……ゴホッ…、近いものかもしれませんが」
「近い?ハウスダストとか?」
「……はい、じゃあそれで」
ハウスダストアレルギーなのかこの人…。大変だな、と思いながら私はしっかりパンを食べきった。
このあと私達は四日間一緒だったが、ハヤテさんはハウスダストアレルギーなだけで普通に仕事も気遣いも出来る親切な良い人だったので夕顔ちゃんって見る目あるんだなと思った。パンを食べるのも許してくれたしね。これはてっちゃんの完敗だわ。
***
「秘書ですか?」
「うむ」
火影様から秘書をやってみないか、というお話を頂いたのは私が16歳になった頃だ。
突然話があるとシダ先生を通じて火影様に呼び出され、緊張しながら伺えば呼び出した張本人はのんびりと煙管を吹かしながら世間話のノリでそう言ったのだ。
秘書……秘書?何の?誰の?と顔に出ていたらしく、火影様は「ワシの仕事を手伝ってもらおうかと思ってな」とにっこり笑った。
火影様には護衛小隊や直属の暗部の他に何人か秘書が付いていて、伝達や任務の受付、書類整理などの一部の事務仕事を任せているのだという。基本的には中忍以上の忍から選ばれ、彼らは通常の任務と半々の割合で秘書の仕事をするんだとか。綱手様で言うところのシズネさんみたいな感じだろうか。
少し前から長期任務やら産休やら怪我やらが重なって人手が足りず、今のままでは仕事が回らないのでこの機会に何人か増やすことにしたらしい。
実は、私の下の兄も元々火影様の秘書をしていたそうだ。あの人が上の兄に比べて暇そうに見えたのは、任務で外へ出ることが少なかったからかもしれない。
兄が秘書をしていたから、今回私が声をかけられたのか。なるほど、と勝手に納得している私に火影様は「どうじゃ」と返事を促した。
特に迷うこともなかったのでやります、と首を縦に振った。これはこれで良い勉強になるだろう。
火影様とのお話を終えて外へ出るとアカデミー帰りのサスケに出会った。3歳の頃より少し賢くなった彼は私のことをフルネームではなく「アザミさん」と呼ぶようになり、時間があれば二人で公園のベンチに座って話をするようになっていた。
とは言え私達の共通の話題はイタチのことしかないので、自然とお互いが保有するイタチ情報を交換する流れになるのだが、彼が暗部になってからは弟であろうと中々ゆっくり接する機会がないようだ。サスケは不満そうに頬を膨らませた。
「兄さん、全然構ってくれないんだ」
「忙しいみたいだね。イタチは優秀だから」
「……もうずっとそうだよ。ご飯だって一緒に食べれないし……」
「そりゃ寂しいね」
「もう!アザミさんもっと真面目に聞いてよ」
「聞いてるよ。あっ、今度うちにご飯食べに来ない?最近私料理始めてさ」
「ええ〜……」
サスケは眉を寄せて聞いたことがないような微妙な声を出した。この子私の腕を信用してないな。
料理を始めたのは嘘ではない。花嫁修業の一環だ。長期任務で家を離れる時以外では、毎日少なくとも一品は出せるようにしている。
…のだが、実際のところサスケの予想は外れておらず、私の料理スキルはまるで上がっていない。初めは色々注意してくれていた両親も自分で作ったものは自分で食べろとだけ言うようになった。お弁当を作ってキク君に渡せば、彼は残さず綺麗に食べてくれたのだが、それ以降「なんか…お腹いっぱいな気がするんですよね…」と常に満腹アピールをするようになる始末。
はは、と誤魔化すように笑えばサスケはなんだか不安そうな顔をしつつ「わかったよ」と頷いた。この反応は私の料理の腕を疑っているというのもあるだろうが、それだけではない。サスケが一緒にご飯を食べたい人は私ではなくイタチなのだ。
