29

実はカカシ先生って暗部所属らしい。

中々衝撃的なその事実を私は夕顔ちゃんに聞いて初めて知った。なんで今まで誰も教えてくれなかったの?いやまあ誰々が暗部で〜とか普通言わないけど。
夕顔ちゃんに聞いた、というのも「はたけカカシって暗部なの?」とか訊ねたわけではなく本当に偶然である。

中忍になってから任務のメンバーはほぼ毎回違うようになったし、秘書の仕事を始めてからは様々な場面で他の忍と関わるようになったのに、どこに行ってもカカシ先生の姿は全くといっていいほど見かけなかった。一応、噂というか“上忍のはたけカカシ”という名だけはよく聞くのだが、当の本人が目の前に現れることはなく、何なら里抜けしてるのかと疑いかけるくらいどこにもいないのだ。
秘書の立場を悪用してこっそり忍者登録書を探したら、ちゃんと現役のファイルにカカシ先生の分も保管されていたから間違いなく存在はしている。誕生日は九月らしい。あとなんか勝手に物凄く年上のイメージがあったけど私の四つ上なのでそんなに変わらなかった。私とイタチくらいの差じゃん。

ということは恐らく今は20歳。20歳の先生とかめちゃくちゃ見たい。メインキャラだもん。
私が最後に見たカカシ先生は年齢差を考えると当時は恐らく12歳頃。あの時はまたいずれ会えると思っていたけど、まさか八年経っても見掛けることすらないとは。
その後、受付や任務で会えなくても火影様を張っていればそのうち極秘任務の報告とかに来るんじゃないかと思い、執務室の近くをうろうろしていたら夕顔ちゃんがやってきた。彼女に「誰か探してるの?」と聞かれたので昔見かけた男の子を探している、という体にして「銀髪で、額当てで片目隠してて、顔の下半分はマスクで覆ってて……」と白々しく特徴を羅列していたら「カカシ先輩?」と言われてめちゃくちゃ吃驚した。先輩って。
ここで私は初めてカカシ先生が暗部に所属していて、夕顔ちゃんとは先輩後輩の間柄であることを知ったのである。
里にいる上忍ならどこかしらで会えるはずなのに変だな、と思っていたが、暗部での活動が殆どなら普段見かけなくても頷ける。カカシ先生は相当優秀な人みたいなので暗部の中でも引っ張りだこなんだろう。
いいな、私もカカシ先生と任務したいな。そんで口元の布引っ剥がして素顔を見たい。


***


中忍選抜試験の時期になると私とてっちゃんはアカデミーの敷地内にある、とある会議室に呼び出された。
洒落た長いテーブルを囲むのは私達より年上かつ先輩である中忍の皆さん。何の集まりかと言うと今期の中忍選抜試験の一次試験の課題を決める会議である。

「遠慮せず意見を出してくれ」

と言ったのは先日特別上忍に昇格し、今回初めて一次試験の試験官を総括する立場になったという森乃イビキさん。特別上忍の中じゃ若い方だが、ガッシリとした大柄にかなりの強面なので実年齢以上の圧がある。目が合いそうになったのでサッとそらした。無理無理無理殺されるわ。

ざわざわと騒がしい室内で私とてっちゃんはドアに近い下座で黙っていた。若い中忍は多いが、私達くらいの年齢でこの会議に呼ばれるのはやっぱり珍しいらしく流石に浮いている。シダ先生の推薦らしいがもうちょっと空気読んでほしかった。
そもそもどういった内容のものが中忍試験を受ける人達にとって適正レベルになるのかよくわからない。もう前回と同じでいいんじゃない?と配布された資料を確認する。

「あ、二次試験会場に向かう一次試験の試験官を追いかける100キロマラソンとかどう?」
「なんで100キロも走らせんだよ」
「ルーキーを振るいにかけるため?」
「バカかよ」

というやり取りを小声でてっちゃんとしていたら全員に聞こえていたらしく「それ結構いいじゃん」と一部採用され、最終的に『受験生の中に紛れた試験官を探し出し、二次試験会場へ向かう彼らを追跡する』という課題に決まった。忍者の聴覚優れすぎ問題。

会議終了後、イビキさんは「良い意見だ。次からは自信を持って発言してくれ」と肩を叩いてくれた。顔に似合わず結構先生向きの性格してる人だと思った。


そんなこんなで私とてっちゃんは会議への参加だけでなく今期の中忍試験のお手伝いもすることになった。表立って試験に関わるのではなく、裏方作業の担当だ。そろそろ一次試験を終えた試験官の皆さんが戻ってくるので、アカデミーの空き教室を借りてそこに皆の分の昼食を用意する。
てっちゃんは各テーブルに弁当を並べながら「俺は来月から上忍だぞ……?」とブチ切れていたので「夕顔ちゃんもいるからいいじゃん」と宥めておいた。今回は夕顔ちゃんも手伝ってくれている。

「私のこと、何か言った?」
「いや、別に」

お茶の入った段ボールを抱えてそう言った夕顔ちゃんに、てっちゃんは素知らぬ顔で答えた。
彼はもう普通に夕顔ちゃんの名前を呼べるようになっていた。そっと近付いて「ラップしないの?」とからかえば、てっちゃんの男女平等パンチが私を襲う。今のは私が悪い。


昼食の準備が滞りなく終わったので不貞腐れてるてっちゃんを残して夕顔ちゃんと二人で試験の様子を伺おうと火影様の元へ向かった。その途中、正面から目立つ銀髪が歩いてきた。
それが誰なのか分かると同時に隣にいた夕顔ちゃんが立ち止まって小さく頭を下げた。カカシ先生だ!私も立ち止まってとりあえず頭を下げる。
すごい本当にいたんだ。いや、いるのは知ってたけど。約八年振りの邂逅に感動で震えそうになる。20歳のカカシ先生は漫画で見た時より若干幼い気もしたが、もう殆ど私の知る『カカシ先生』だった。
そのまま通り過ぎるかと思いきや、カカシ先生は私の目の前でぴたりと足を止めた。

「君、南部アザミ……ちゃんだよね」

その一言に困惑した。な、なんで名前知ってるんだ?
もしかして夕顔ちゃんが私のことを伝えたのだろうか、と隣の友人の顔を確認するが、夕顔ちゃんはきょとんとしていた。違うっぽい。
いまいち状況が飲み込めないが、待たせるわけにもいかないので「はい」と頷く。

「そう……」

ぼそっと呟いてカカシ先生はさっさと歩いていった。
いや、そう……じゃなくて。何声かけといて普通に行ってんだオイ。

「アザミ、なにかしたの…?」
「何も……?」

その場に取り残された私と夕顔ちゃんはひたすら困惑した。今の何の時間?何の確認?謎だけが残る。
なんかカカシ先生って変わってるな、と思った。漫画の時より無愛想というか、覇気がないし……いやずっと覇気はないか。ストレス社会だもんな。
Pumps