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人の出入りが激しい任務受付所にいるからか、私の耳には様々な噂話が舞い込むようになった。
まあ忍者にとって情報操作はお手の物。噂なんて不確かなものを一々信用して良いわけがなく、大抵の場合はその話を教えてくれた人達と一緒にバカバカしいと笑っている事が多いのだが、時々本物も流れ込んでくるので油断ならない。

うちはイタチが暗部の部隊長になったらしい、という話を教えてもらったのはつい先日のことだった。
これを教えてくれたのは山城アオバさんというサングラスをかけている特別上忍の方だ。実は彼も下の兄と友人だったらしく、受付で顔を合わせる度に物凄く見られてずっと何かと思っていたのだが、少し前についに意を決したように話しかけられた。
私のことは元々知っていたらしいのだが、仕草が下の兄と似ていたから吃驚して無駄に見続けてしまったそうだ。何だ仕草って。あー、もう兄の話はやめよう。

暗部の情報は基本的に出回らない。暗部に属する忍が自分達のことを外部に漏らすことはないからだ。ただ、今回は別だった。
いくら何でも異例過ぎる、と元暗部の人や火影様に近い上忍の人達を中心に話が広まり、アオバさん達特別上忍の耳にも届いたわけだ。
そしてアオバさんから中忍の私へ。もし私が受付に来る下忍の子達に教えたら、今度はきっとアカデミー生に伝わるだろう。人の口に戸は立てられぬとはこういうことか。

そしてその部隊長になったイタチの姿を見かけたのは、その話を聞いてから随分と後のことだ。
買い物帰りに甘味屋の店先の長椅子で団子を食べている時、偶然通り掛かった彼を目にして特に用があるわけでもないのに反射的に呼び止めてしまった。
イタチはすぐに私に気が付いて足を止めてくれた。本当に久々に見た彼は、何かを決意したような、ともすれば追い詰められたかのような暗い目をしていた。一瞬、ぎくりとした。
ちょっと話さない、と手招きすると彼は頷いて私の横に腰掛けた。それを少し意外に思ってしまった。
店の人に声をかけて、団子をもう一皿持ってきてもらう。その団子を勧めれば、彼はお礼を言ってから串を手に取った。

「最近どうなの」
「最近ですか?別に、今まで通りです」

声の調子は普通だった。もう一度彼を見れば、先程まで暗さを持っていた目もいつの間にか戻っていて、そんな風に感じることはなかった。
本当?と聞けば「はい」と落ち着いた様子で返される。変わったことも大変なことも何もないと言うのだ。でも確かにさっきの彼は、変だった。

釈然としないがそれ以上深くは聞かず、今度は私の近況について伝えた。大して面白くもないその話をイタチはちゃんと聞いて相槌を打ってくれた。この時点の彼に、別段変わった様子は見られない。

少しして、団子の皿を見れば串だけが乗っていた。彼と甘味屋へ来たことは数えるくらいしかないが、いつもこうして完食していた。イタチは結構甘いもの好きだった。
彼も忙しいだろうし、私も夕飯の準備があるのでそろそろ出ようかと二人揃って席を立つ。イタチは椅子の下に置いていた私の荷物に目を向けて「持ちます」と言った。こういうところは本当に変わらない。
勝手に呼び止めて時間を取らせたというのに、わざわざ家の前まで送ってくれた。お礼を言ってここまで持ってもらった荷物を受け取る。

「あ、そういえばサスケが構ってくれないって寂しがってたよ」
「そうですか」
「もう随分前からなんだけどね。まあ、忙しいから無理だろうけど今度ご飯とか一緒に食べてあげてよ」
「……はい」

これがイタチとの最後の会話である。
この一週間後、うちは一族はサスケを除いて全員殺された。自分の親まで手にかけたイタチは里を抜けた。彼が14歳になる年のことだった。

彼がなんで一族の者を殺したのか私はよくわからない。漫画で理由は明かされたのかもしれないが、私は知らない。
同じ班にも関わらず私は彼をほんの少ししか知らないが、私と同じように彼を少ししか知らない人達はイタチのことを「狂気染みた奴だった」と語った。殺人事件が起きた後、犯人の知人が答える「今にして思えば」というやつだ。
けど私は、彼から狂気染みたものを感じたことは一度もなかった。確かに年のわりには落ち着いた、少し変わった子だったけど間違いなく変な奴ではなかった。

私はあの日の彼のあの目が、忘れられない。
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