時の流れというのは早いもので、ついこの間生まれたばかりだと思っていたテンテンがこの度めでたくアカデミーを卒業した。
向上心が高く努力家な彼女は卒業後に行われるサバイバル演習にも見事合格したらしい。その頃には私とキク君の結婚の日取りも決まっていたので、その日の夜に私の家までやってきて二つのおめでたい話への喜びでクナイを振り回した。クナイで喜怒哀楽を表現するのはやめなさい。
「よく頑張ったね。何がほしい?買ってあげる」
「え〜、じゃあクナイと……クナイ!」
クナイそんなにいるか?と思ったが、テンテンは私の比じゃないくらい忍具をよく使うようなので、紛失したり、折れて使えなくなったりするんだろう。忍具は消耗品だし。
漫画通りのお団子頭になった彼女がつけている真新しい額当てを見て、懐かしい気持ちになった。やっぱり額当ては額につけるもんだよね。
無事に下忍になった彼女の唯一の不満は、担当上忍とチームメイトだという。待て、何が唯一だ。その二つが気に入らないのは致命的だろ。
テンテンから見て彼らは「暑苦しい」の一言に尽きるらしい。全体的にボケの量も多すぎるし、あのチームで上手くやっていけるか心配だと語った。
ツッコミは疲れる、なんて溜め息をつくものだから、なんだかお笑いの話を聞いている気分になった。彼女は忍者になったんだよね?
そのボケの量が多いチームと私が遭遇したのは話を聞いてから結構後のことで、彼らが任務の報告書を提出しに来た時だった。
私は丁度帰るところで、出入り口でばったり。最初に私に向かって声をかけたのはテンテン。ではなく、彼らの先頭に立って歩いていたガイ先生だった。
「アザミ!久しぶりじゃないか。どうだ、青春してるかい?」
「お久しぶりです。青春って…あ、はい。実は来週結婚するんです」
「なんと素晴らしい!」
青春と聞き、いよいよ来週に迫っていた結婚の話を伝えるとガイ先生は叫ぶようにそう言って私の両手を力強く握りしめた。その手を「おめでとう!」と何度も上下に振られて苦笑する。身内以外でここまで喜んでくれる人も中々いない。
そんなガイ先生と一緒になって、彼にそっくりなおかっぱ頭に全身タイツの男の子まで「おめでとうございます!!」と祝福してくれた。えーっと確かロック・リーだ。この子は覚えている。
さらにそのリー君に「ほらネジも!」と促され、勢いに流されたのか色素の薄い特徴的な目の男の子も「お、おめでとうございます…?」と言ってくれた。うん、君達は私のこと全然知らないのにいきなり巻き込んでごめんね。
ただ一人、テンテンだけは「姉さんとガイ先生って知り合い?」ととても冷静だった。
「姉さん!テンテンのお姉さんなんですか?」
「うん。あ、実際は違うけど……あー、いいや。そうよ」
説明が面倒になったのか、テンテンは細かい事には触れず話途中で頷いた。まあ、間違ってはない。義理がつくだけだ。
「ということは、もしお子さんが生まれたらテンテンはおばさんになるってことですか!」
「はあ〜!?ちょっとリー!何その言い方!」
「えっ!いや、別に事実を言っただけで……」
「あんたもうちょっと言葉選びなさいよ!」
「えっ、ええ!?」
テンテンに胸ぐらを掴まれ、リー君が焦ったように声を上げる。これ路地裏で見る光景だと思った。
まあ、まだ13歳なのにおばさん呼ばわりはキツいだろう。それが分かっているらしい色素の薄い目の男の子が付き合ってられない、と言わんばかりにため息をついた。ボケが多いと言うか騒がしくて楽しい班じゃん。
教え子達が揉めてる中、ガイ先生は「我が班でこんなに素晴らしいニュースが……」と涙を流していた。何故か私もガイ先生の班の一員みたいな扱いになっている。
「そうと決まれば行くぞ!アザミ!リー!ネジ!テンテン!」
「えっ……どこへ…?」
「祝賀会だ!!」
「どこで……?」
というか、めちゃくちゃナチュラルに私の名前混ぜるじゃん。
恐らく今後の予定をすべて無視して繰り出されたと思われるガイ先生の提案に盛り上がっているのはリー君だけで、困惑する私と呆れるテンテンの隣でネジと呼ばれた男の子が「一ついいか?」と手をあげた。
「どうした?ネジ」
「俺はもう帰りたい」
本当それ。
すかさず「私も帰りたいですね」と乗っかると「姉さんが帰るならあたしも」とテンテンが続いた。
「そんな、テンテンまで…!おめでたい話なのに……!」
「やめろリー!」
なんか始まった。
ガイ先生とリー君は何やら二人で勝手に盛り上がり始めた。これはテンテンの言っていた“暑苦しい”というやつだろうか。確かに二人共ボケ役のようなので誰かがツッコまないと一生続きそうだ。
もう今のうちに帰ってよくないか?と置いてけぼりの私達三人は顔を見合わせるが、その寸劇は思いの外早く終わった。
「そもそも皆の事情を考慮せずに決めた俺が悪い。全員の予定が合う日を探して再度集まろうじゃないか」
そう言ってガイ先生はグッと親指を立てた。相変わらず歯が白い。
次回に持ち越されてちょっと吃驚したが、私を祝いたいという有り難い話なのでお礼を言った。ガイ先生は「気にするな」と私に向き直る。
「だからと言って今何もしないわけにはいかない。この場は一先ず胴上げで手を打とう」
「え……」
何を言ってるんだ……?
予想外の提案に混乱し、すぐに言葉を返せない。胴上げ……?別にしなくてよくない……?
と思っているのは私だけらしく、さっきまで散々帰りたがっていたネジという子も「まあ、胴上げくらいなら……」という顔をしていた。なに納得してんの?嫌だよ。
こんな往来のど真ん中で胴上げとか絶対嫌だ。忘れちゃいけないがここは任務受付所のすぐそばで、今だって固まって話している私達に何事かと複数の視線が向けられている。
しかし断りの言葉を口にする前に、ガイ班の皆が私を取り囲んだ。実に忍らしい動きだった。
「えっ、ちょ、大丈夫です。お気持ちだけで、本当に……」
「遠慮するな!アザミ!」
「いや、本当に遠慮とかじゃなくて」
「姉さん、一瞬で終わるから」
「テンテン……?」
「抵抗すると長引きますよ」
「抵抗って」
「任せてください!誰よりも高く上げてみせます!」
「や、やだ!やだやだやだやだうわー!!?」
あれやこれやと言う前に私の身体はガイ班によって高く持ち上げられていた。味わったことのない浮遊感と落下の恐怖に襲われる。わーっしょい!わーっしょい!じゃないわ。
やばいよ、この班。ちょっとテンションおかしいよ。
