03

成長して自由に外を動けるようになり、分かった事がたくさんある。
外を歩く人は和装、洋服、チャイナ服と様々だが、建物は基本的に東洋系だ。機械文明は発達していないようで車や鉄道などの乗り物は存在しない。陸路は走るか馬車の二択。あと通貨は円ではなく、両だった。慣れるのにまだまだかかりそうだ。
それから、兄達と年が離れている問題だが、別に異母兄弟でもなんでもなかった。何故年が離れているのかは不明だが、強いていうなら戦争中でごたごたしていたからだろうか。ただ母と父は絶対に女の子が欲しかったらしい。理由は家が商家だから。
私は知らなかったのだが、商家を継ぐのは息子ではなく、婿が一般的なんだそうだ。だから婿をとれる娘が欲しかった。つまり必然的に私は早めに結婚して夫となる方に家を継いでもらう必要があるわけだ。万が一売れ残ったりしたら大変だし、変なやつとくっつかれても困るということで、5歳の誕生日に親同士の話し合いで私に許婚ができた。
相手はここから少し離れた某有名なアカデミーの近くにある鍛治屋の次男坊で、私より一つ年下。まだ会ったことはないが明るい良い子だそうだ。

当然ながらこの婚約は私や相手の子の気持ちは一切考慮されていない。幼いうちからの婚約なんてこんなものだろう。
この話を聞いて私が最初に思ったのは酷いとか嫌だとかじゃなく『許婚いるとか漫画みたい』である。漫画だこれ。
まあ、私は外見年齢こそ5才だが精神年齢はもう20を超えていて見た目通りの同世代に恋をすることはきっとない。好きになる人ができてもそれはきっとかなり年上の人になるだろう。
自力で家を継いでもらう相手を探してこい、と言われても困るので最初から決めておいてもらった方が楽だ。今からその子と仲良くなって姉目線で家族になれれば良い。好きなことに違いはないし。
問題は相手の感情だ。相手に、他に好きな人ができるかもしれない。その時はどうなるんだろう?駆け落ちとかされたら地味にショックなんだけど。

***

私が許婚となった男の子に初めて会ったのは、再び戦争(第三次忍界大戦)が始まり、上忍となっていた上の兄が任務で家を離れてからだった。

「さ、挨拶なさい」
「はじめまして、キクともうします」

母親と見られる女性にぽんと背中を押されると小さな男の子はやや舌足らずな喋り方で私に頭を下げた。

「好きなたべものはケチャップです!」

それは聞いてない。そして食べ物のカテゴリーには入らない。
後ろで聞いていた母親同士が吹き出す。ああ、なんか子供らしいな、と思った。将来私と結婚させられることになった男の子は、まだ4歳ということもあり、素直で可愛らしい子だった。

「さ、アザミちゃんも挨拶しないと」
「初めまして、南部アザミです」

母に促されて私も頭を下げる。さらに「好きな食べ物言わないの?」と母が言うので「バナナです」と言っておいた。好きな食べ物の話必要かこれ。
父も交えて親同士で話があるそうなので、二人で遊んでおいでと私達は家から追い出された。といっても4歳と5歳なので、下の兄の付き添いのもと私達は外へ出た。

「あっ、ここからもほかげいわが見えますね!」
「うん、大きいからね」
「かっこいいです!」

遠くの方にある火影岩をキクくんはキラキラした目で見ていた。火影様は里の忍者の憧れの存在だ。そんな反応にもなるだろう。私達の後ろを歩いていた兄が言う。

「キクも忍者になりたいか?」
「はい。兄さんがにんじゃですごくかっこいいんです」
「ああ、そうだったな」

どうやら兄はキクくんのお兄さんを知っているらしい。兄が頭を撫でてやるとキクくんは満面の笑みを見せてくれた。やはり小さい子は可愛い。私も小さい子と言われる歳だが、この愛くるしさはやはり本物にしか出せないだろう。
兄が私は笑顔にならないのかとチラチラとこちらを伺うのがわかった。ごめんちょっと無理。
折角だし、火影岩の近くまで行こうという話になり「じゃあエネルギーを補給しようぜ!」と兄が途中の駄菓子屋でお菓子を買ってくれた。
大喜びでお菓子を手に歩き出す。すると横に広がってふらふらと歩いていたこともあり、路地から出てきた人にキクくんがぶつかって尻餅をついた。

「わっ!」
「キク、大丈夫か……あっ」

兄がキクくんにぶつかった人を見て、少し驚いた顔をする。それにつられて私もその人を見ると全く同じ反応をしてしまった。
黒い布で口元を隠したまだ10歳前後の少年は、私が知っている姿と違って両目が見えているもののちゃんと成長後の面影があった。

「悪い」

彼は短くそう言うとキクくんに手を貸し、立たせてあげた。キクくんがありがとうございます、とお礼を言う。

「はたけカカシ…」
「…どうも」

兄がぽつり、と名前を呟くと彼は小さく頭を下げた。そのまま私達を一瞥した後、何事もなかったかのように歩き始める。カカシ先生だー!
ちょっと感動してしまい、見えなくなるまで彼の後ろ姿を眺めた。カカシ先生は私の知っている姿よりずっと幼く、小さかった。ということは、やはり今は漫画よりもかなり前の時代なんだろう。
記念すべき二人目の生で見た漫画キャラとなったカカシ先生のことをどうも知っていた風な態度をとっていた兄に、知り合いなのか聞いてみたが「あ〜、うーん、まあ、いや…」と何とも煮え切らない返事がきただけだった。使えない。

カカシ先生なんてナルトサスケサクラに次ぐメインキャラだ。私のミーハー心が疼く。
次の日から、なんとか彼にもう一度会えないかと初めて会った日以来、私の後を着いて回るようになったキクくんと付き添いの兄(時々母)を連れて探検ごっこと称して里中を駆け回り、こっそりとカカシ先生を捜した。が、分かってて隠れてるんじゃないかと思うくらい全く見つからなかった。
子供の体力には限界がある。結局五回目の捜索を終えた後、私は完全に諦めた。ちょっとだけカカシ先生が嫌いになった。
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