「アザミ姉さんは、いつからアカデミーに行くんですか?」
カカシ先生の捜索を止めてから三日。キクくんが遊びに来ても外に出ることもなく、店の出入り口で「いらっしゃいませー」と言葉だけの接客をしてお客さんから時々お菓子をもらったりしながらのんびりと過ごしていた日。お客さんにもらったお菓子を頬張るキクくんにそう聞かれ、私は答えられなかった。
アカデミーか。そういえばいつからそういった学校教育は始まるんだろう。
アカデミーは小学校的なものだろうし、7歳になる年だろうか?
「ねえ、私っていつからアカデミーに通うの?」
その日の夜、ご飯を食べながら両親に聞いた。
すると何故か全員とても驚いたようで、父なんて箸を落としていた。そんな衝撃的な話だったか?
落ちた箸を拾うこともせず、父は私に言う。
「お前……アカデミーに行きたいのか……?」
「え?」
「え?」
父の質問の意図が分からず、首を傾げると同じように父も首を傾げた。え?なにそれ。
行きたいのか、ってなんだ?“行く”んじゃないのか?意味が分からず父の次の言葉を待っていると横に座っていた下の兄が満足げに大きく頷き、嬉しそうに口を開いた。
「さすがアザミ!お前も俺と兄貴の妹だな!」
何を言っている。
そのままぱしっ、と勢いよく背中を叩かれた。なんで私達急に意志疎通できなくなったの?
混乱していると「アザミちゃん」とそれまで黙っていた母が口を開いた。
「アザミちゃんもお兄ちゃん達みたいに忍者になりたいの?」
えっ、ならなくてもいいの?
母の言葉に驚く。ちょっと待ってくれ、ここはナルトの世界で、さらに言うなら忍者が暮らす木ノ葉隠れの里じゃないか。なら子供は皆アカデミーに通うものなんじゃ……ないの…?
もしかして私は言わなくて良いことを言ってしまったのか。母の問い掛けに答えられずに半開きになっていた口をゆっくり閉じると一人食事を再開した下の兄がかぼちゃの煮物を食べながら言った。
「そうだよな〜、お前も俺と兄貴の背中を見て育ったんだもんな。そりゃ忍者に憧れるよな」
あんたはちょっと黙れ。
兄のその発言を受けて父が落ちた箸を拾いながら話し出す。
実は、両親は私をアカデミーに行かせるつもりはなかったらしい。木ノ葉の里にはちゃんと忍者以外の子が通う普通の学校があり、そこに行く予定だったのだ。
そりゃそうだよね、隠れ里っていっても普通に忍者じゃない人達もたくさん住んでるもん。皆が皆忍者になる訳じゃない、と少し考えればわかることだ。分からなかったのは私がここを“ナルトの世界”と認識していたからだろう。
いや、忍者にならなくて良いならなりたくはないけど……と思ったのだが、私がそれを口にする前にすっかり乗り気になった下の兄が「お前の熱い想いは確かに受け取った!俺が修業見てやるよ、強くしてやる!」などと言い出し、とても暑苦しく両親を説得してしまったため結局私は6歳になったらアカデミーに入学することになった。
その翌日から私を一人前の忍者に育てると言う謎の使命感を抱いた下の兄による修行が始まった。
この人は先の戦争終結後に中忍に昇格したはずなのだが、暇なのか私のために時間を作ってくれているのか、立場の割にはよく家にいる。戦時中なので部隊長クラスの中忍は暇ではないはずなのに。
きっと上の兄がいない分、私を気にかけてくれてるんだろう。正直この人のやる気と私のやる気は全く比例していないが、全部私のためにやってくれているのだから応えるしかない。漫画の忍術を使えるようになるならそれはそれで嬉しいし。
と思っていたが、そんなものの前にまずは体作りが大切だと言われて、走り込みやら腹筋やら腕立て伏せやら修行というより基礎体力をつける特訓が始まった。それにキクくんも参加し、三人で狂ったように体力を付け続けた。あの夕日に向かって走るんだー!とかもやった。
そんなこんなで結局ナルトらしい術を一つも覚えることなく私は6歳になり、無事アカデミーに入学した。この時点で多分現代にいた頃よりは体力が付いていた気がする。何この幼児怖い。
9月になり、時期は違うものの現代の学校と同じくアカデミーでも入学式が執り行われた。その日は式だけで授業はなく、入学書類や今後の予定について教えてもらった後、生徒およびその保護者は解散となった。
折角だからとアカデミー入学式と書かれた看板の前で両親と写真を撮った。完全に小学校だ。
***
外見は6歳でも中身は元17歳のため入学要項・授業計画とこの歳なら本来は親だけが確認するはずのものにもしっかりと目を通しておき、次の日から早速アカデミーへ。
指示のあった教室に入ると同じ年頃の子達がたくさんいた。小さくて可愛い。
座席は三人掛けで、特に指定は無かったので空いている所に適当に座った。周りの子は皆知り合いなのか、それとも人見知りしないタイプなのかそれぞれ近くの子とお喋りしている。
私は人見知りではないが、流石にこんな小さい子達に自分から話し掛けて「友達になろう!」とか言えない。
兄から聞いた話では、アカデミーの入学に明確な規定はないが、6歳での入学が標準とされているそうだ。なので、今ここにいるのは殆ど6歳の子達だろう。うわぁ話合わないって絶対。
ちなみに人によってはもっと遅くに入学することもあるが、そういった人は大体家で一通り忍術を学んでいる場合が多いので卒業も早いらしい。そもそもアカデミーに通わないケースもあるそうだ。
とりあえず自分から友達を作る気は起きないので、もう何度も見たはずの授業計画をもう一度読み直すことにした。
基本的にアカデミーの授業は単位制である。一応モデルケースはあるが、どの授業をいつ取るのかは完全に個人の自由だ。クラスは存在するが、授業の取り方は人によって変わるため一応と言った大雑把なもので、全体的な雰囲気は小学校というより大学に近い。各授業でのテストをパスし、必要な単位が取得できたら卒業試験を受け、合格すれば晴れてアカデミー卒業となるのだ。
6歳で入学した場合、特に負担をかけずに普通に単位を取っていくと12歳での卒業となるらしいが、今は戦時中ということもあり平均卒業年齢は10歳となっている。
飛び級という形で本来六年かかるところを四年で終わらせているのは少しでも多く優秀な忍を育て、早めに一人前にして里の戦力としたいからだろう。まあ、本当に優秀な子はだらだら学校で学ばせるより実戦経験を積ませた方が効率が良いよね。
そのため卒業に関しては本当に一概には言えない。卒業時期は人によって全く違うのだ。
うちの兄達なんかは二人とも8歳で卒業したと言う。この二人は長く続いた第二次忍界大戦の最中に入学したことも関係していると思うが、名門の出でもないのに妙に早い。
ちなみに本物の天才は一年で卒業するとか。噂じゃ私の一つ上にももう卒業した人がいるらしい。誰だよやばいな。
「となりに座ってもいい?」
ここまで考えて、突然声をかけられた。
ハッとして顔を上げる。声の主は青みがかった紫色をした長い髪の女の子だ。つい見惚れてしまうくらい顔立ちの整った美しい子で、このぐらいの歳では珍しいくらいはっきりとした美貌だと思った。
いいよ、と短く答えるとその子はお礼を言って隣の席に腰かけた。
授業が始まって一人ずつ自己紹介をするまでその女の子は私に向かって名乗らなかったし、私に名前を尋ねることもしなかった。人見知りという感じではなく、単に積極的に声をかけるタイプではないんだろう。
その子の名前は卯月夕顔。彼女にあった綺麗な名前だと思った。
