てっちゃんと話をして、その次は長くお世話になったシダ先生に退職について報告をした。教え子の重大報告に彼は「そうか」と言っただけだった。
性格的に大きなリアクションがくるとは思っていなかったので予想の範囲内だが、ここまであっさりしていると寂しく思う。もしかしてみんな私に全然興味ないのかな?
しゅんとしていると名前を呼ばれた。
「お前の進む道はお前が決めるものだ。他人に一々断りを入れる必要はない」
だから好きにしろ、と言うと先生は口を閉じた。先生というものは皆同じことを言う。
返事をして「お世話になりました」と深く頭を下げた。
それから火影様や相談役のお二人、他にも同じ秘書やお世話になった方々に報告をしていく。
結婚や出産を機に辞めるくノ一は珍しくないので特に咎められることはなく、むしろ大抵の方はこれが一番良い選択だと言っていた。
嫌味とかじゃなくてこのまま忍を続けてもしもの事があったら、残された家族があまりにも不憫だからだ。
幼い頃に親を亡くしている人も多いので、忍同士で結婚したら奥さんには家にいてほしいと考える人はたくさんいる。
そんな感じで、私の退職は問題なく決まった。まあ、仕事の引き継ぎだとか色々あるので実際に辞めるのはもう少し後になるのだが。
***
夕飯の準備をしようと米びつを覗けば中は空っぽ。こりゃまずいと財布片手に慌てて外へ出た。
米屋へ駆け込み、ついでに隣の店で食糧品も買い込む。
家へ戻ろうと店を出た時には肩に米俵を担ぎ、空いてる手にこれでもかとパンパンに詰まった買い物袋を提げていた。
「あっ、サスケおかえり」
「お、おう……」
そんな私に通りがかりのサスケはぎょっとしていたが、いつも通りに挨拶をすれば動揺しつつもちゃんと返してくれた。私が米俵を担ぐ姿はそんなにおかしいだろうか。
「大丈夫なのか、それ」
「うん?大丈夫。鍛えてるから重くないよ」
そう答えるもののサスケの返事はなく、視線は米俵とは別の手で持っていた買い物袋に向けられていた。こっちも気になるのだろう。
重くないよアピールで軽く持ち上げれば、買い物袋はやや乱暴に奪われた。特に何も言わずにそのままサスケは歩き出す。私の家の方向だった。
家まで代わりに持ってくれるんだろう。本人は怒るかもしれないが、イタチに似てると思った。イタチなら「持ちます」と言ってから米俵の方を持っただろうけど。
有り難いことに違いはないのでお礼を言えばフン、と鼻を鳴らしただけだった。
彼は手ぶらだったのでアカデミー帰りではない。それで商店街にいたということは、本当は自分の買い物をしに来たのだろう。
すっかり無愛想な子になってしまったが、他者を思い遣る心はちゃんと残っていた。
家まで着くとわざわざ裏の玄関まで一緒に運んでくれた。
もう一度お礼を言うとやっぱり返事はなく、用は済んだとばかりにそのまま無言で立ち去ろうとしたので慌てて引き留める。
「ご飯食べていかない?納豆は出ないよ」
「いらねぇ」
あっさりと断られる。私が作るご飯は嫌なのか、結婚した私に気を遣っているのか、両方だな。
「そういえば、もうすぐアカデミーの卒業試験なんでしょ」
「ああ、よく知ってるな」
「イルカ先生に聞いたの。頑張ってね」
グッと拳を握れば、小さく頷いた。サスケならまず間違いないだろう。というか受かるって知ってるし。
今のサスケは額当てがないだけで服も髪型も顔つきも漫画で見た姿と同じだった。この先のことを思って何とも言えない気持ちになる。
「よし、握手しよっか」
「はあ?なんでだよ」
「アカデミー生のサスケとこうして会えるのは今日で最後だろうから」
サスケは私の言葉にぽかんとした後、意味がわかったのか「確かにな……」と少しだけ口角を上げた。合格確実と言われて悪い気はしないらしい。
「でも握手はしねぇ」
「ええー、そんな」
「するのは下忍になってからだ」
フ、フゥーーーッ!と盛り上げれば、自分でも恥ずかしかったのかサスケは「うるせえ……うるせえ!」とキレだした。すぐ怒るんだから。
約束だよ、と言ったら思いっきり無視して今度こそ帰っていく。親戚のおばさんのような気持ちになりつつ去っていく彼の背中を見送った。
