「アザミじゃないか」
秘書の夜勤前の腹ごしらえで里でも美味しいと評判の一楽でラーメンを食べていると聞きなれた声が私を呼んだ。
振り返ればイルカ先生と、金髪の悪戯っ子。話こそ聞くものの顔を会わせたのは初めてだったので少し緊張したが、悟られないように「こんばんは」と平常心を装った。髪と目の色は四代目と同じだが、こうして見ると顔立ちはあまり似ていないように感じた。きっとお母さん似なんだろう。
私の隣に腰掛けたイルカ先生のさらに隣に座った少年は、私とイルカ先生を交互に見て首を傾げてから、何か思い付いたように、にっと笑った。
「もしかして、イルカ先生のこれ?」
「違う!アザミは結婚してるんだぞ!」
イルカ先生が後輩だと告げると小指を立てていた金髪の少年は「なーんだ」とつまらなそうにした。
「悪いな、アザミ。こいつは俺の教え子のナルトで……って知ってるか」
「ええ、今日の昼も火影岩にペンキで落書きしたそうで」
「姉ちゃん知ってんの!?やっぱすげーだろ俺!」
「だから凄くない!というか目上の人には敬語を使え敬語を!」
ごつん、とナルトの頭に拳骨が落ちる。その勢いに思わず笑ってしまった。
今夜は卒業試験を明日に控えたナルトに、イルカ先生が一楽のラーメンを奢ってあげるらしい。
ナルトは火影岩に落書きした理由を語り、火影になって里に自分の力を認めさせると宣言した。イルカ先生にビシッと箸を向けたのを見て、先日のてっちゃんを思い出した。似てるようで、実はあんまり似てないんだけどね。
額当てをつけさせてほしいとせがむナルトにイルカ先生は「一人前の証だからお前は明日」と断る。実に微笑ましいやり取りだった。
そこまで聞いたところで完食し、席を立つ。テウチさん達に声をかけてから二人にも挨拶すると「じゃあな、姉ちゃん!」とまるで昔からの知り合いのようにナルトが手を挙げた。
***
サスケは無事に卒業試験に合格したらしい。
その日の夜、珍しく我が家までやってきて報告してくれた。私の料理に散々酷い目に合わされてきた彼が自分から訪ねてくるなど滅多にないことだったのでちょっと驚く。なんとなく、こんな日に一人になるのが嫌だったのかと思った。
サスケは私に合否だけ伝えたかったようで、話が済むと帰ろうとしたので無理やり中へ連れ込む。折角だから、と私の両親とキクくんの五人で食卓を囲んだ。サスケは私の両親の前では借りてきた猫のように大人しかった。
合格できるって知ってはいたけど、3歳の頃のサスケを思い出すと感慨深い。約束通り握手をしようとすれば「額当てをつけてからだ」と一回断られた。サスケがポケットから額当てを取り出すと良い感じに酒が入ってた南部家の食卓はめちゃくちゃ盛り上がった。
それから二日後、身支度を整え、いつものように火影塔へ向かう。
アカデミーの校舎の前を通る時、サスケを思い出すと同時に、ふと、ナルトの顔が浮かんだ。
そういえば彼の卒業試験はどうなったのだろう。みんなと違って苦戦していたのは覚えている。経緯は忘れたけどなんかボロボロになって特例合格?みたいになっていたのも覚えている。
卒業試験があったのは一昨日だけど、私は夜勤明けで早くに帰ってしまったので結果発表後の子供たちを見ていない。
例年通りなら今日は合格者の説明会があるはずだけど、ナルトは来るのだろうか。
「あっ!イルカ先生の後輩!」
突然響いたその声にびっくりして足を止める。
噂をすれば影、いや噂してないけど。まさしく思い浮かべていた人物が現れたわけだから驚いても仕方がない。 もう待ち伏せされてたんじゃないかと思うくらいナイスタイミングだった。
その彼が、えーっと……と暫く考えた後に「アザミの姉ちゃん!」と元気良く言うのでまた笑ってしまった。
おはよう、と声をかけると「グッモーニン!」と返ってくる。テンション高い。
どこかそわそわした様子でこちらを窺う彼に一瞬首を傾げたが、すぐにその意味が分かって口角を上げた。
「それ、すっごく似合ってるよ。卒業おめでとう」
そう言うとナルトは自分の額当てを両手で触りながら、嬉しさを隠さず言った。
「わ、わかる?わかる!?サンキュー!姉ちゃん!」
と、最大級の笑顔を見せてくれたかと思えば、ハッとして「やべぇ!遅刻するってば!」と思い出したようにアカデミーの方を向いた。くるくると良く表情が変わる。
「俺もう行かねーと!じゃあ、またな!アザミの姉ちゃん!」
「はい、いってらっしゃい」
背中が見えなくなるまで、ナルトがいなくなった方を見た。
ナルトの物語はこれから始まるが、私がそれを近くで見ることはない。額当てをつけた彼と違って私は額当てを外すからだ。
そっ、と自分の額当てに触れた。うん、大丈夫。今日も頑張れそう。
