Shrot story
03
「……疲れた。」

 どれ程の時間を、此処で座って過ごしていただろう。
 取り敢えず、女としてNGなくらい鼻水が垂れてしまう程に長い間虚と対峙し、それから暫く此処にいた。

「寒い。頭痛い。……ちくしょう。」

 虚は全て倒した。
 任務は無事に終わったのである。
 だが、冷えきってしまった私の体は、戦闘が終わると同時に、全くと言っていい程言う事を聞いてくれなくなってしまった。

「……かえりたい。」

 そう。つまり、帰れないのである。
 何度も立ち上がろうと試みているのだが、その都度霞んだ視界と、覚束ない脚がそれを阻んだ。

「……ちくしょう。あのバカ。……わたし、たいちょう わるいって いってたのに……。」

 先程から、出てくるのは隊長への悪態ばかりだ。

「……。」

 これは、体調管理もろくに出来ない私が起こした結果。自業自得なのである。
 そんなことは解っていたが、それを口で認めてしまえば、今の心身ともに弱った私には大ダメージだったのだ。

「……ばかなだぁ。」

 ばすっ、と倒れこめば、冷たい雪が歓迎してくれた。
 冷たくて気持ちが良いやら、寒くて頭が痛いやら、複雑なものだったが、起き上がる気力も無い今、それらを受け入れる他に道は無かった。
 雪に倒れたまま、急速に意識は遠のいていく。

「――……。」

 最後に、私が一等最後に斬った虚が、視界の隅で昇華していく様だけを捉える事が出来た。









 冷めた茶がたっぷりと注がれた湯呑みを一瞥し、松本は不安げに顔を顰めてみせた。

「隊長、円香は……。」
「虚退治だと言ってるだろ。何度目だ、その質問。」
「……だって、あの子にしては遅過ぎません? 今日は朝から体調悪そうだったし、心配――……。」

 流石副隊長、と言ったところか。
 サボりながらも、確りと部下の体調を把握していたらしい。
 だが、日番谷は松本の一言を聞き、僅かに目を見開くと、眉間にぐいっと皺を寄せた。どうやら、感心している余裕も無いらしい。

「松本、ちょっと出てくる。」
「はいはい。……どちらへ?」

 振り向くと、そこにはもう日番谷の姿は無く、瞬歩を使ったのだろうと容易く判断出来た。
 松本は小さく溜め息を漏らすと、三人分の冷めた茶を飲み干し、一人分の茶を淹れ直した。
 それから、一人、未処理の書類に手を伸ばしたのだった。

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