「……疲れた。」
どれ程の時間を、此処で座って過ごしていただろう。
取り敢えず、女としてNGなくらい鼻水が垂れてしまう程に長い間虚と対峙し、それから暫く此処にいた。
「寒い。頭痛い。……ちくしょう。」
虚は全て倒した。
任務は無事に終わったのである。
だが、冷えきってしまった私の体は、戦闘が終わると同時に、全くと言っていい程言う事を聞いてくれなくなってしまった。
「……かえりたい。」
そう。つまり、帰れないのである。
何度も立ち上がろうと試みているのだが、その都度霞んだ視界と、覚束ない脚がそれを阻んだ。
「……ちくしょう。あのバカ。……わたし、たいちょう わるいって いってたのに……。」
先程から、出てくるのは隊長への悪態ばかりだ。
「……。」
これは、体調管理もろくに出来ない私が起こした結果。自業自得なのである。
そんなことは解っていたが、それを口で認めてしまえば、今の心身ともに弱った私には大ダメージだったのだ。
「……ばかなだぁ。」
ばすっ、と倒れこめば、冷たい雪が歓迎してくれた。
冷たくて気持ちが良いやら、寒くて頭が痛いやら、複雑なものだったが、起き上がる気力も無い今、それらを受け入れる他に道は無かった。
雪に倒れたまま、急速に意識は遠のいていく。
「――……。」
最後に、私が一等最後に斬った虚が、視界の隅で昇華していく様だけを捉える事が出来た。
冷めた茶がたっぷりと注がれた湯呑みを一瞥し、松本は不安げに顔を顰めてみせた。
「隊長、円香は……。」
「虚退治だと言ってるだろ。何度目だ、その質問。」
「……だって、あの子にしては遅過ぎません? 今日は朝から体調悪そうだったし、心配――……。」
流石副隊長、と言ったところか。
サボりながらも、確りと部下の体調を把握していたらしい。
だが、日番谷は松本の一言を聞き、僅かに目を見開くと、眉間にぐいっと皺を寄せた。どうやら、感心している余裕も無いらしい。
「松本、ちょっと出てくる。」
「はいはい。……どちらへ?」
振り向くと、そこにはもう日番谷の姿は無く、瞬歩を使ったのだろうと容易く判断出来た。
松本は小さく溜め息を漏らすと、三人分の冷めた茶を飲み干し、一人分の茶を淹れ直した。
それから、一人、未処理の書類に手を伸ばしたのだった。