Shrot story
02
 目的の市場へ着いてからも、気が付けば溜め息が漏れていた。雑踏に紛れてすぐに掻き消されてしまうから、つい気が緩んで何度も零してしまう。
 何となく行列に並ぶ気力が湧かず、あまり客入りの無い店を覗くと、無愛想な初老の店主がこちらを一瞥しただけで、何も言わずに野菜に付いた汚れを払っていた。
 商品を見てみると、他の店よりどれも少しずつ高い。
 客が入らない理由が、この数十秒で殆どわかった気がする。
 すると、なんだか僅かに残っていた気力も完全に消え失せて、他の店を見る気も湧かなくなってしまった。
「あー、このメモに書いてある物が欲しいんですけど……。」
 咳払いしながら買い物メモを渡すと、店主は黙ってそれを受け取り、書かれてある物を紙袋に詰めだした。
 他の店より高いと言っても、ひどく高いわけでもないし品質には問題は無い。
 こんな日もあるだろうとぼんやり考えていると、若い夫婦が、夕食の話をしながら後ろを通り過ぎた。
 腕を組みながら楽しそうにしている後ろ姿を眺めていると、不意に不機嫌そうな声を掛けられた。
「お客さん。」
 振り向くと、野菜いっぱいの紙袋を抱えた店主がじっとこちらを睨んでいる。
「500センズ。」
「あっ、ごめんなさい。」
 私は慌てて財布を開くと、店主に小銭を渡した。
「毎度。」
 店主は私に野菜を寄越すと、再び野菜の汚れを払い出した。
 店を離れてから、盛大に溜め息を吐く。
 なんだかどっと疲れてしまった。
 疲れてしまったが、出がけに見た後ろ姿を思い出すと、すぐに家に帰る気になれなかった。

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