市場から少し離れた広場に来た私は、ひとり中央の噴水に腰掛けた。
あちこちで見掛けるカップルの姿に、来たことを少し後悔する。
自分達を重ねては、出がけに覚えたのと同じ寂しさが込み上げてきて、その度に固く目を瞑った。
私達の間に愛は確かにある。それはわかっていた。
大体彼は始めからそういう人だったのだ。愛が薄れてああなったわけではない。
更に言えば、私はああいう彼だから愛した筈だった。
その筈なのに、近頃の私は変だ。
私の愛する『錬金術を愛する』彼に、苦しめられている。
彼にはもっとやりたいことに専念してもらいたい。でも、それと同じくらい、いや、それ以上に私を見てほしい。
せめて目を合わせて欲しい。せめて手を繋いで欲しい。せめて私と会話して欲しい。せめてキスをして欲しい。
そうやって、彼に夢中になればなるほど際限なく膨れる欲望が恐ろしい。
彼を愛せば愛す程、彼を許すことが出来なくなっている。
このどろどろとした感情が、果たして愛と呼べるのかさえ分からなかった。
額に手を当て、大きく息を吐き出す。
いつの間にか辺りが薄暗くなって、広場の人の姿もまばらになっていた。
少し冷えた空気を吸い込むと燻っていた感情も冷えるような気がしたが、やっぱり帰る気は起きない。
もう何度目か分からない溜め息を吐こうとした時、聞き慣れた声が私を呼んだ。
「何やってんだよ、ベティーナ。」
視線を向けると、呆れた様に笑うエドが、ポケットに手を突っ込んだままこちらへ向かってきていた。