出会いと別れ





「久しぶり、エレイン」

「スレイ様! ロゼさん! それに天族の方々、ご無事で何よりです!」

 導師様御一行が宿屋に訪れなくなってから約2ヶ月が経つ。流石に安否が気になり始めたその時、彼等はやって来た。スレイ様とロゼさんの周りには相変わらず四色の光が淡く輝きながら浮いていた。その変わらない光景にホッと息をつく。
 赤い光のライラ様に青い光のミクリオ様、黄色い光のエドナ様に緑色の光のデゼル様の名前をお一人ずつあげてから改めて挨拶をしたらスレイ様とロゼさんの表情が曇った。

「えっと…… デゼルはいないんだ」

「え…… ですが確かに緑色の光が……」

 スレイ様の言葉に目をごしごし擦ってからもう一度よく見ても緑色の光は存在していた。ふよふよと浮いているその光は私の近くまで寄って来る。何か私に用があるのだろうか。
 首を傾けて様子を伺うと頬に温かい感触がした。それと同時にスレイ様達の方から「あ……」と複数の声が聞こえた。中にはこちらに向かってお声を荒らげている者もいる。このお声はもしかしなくともミクリオ様だろう。……と言うことは私はついにスレイ様の手を握らなくても天族のお声が聞こえるようになったらしい。

「よ、お嬢ちゃん。俺はザビーダ、よろしくな。噂には聞いていたけど可愛らしいお嬢ちゃんだ。こりゃミク坊が惚れ……」
「ザビーダ!! エレインに何しているんだ!!」

 艶気を含んだ低い声が緑色の光から発せられる。自己紹介をしてくれたザビーダ様を遮るかのようにまたミクリオ様の声が聞こえた。ミクリオ様は恐らく私の頬にキスをしたであろうザビーダ様を怒ってくれたのだろう。

「ミクリオ様、落ち着いて下さい! きっとザビーダ様なりの挨拶の仕方なんですよ」

「そうそう! お嬢ちゃんは話が分かるねぇ。それに引き換えミク坊は。そんなにかたっくるしいと嫌われるぜ?」

「なっ?! 余計なお世話だ!!」

 ザビーダ様とミクリオ様の言い争いに時々止めに入るものの、たいした成果は得られなかった。私がナチュラルに話し掛けている事にミクリオ様は気付いてもいない。先に気付いたのは外野にいらっしゃったスレイ様やロゼさん達だ。

「エレイン、天族の声が聞こえるようになったんだ!」

「はい。スレイ様が力をお付けになった証拠ですかね? 流石にお姿を見ることは叶いませんでしたが」

 霊応力がそこそこの私にはこれが限界なのだろうか。聴覚と触覚、それから視覚が可能になったようだ。尤も視覚は完全ではないのだが。
 触覚に関して言えばミクリオ様に髪の毛を引っ張られた時は機能していたけれど、自らミクリオ様の頭を撫でようとした時には全く感触が感じられなかった。どういった原理になっているのかライラ様に聞いてみたものの、私のようなケースは初めてらしく彼女にも良く分からないらしい。

「はぁーこれでミクリオに叩かれずに済むよ」

「おいスレイ、それはまるで僕が暴力を奮っていたみたいじゃないか」

 あながち嘘でもないわと黄色い光から脱力した感じの女の子の声が聞こえた。ミクリオ様はザビーダ様から標的をエドナ様に変えて言い争いを始める。どうやらミクリオ様は弄られキャラらしい。お声が聞こえるようになってから一瞬でそう思った。

「エレイン、あのさ、デゼルの事なんだけど…… あいつはもう此処に来れないんだ。何ていうか…… 遠いところに行っちゃたんだよね」

「ロゼさん…… そうですか」

 無理して笑顔を作っているロゼさんに私はデゼル様がもういない事を悟った。どの様な経緯だったのかは勿論分からないけれど、きっと壮絶な闘いだったのだろう。
辛気臭い顔をしていたらロゼさんにバシバシと背中を叩かれた。

「……デゼル様はロゼさん達を見守ってくれていると思います」

「あっはは。だといいなぁ……」

 そう言って笑ったロゼさんの瞳は涙が零れ落ちそうだった。

 それから暫くたわいもない話をしていたのだがやけに賑やかだと女将さんがやって来たので不審に思われないよう予約をとって部屋に案内した。

「嬉しそうだね、エレイン。導師様御一行が来たからかい?」

「……そんなに嬉しそうですか?」

 至って平然としていた筈なのにやはり顔に現れていたらしい。女将さんが言うにはここ最近の私はどこか上の空で元気が無さそうに見えていたとの事。

「エレインのそんな顔を見たら彼氏さんがヤキモチ妬くんじゃないかい?」

「だから女将さん、その話は誤解ですって」

 はいはいそうだったねと私を軽く足らった女将さんは私に店番を頼んで買い物に行った。
未だに私に彼氏がいると勘違いしているようで、こうやって私の反応を見て楽しんでいるのだ。何回も誤解を解こうとしているのだが単に私が照れて否定しているのだと思っているみたいなのである。

「エレイン、…… 君にはか、彼氏がいるのか」

「み、ミクリオ様?! いつからそこに?!」

 先程部屋に案内した筈のミクリオ様が何故かロビーに戻って来ていた。
私と女将さんの話を聞いていたらしく、ミクリオ様まで私に彼氏がいると思ってしまったようだ。心なしか青い光が小さくなった気がする。そもそも女将さんが私の彼氏だと思っているのは今目の前で輝きを失っているミクリオ様である。

「あのですね…… 私がついうっかりミクリオ様のお名前を女将さんの前で言ってしまって……。その、言いにくいんですけど、女将さんの中で私の彼氏は…… えっと、ミクリオ様ということになっているんです」

「……は? …… ちょっと待ってくれ。僕が誰の彼氏だって?」

「私です」

 元気のなかった青い光がまた輝き出した。相変わらずミクリオ様の光は慌ただしい。きっと反応が良いから仲間の皆さんも彼を弄るのだろう。

「巻き込んでしまって申し訳ないです」

「い、いや、大丈夫だ。むしろ嬉し…… っ何でもない。それよりもエレイン、ザビーダには気をつけてくれ。何をしでかすか分からない」

「そんなに警戒しなくても大丈夫だと思いますけど。それにあれは挨拶みたいでしたし」

 ザビーダ様は気さくな方なのだろう。誰に対してもあの様な感じなのならばいちいち気にしていたらキリがない。スキンシップが激しいのは御愛嬌だ。しかしミクリオ様はそれが気に食わないのか黙り込んだ。

「ミクリオ様? …… っ?!」

 無言を貫いていたミクリオ様に話し掛けるのと同時に手が引っ張られる感覚がして頬にまた何かが触れた感触がした。ザビーダ様がキスをした頬とは逆の頬に今度はミクリオ様がキスをしたみたいだ。まさか彼までするとは思わなくて私は固まる。

「これはそのっ…… エレインが挨拶だって言うから! と、兎に角エレインは無防備過ぎだ!!」

「ええ?!」

 それだけ私に告げるとミクリオ様はロビーからいなくなった。完璧に言い逃げである。
それにしても、ザビーダ様の時はこれと言って何とも思わなかったのだが、ミクリオ様の時は違った。むず痒いような気恥ずかしいような……そんな感覚に陥ったのだ。
これは一体どういう事だと考えてみる。まさか私はあろう事か天族であるミクリオ様にただならぬ感情を抱いてしまっていたのかと思ったが、単にミクリオ様がらしくない行動を取ったから恥ずかしくなってしまったに違いないと結論付ける。
そう言う事にしておかないとこの先どういう顔をしてミクリオ様と接すればいいか分からなくなってしまう。
取り敢えず今はこの火照った頬をどうにかしなくてはならない。

 ロビーを後にしたミクリオ様がズルズルと壁に身体を預けて同じ様に顔を赤く染めていることなど私は気付かなかった。




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