真夜中の密会





 エドナ様の意味あり気なお言葉を聞いたその日の午後はミクリオ様をまともに拝見する事が出来なかった。それでもチラチラと青い光を目で追ってしまっている自分がいる事に気付く。
一度好きだと自覚してしまえばそんな自分の行為も案外すんなりと受け入れられた。むしろ自分にこんな女々しいところがあった事に驚いていたりする。


「はぁー……」


 夕飯を食べ、お風呂も入り終わり後は寝るだけだと布団に入るものの、これがなかなか寝付けない。

……ミクリオ様はもう就寝なされたのだろうか? 明日は朝早くにここを出てグレイブガント盆地に向かうらしい。
ミクリオ様の寝顔はどんな感じなんだろう……。そもそもお姿を拝見出来ないので寝顔云々の話ではないのだが。一目でいいからあの青い光ではなく、ちゃんとしたお姿を拝見したい。
 贅沢を言っているとは思う。本来ならば青い光も見えないし、声だって聞こえない。天族という存在そのものさえ人間の私達には導師の伝承と同じく夢物語。架空の存在だと認知しているのだから。
 スレイ様と出会い、そして私にそこそこの霊応力があったからこうしてミクリオ様達とお話出来ている。これ以上望んではいけない。

 そう思っていても人間は欲深い生き物だ。次々と私欲が生まれてしまう。天族に対しての聴覚、触覚が可能になった。次は視覚を完璧にしたい。その為にはどうすればいいのか。今までの感じからして、スレイ様が導師の力をもっともっと強めれば霊応力のそこそこな私でも今度こそ視覚がちゃんとするかもしれない。
 しかしながら、こうも他力本願なのもどうかと思う。自分の霊応力を上げる方法とかないのだろうか? やはり生まれ持った才能なのか。ロゼさんが羨ましい。むしろ天族であるライラ様やエドナ様が羨ましい。悶々とそんな事を考えていたら余計眠れなくなった。


「……駄目だ。全然眠れない」

 このまま目を瞑っていても眠れる気がしない。これは少し気分転換に外に出よう。夜遅いから危ないかも知れないが、大水車当たりならそこまで遠くない。夜勤のハイランド兵もいるから平気だろう。早速私は上着を羽織り、静かに宿屋を出た。



「み、ミクリオ様……?」

 昼間の繁忙した街並みが嘘かのように閑散としている。ゆっくりと歩みを進めれば、大水車の前に淡い青い光が浮遊しているではないか。もしかしなくてもこれは……。
 傍から見たら独り言に思われてしまうが、幸い辺りに人の気配はない。恐る恐るその光に──…彼に声を掛ける。

「エレイン?! どうしたんだこんな夜更けに! 1人で出歩くなんて危ないだろ!!」

「大丈夫ですよ。憑魔さんでしたっけ? 今までも何度か夜風に当たる為にこうやって外を出歩くことがありましたけど、会ってませんから」

「だから憑魔は人間には見えないと前にっ……」

 そうでしたっけと首を傾ければそう言えばあの時はまだ声が……と何やら落ち着かないのか、青い光が左右に揺れている。
 そこで私は改めて憑魔さんのことを教えて頂いた。強い穢れの影響を受けた人間や動植物が魔物になってしまい、その魔物のことを憑魔と呼んでいるらしい。
 因みに穢れとは憎しみや妬み、悪意といった人の心が生み出す負のエネルギーとのこと。憑魔は霊応力が強くなかったり、霊応力を持たない一般人にはただの凶暴化した人間や、動物、または意思を持っているかのような竜巻や雷といった異常減少にしか見えないようだ。
災厄の時代である今、山や森だけでなく、街中にまで憑魔が溢れ始めているから危ないとミクリオ様は仰った。

「まぁ、この街は加護天族のウーノが守ってくれているから憑魔が入り込むことはないと思うけれど」

「か、加護天族……?」

 何やらまた新しい単語が出て来た。再び首を傾ければ先程と同じ様にミクリオ様は嫌がることなく今度は天族について詳しく教えて下さった。
少し気分転換に出て来たつもりが、ちょっとしたお勉強会になってしまったようだ。それでもお慕えしているミクリオ様に偶然とはいえ、お会い出来たのが嬉しくて思わず笑みが溢れる。……願わくば、これからもこうして彼の傍にいたい。
真夜中の空で輝いていた月が雲に覆われ、何故だか私は無性に不安になるのだった。




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