嫌な予感がした。妙な胸騒ぎで落ち着かない。それはスレイを通じて従士であるアリーシャからレディレイクに凄い勢力を増した竜巻が向かっていると伝達を受けてからだ。レディレイクという単語に過剰反応してしまう。
「スレイ!」
「ああ。急いでレディレイクに向かおう!」
矢継ぎ早にそう答えたスレイはすぐ様馬に跨り駆け出す。穢れのせいもあるのか、空気がやけに悪い。レディレイクに近づくにつれてそれは酷くなっていくのがスレイと同調していても感じる。
実際、レディレイクは酷い有様だった。加護天族のウーノの力で抑えることが出来なかったのだ。相手はドラゴンだ。無理もない。尋常じゃないほどの穢れがレディレイクを襲ったのだから。
上空を飛び交う憑魔たちを天響術で相手をしているがキリがない。僕は一刻も早くエレインの無事を確認したいのに。
「ミクリオ、ごめん」
「分かってる。あのドラゴンを浄化するのが先だ。これ以上被害を広げないためにも」
僕の真名を呼んだスレイと神依し、神器の弓矢をドラゴンに向けて狙いを定める。エドナは本当にドラゴンを浄化出来るのかと聞いてきた。もし、それが可能であるならば自身の兄であるアイゼンを救える。
失敗すれば死ぬとスレイは言っていたが、スレイなら成功すると僕は思った。僕と同じくライラもスレイなら成し遂げてくれると信じているみたいだ。
「全てを貫け! 蒼穹の十二連!」
霊力の籠もった十二本の矢でドラゴンを突き刺さし動きを鈍らせた。そのまま地上に引き摺りすぐ様ロゼと浄化を開始する。浄化を初めて数十秒。たった数十秒でスレイとロゼに悍ましい程の穢れが全身に渡ったのか、二人とも苦痛な表情と呻き声を上げている。
「こっちだって……、まだ平気っ! スレイ!」
「流石だ、ロゼ」
「あたしは……風の骨の頭領だよ。これくらいっ」
言葉ではそう言っているがその顔は険しく息も荒い。耐えられずガクッと膝が地面に着きそうになるロゼ。そんなロゼを支える救世主がやって来た。
アリーシャだ。彼女はスレイに自分にも穢れを回してくれと頼む。そのお陰でロゼの負担は最初に比べれば減るが、それでもかなりキツイだろう。
呻き声を上げて浄化から逃れようと暴れるドラゴン。そのドラゴンをなんとしても倒したい僕たち。お互い一歩も譲らぬ攻防が続く。
先に根をあげたのは向こうだった。蒼い光と共にドラゴンは消えた。上空を飛んでいた無数の憑魔も後を追うようにどんどん消失していく。本当にギリギリではあったが、無事ドラゴンを浄化出来たようだ。
気を失った従士の二人をエドナとザビーダが支える。僕と神依を解いたスレイも辛うじて意識を保っているという状態だ。
「誰か!こっちに来て助けてくれないかい!? エレインが瓦礫の下に!」
「なっ?!」
スレイに手を差し出そうとしていた丁度その時、向こうから満身創痍といった様子の見知った女性が辺りを見渡し、叫びながら助けを求めていた。聞き間違いでなければエレインが瓦礫の下にいると言っていた。それだけでゾッとする。助けに行きたいのは山々だが、スレイ達も放っておけない。今しがたドラゴンを浄化したばかりなのだ。
「ミクリオ、エレインさんの所へ行ってきなよ。オレたちは大丈夫だ。ハイランドの兵も時期に来るだろうし」
「だが……」
「行かなかったら絶対後悔すると思う。早く助けてオレたちの元に二人で戻って来て」
「……すまない、スレイ。行ってくる!」
スレイは僕の返答に満足したのか、ロゼやアリーシャと同じように気を失った。負傷した仲間たちはこの街の兵に頼み、自分はエレインのもとに急いで足を進める。居場所は例の女将が叫んでいたので分かる。尤も、その場所は僕にとって慣れ親しんだ宿屋だ。
レイクピロー高地方面からレディレイクに来なかったので向こうがどんな惨状なのか分からない。だが、彼女が瓦礫に埋まっているということは酷い有様なのだろう。
走って宿屋に行けばやはりと言うべきか、半分以上が倒壊し、隣の民家からの貰い火を受け始めていた。目を凝らして見れば瓦礫の隙間から白い腕が見える。
「そこかっ。白き水よ、崩落せよ!スプラッシュ!」
絶妙な加減で辺りの炎を消した後に昇掃撃で邪魔な瓦礫をどかす。
「エレイン!」
頭から血を流しぐったりと倒れて意識の失っている彼女。そして僕は更に息を飲んだ。彼女の腹部には鉄釘のような形状の木片が貫通していた。