人と天族





「う〜ん、やっぱり不審に思われたかな?」

「仕方のないことですわ。彼女には私たち天族の姿が見えていないのですから」

 宿屋を後にしたスレイ達はレディレイクの街をぶらついていた。以前は穢れが街を覆っていたが、今ではブルーノ司祭を器とした加護天族であるウーノが地の主となったお陰でレディレイクとその周辺は加護領域によって守られ、人々は安全に暮らしている。

 街中を一通り回った後、スレイは中央区にある大きな大水車の前で先程の宿屋での出来事を思い出す。受付けの少女は自分達が予約した部屋に怪訝そうな顔をしていた。ライラの言う通り、人間である受付けの少女には自分の仲間である四人の天族が見えていないのだ。

 頬に手を当てて寂しそうな顔をしているのは火の天族、ライラ。彼女は天族の中でも主神と呼ばれる地位にある。172cmと女性にしては長身で、地に届きそうな程伸ばした毛先だけ赤い銀色の髪をポニーテールにし、赤を貴重としたお上品なドレスを身に纏っている。その美しい外見には似つかず、よく駄洒落を言ってその場の空気を凍りつかせていた。

「ま、ワタシには関係ないけどね。不審な目で見られるのは人間であるスレイとロゼだけだもの。……可哀想に」

「ちょっとエドナ!!ぜんっぜん可哀想だなんて思ってないでしょ!?」

 ノルミンのマスコットのついたお気に入りの傘をくるくると回しながら他人事のように話す少女は地の天族、エドナだ。
金色の髪の毛をサイドに束ねて結び、腰の辺りに薔薇と黄色いリボンがついた白地のワンピースを着ている。身長145cmと小柄で幼い顔立ちをしているが、かれこれ何百年と生きているらしい。その辺の細かい年齢に関してはライラとエドナにはタブーである。兎に角、可愛らしい外見とは裏腹に毒舌なのだ。現に今もロゼと言い合いをしていた。

「おい、喧嘩はやめろ。ロゼもこいつの挑発に乗るな」

「だってデゼル、エドナが!!」

 やれやれと黒い帽子のつばを手で押さえながらロゼとエドナの言い争いに溜息をつく天族がいる。風の天族、デゼルだ。
緑がかった銀色の髪に黒いジャケットと同色のパンツに緑色のインナーを着ている。クールで近寄り難い雰囲気を装っている青年だが面倒見が良く、博識で動物に好かれる体質の持ち主である。そんな彼はこの場にいない天族がいることに気が付いた。

「……奴がいない。何処に行きやがった」

「ああ、ミボのこと? ミボならまだ宿屋じゃないかしら。また熱心にあの宿屋の人間を見ていたもの」

 エドナが飄々と答えるのでデゼルは頭を抱えた。何故知っておきながら彼を連れて来なかったのか。そうデゼルはエドナに言いたいのだ。しかしエドナに言ったところで無意味である事は分かっている。

「ミクリオの奴、どうしたんだ? レディレイクの宿屋に泊まるって言うといつもそわそわしている気がする」

「それはきっと恋ですわ!!ミクリオさんは宿屋の彼女に恋をしているんですわ〜」

 親友を心配するスレイとは別に、全く違う方向に話を咲かせているライラ。そんなライラの推測にスレイはミクリオに限ってそれはないだろうと心の中で呟く。

 先程から話題に出ているのはスレイの幼馴染みである水の天族、ミクリオだ。
水色に近い銀色の髪に紫色の瞳、白い肌と外見は浮世離れした容姿の少年で、冷静沈着のしっかり者だがその真面目さ故にエドナからはからかわれ、終いにはヘンなあだ名までつけられてしまっている。

──自分と同じく遺跡マニアである彼が恋?

 些か信じ難いとスレイは思った。

「……噂をすれば。ライラ、ミボが来たわよ」

「ミクリオさーん!! 恋ですかー? 恋なんですかー? あ、恋と言っても魚の鯉じゃないですよー」

 漸く宿屋から出て来たミクリオをちらりと確認したエドナは直ぐ様ライラに告げる。ライラはキラリと目を輝かせ、獲物は逃がすまいとミクリオに突撃して行った。
突然の出来事にミクリオは何が何だか分からない。

「ライラッ! 全く、いきなり何なんだ!」

「またまた〜隠さなくて良いですよー。ミクリオさんは宿屋で働いているあの方がお好きなんですよね!」

「っ!? 僕は別にエレインさんのことは……」

「あれれー? どうして彼女のお名前を知っているんですかー? へぇーあの方はエレインさんと言うんですか」

 にやにやとライラは狙っていたかのように上手くミクリオに墓穴を掘らせる。ミクリオは顔を真っ赤にさせて否定しているが、もはや説得力が全然なかった。こんなミクリオは見たことがないとスレイは驚く。

「……ミボ、やめときなさい。あの子は人間でワタシたち天族とは生きる時間が違い過ぎるもの」

「……わかっている」

 エドナの忠告にミクリオは拳をギュッと握る。エドナの言う通り、人間と天族の寿命はあまりにも違う。人間は数十年しか生きられないが、天族は数千年という長い年月を生きる事が出来るのだ。
悲痛な顔をしているミクリオを見たスレイは改めて人間と天族の生きる時間の違いを実感するのだった。




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