自己紹介





「──…それじゃあ改めて。ここにいるのが火の天族のライラだよ」

 お客様が全員夕飯を食べ終え、私も女将さんや他の従業員と夕飯を食べてから約束通り導師様のお話を聞く。人目につきたくはないので私の部屋を案内した。部屋自体は広くない。実際には六人いるらしい導師様御一行には狭いだろう。
 
 導師様は自分とロゼさんの自己紹介を済ませると、ご丁寧にもう一度私に天族の方達の紹介を始めた。身長を表してくれているのか、手を上下に上げたり下げたりして私に説明する導師様。しかし、やっぱり私には何も見えない。

「ライラは聖剣に宿る湖の乙女で、聖剣祭の時に聖堂で会ったんだ」

「湖の乙女……。この街の聖堂に天族の方が……」

 乙女と呼ばれるくらいだからきっと女性の方なのだろう。身長を表してくれていた時はやけに大きかった気もするが。私は見えない彼女に向かって軽くお辞儀をする。
天族は人間にとって敬うべき存在だ。尤も、魑魅魍魎や霊などであるなら話は別である。

 ライラ様は導師となるべき人をずっとレディレイクの聖堂で待っていたらしい。

「それからオレの幼馴染みで水の天族のミクリオ」

 次に導師様は自分の横にいるらしき天族の紹介をした。名前だけでは女性なのか男性なのか判断がしにくい。身長も導師様が表してくれているが、ライラ様よりも小さい。どの道私には見えないのだから敢えて性別を聞かなくても良いだろう。しかし男性なら着替えを覗かれたりしていたらどうしようとかは思ったりもする。神的存在である天族の方達はそんなことはしないと思いたい。
 私はライラ様にしたようにミクリオ様にもお辞儀をする。導師様曰く、ミクリオ様は何故かそっぽを向いたらしい。嫌われているのだろうか。ちょっと悲しい。

 その後も導師様は地の天族であるエドナ様と風の天族であるデゼル様を紹介してくれた。真面目に紹介されると本当に天族は実在しているかのように感じる。実際、三人しかいない筈のこの部屋に何かいるかのような気配は感じなくもない。今までそんなことは一度も思わなかったのに何故だろうか。やはり導師様が改まって紹介するからだろう。

「すみません、私の自己紹介がまだでしたね。知っているみたいですが、エレインです。この通り、宿屋で働いています。今後も導師様御一行に泊まって頂けるよう精一杯尽くしますのでよろしくお願いします」

「そんな改まらなくて平気だよ! それにオレとあまり変わらない年齢だと思うし、敬語じゃなくてもいいよ」

「ですが導師様御一行は大切なお客様ですので。あ、勿論私のことは呼び捨てでも構いません」

 あくまで彼等はお客様である。それに立場的にも彼等の方が明らかに上だ。私も私で仕事上敬語を使っているのでいきなり口調を戻すのは難しい。
納得のいかないような顔をしている導師様はせめて名前で呼んで欲しいと言う。必死に頼み込んでくるので私はその勢いに負け、思わず了承してしまった。

「あの、導…… スレイ様、一つ聞きたい事があるのです。最近私の身の周りでおかしな事がよく起きているんです。実は……」

 私の頭を悩ませている超常現象について導師様基、スレイ様に話すことにした。この事は他の誰にも話していない。話したところで信じてもらえないと思ったからだ。しかし天族が見えるスレイ様なら超常現象も理解してくれそうだから意を決して話してみた。

「ごめん、それって多分……」

 頭を掻きながらスレイ様は私から目線を外して左側に顔を向けた。ロゼさんもスレイ様の見ている方向に顔を向けている。心当たりがあるのだろうか。私も二人が見ている方向に視線をやる。その方向には確かミクリオ様がいた筈だ。移動していなければの話だが。

「やっぱりミクリオみたい。偶にいなくなると思ったらそんなことしてたんだ。ごめん、迷惑掛けたよね」

「いえ、むしろ助けて頂き感謝しています。ミクリオ様」

 スレイ様はミクリオ様に謝らせようとしているみたいだが、私はそれに被せるかの如くお礼を述べた。今まで起きたどの超常現象も迷惑どころか助けてもらっている。その現象が天族であるミクリオ様だったとあればお礼を言うのは当然の事だろう。

「あの、スレイ様。ミクリオ様はなんとおっしゃっていますか?」

「別に大した事はしてないって。それから照れてるよ。……ってミクリオ! 叩くなよ!」

 どうやらミクリオ様は照れ屋さんらしい。それからスレイ様に手を差し出すよう言われた私は言われるがまま彼の手を握った。何やら彼は目を瞑ったり息を止めたりしているが、私には何をしているのかさっぱり分からない。何かの儀式なのだろうか。

「ぷはっ! やっぱ駄目かぁ……」

「あの……何をしようとしてたんですか?」

「実はオレを通じて天族の声がエレインに聞こえないか試したんだけど……。聞こえてないみたいだね」

 息を止めていたスレイ様は酸素をとり入れた後、残念そうにそう言った。どうやら霊応力の強い者は導師である彼を通じて天族の声を聞ける事が稀にあるらしい。
ライラ様曰く、私にもそこそこ霊応力が備わっているみたいである。しかし全く聞こえなかった。やはり私の霊応力はそこそこと言うべきか。そのうち見えるようになるかもとロゼさんは励ましてくれた。
 
 スレイ様は何故かミクリオ様に手を叩かれたらしく、その反動で先程まで彼と繋いでいた手が離れた。よく分からないがそれから二人は言い合いを始めたみたいなのだけれど私にはただスレイ様が壁に向かって話しかけているように見える。何だかそれがおかしくなって私は笑ってしまった。




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