本日のスレイ様達は次の目的地のために武器や食材等を調達し、それが終わればレディレイクで自由行動みたいだ。何でも次の目的地はレイクピロー高地で発見された遺跡に行くとのこと。遺跡の話をしているスレイ様はとても楽しそうで活き活きしていた。
彼等の日程はさておき、私はというといつも通り洗い物をして布団を干し、部屋を掃除した。実に代わり映えしない。でも苦ではないのだ。
「うっ……またあんな上の棚に……」
やる事が終わった私は趣味であるおやつ作りをしようとしたのだが、ちょうど砂糖を切らしていた。確か砂糖のストックは後一袋だけあった筈だと台所の戸棚を開けて探す。直ぐに見つける事は出来たものの、私の身長では背伸びをしても届かない。
「ぐぬぬっ…… 後少しなのに。仕方が無い。大着しないで台を持って来ないと…… って、え?」
台を持ってこようとしたのだが、砂糖の袋がふわふわと宙に浮き、私の手元にやってきた。私は目の前で浮いているその袋を受け取る。これはもしかしなくとも天族の方が今ここにいるのだろうか。最近の出来事を振り返ってみてもそれしか考えられない。
「えっと…… ライラ様ですか? …… って痛! 何っ?!」
おやつ作りを手伝ってくれるなんて女性であろうライラ様かと思い口に出して見たけれど、それを否定するかのように髪の毛を2回強めに引っ張られた。正直なところ痛い。ライラ様ではないのならまたミクリオ様だろうか。
そう思った私はミクリオ様の名前を呟いた。すると今度は軽く1回髪を引っ張られた。これは肯定と捉えていいのだろう。
「……手伝って下さるんですか?」
私の問いにまたもや髪が1回引っ張られる。ミクリオ様は人助けやお手伝いが好きなのかもしれない。
私の指示通りにせっせとミクリオ様は使う材料を用意する。何故か食器が何処にあるかも知っていた。もしかしなくとも前も私や女将さん等が料理をしているのを見ていたのだろうか。でなければこんな手際よく用意出来る筈がない。
「さて、アップルダンプリングを作ろうと思っているのですが…… 流石にミクリオ様にリンゴを剥いてもらう訳には…… って髪の毛引っ張らないで下さい!」
ミクリオ様は自分でリンゴを剥きたいのか、2回程私の髪の毛を引っ張る。何故私がミクリオ様にリンゴを剥いて貰うのを拒んでいるかと言うと、包丁が宙に浮いて万が一誰かに見られたりしたら大変だからである。尤も、包丁でなくとも驚かれるだろう。
幸運にも今日はこの時間帯に宿屋にいるお客様がおらず、女将さんや他の従業員も出払っているので見られる心配はないだろうが、用心するに越した事はない。
「ミクリオ様にはパイ生地を作ってもらいたいです。お願いします」
責任重大なお仕事ですよと付け加えたらあっさり承諾してくれた。いきなり蛇口から水が出始めたのには驚いた。ミクリオ様がきちんと手を洗ったのだと遅れて理解する。その後も手際よくミクリオ様はパイ生地を作っていた。
「お上手です。ミクリオ様は手際も良いですし、良いお嫁さんになれますね。…… って、だから痛いですっ!!」
褒めたつもりなのに今までで一番強く髪を引っ張られた。照れ隠しなのか、それとも本当に怒っているのか。恐らく後者だろう。確信を持っていなかったのにお嫁さんと言ってしまったのが悪かった。ミクリオ様は多分男の子だ。その証拠に必要ないと思っていた性別の質問をしてみたが、やはり男性かを問うた時に髪の毛を軽く1回引っ張られた。
それにしても、この髪の毛を引張って意思表示をするやり方をなんとか出来ないだろうか。毎回このやり方では私の毛細血管がお亡くなりになってしまう。何か他の方法を探していた時、私はアップルプダンプリングの作り方が書いてあるメモ用紙が目に入った。
「ミクリオ様、ペンと紙を渡しますので今度からはこれに伝えたい事を書いて下さい。あ、私はスレイ様みたく古代語は分かりませんのできちんと現代語で書いて下さると嬉しいです」
ミクリオ様にはお手数をお掛けしてしまう形になるが、これなら私もミクリオ様が何を言いたいのかが分かる。私の一方的な質問に答えるだけのコミュニケーションではなくなる。
ミクリオ様は早速ペンと紙を持って分かった≠ニ書いた。その後に彼は僕は男だ≠ニ私に書いて見せる。これは案外根に持つタイプだ。
それから彼は次々とメモ用紙に何かを書いていく。そんなに私に物申したいことがあるのか。これは近々メモ用紙を新たに調達した方が良さそうだ。
ミクリオ様の直筆による筆談を長々としていたらアップルダンプリングが焼き上がった。二人で焼きたてを試食した後、宿屋に戻ってきたスレイ様達にもお裾分けをした。美味しいと喜んで貰えたので満足である。