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非公認であるが爆豪くんは私の師匠になった。そう、非公認である。あの衝撃的な出会いの翌日。朝一番にお詫びの品を持って彼のクラスに向かった。ひょっこりと顔を半分だけ出す形で教室を覗き見る。朝のHRホームルームが始まるにはまだ早い時間。私のクラスと同様に登校している生徒は少ないのにも関わらず目的の人物はいた。机に足を乗せた姿は不良感丸出し。窓際の席ということもあってこちらに顔を向けず外を見ている。さて、どうしたものかと廊下をうろついていれば後ろからやって来た男子生徒に声を掛けられた。


「あ、あのっ!えっと、僕ここのクラスでっ……。その……誰かに用事なら呼んで来たほうがいい……かな?」

「えっ!いいのっ?!それは凄く助かる。ありがとう」

「(女子と喋っちゃった!!)」

緑色のモサッとした癖毛。頬にはそばかす。大きな丸い目が特徴の親切なこの男子生徒は緑谷くんと言うらしい。拳を握りしめながらなんだか形容し難い表情をしていた。


「じゃあ緑谷くん、師匠を……。あ、師匠って言うのは爆豪くんのことなんだけど……」

「かっちゃん?!ええっ?!師匠ってなに?!」

緑谷くんのオーバーリアクションによって教室にいた生徒の目が私たちに集まる。そんな大きな声も出せるの……。自信なさげな先程の喋り方からは想像がつかない。あ、爆豪くんがこちらに気付いた。“かっちゃん”と随分親しげな呼び方をする仲のようであるから緑谷くんが私に声を掛けてくれて助かった、……のだろうかこれは。

「み……緑谷くん、緑谷くんっ。なんだか凄い睨まれてる!なんで?!えっ仲良しなんだよね?マブなダチなんだよね?」

「マブなダチ?!ぼ、僕とかっちゃんはそんなんじゃ……。幼馴染みってだけでっ。……むしろかっちゃんには嫌われてると思う」

詰め寄る私に自分で言っておきながらずーんと落ち込む緑谷くん。二人の間に何があったのかは勿論知る訳もなく。けれども目の前で沈まれては居た堪れない。爆豪くんを見ればギロリとこちらにガン飛ばしながら手をバチバチさせていた。

「もしかして爆豪くんにとって緑谷くんは地雷だったり?……待って、私も睨まれてるから私も地雷?!昨日“跳び”掛かってしまったのがいけなかったんだ。いやでもあれはそもそも着地点に突然──」

「かっちゃんに飛び掛かったの?!その耳、見たところ宇佐見さんの個性はうさぎ。うさぎの跳躍、となると表記は“飛ぶ”というよりは“跳ぶ”のがいいのかな……。それはさておき、どれくらいの跳躍力なんだろう。聴覚や嗅覚も凄そうっ。気になるなぁ……。う、宇佐見さん、よければもっと詳しく──」

「オイてめェら!!なぁに勝手に人の名前出してベラベラ喋っとンだ!出入り口塞いで通行の邪魔なンだよ。悪口なら面と向かって言いに来いや。ブッ殺してやんよ」

いつのまにか目の前には爆豪くん。お互いに自分の世界に入っていた私たちは彼が勢い良くドアを殴った音がするまで気付かなかった。悪口を言ったつもりはないのだけれど……。出入り口を塞いでいたのは確かなのでそろりと端に避ける。登校して来たクラスメイトの為に気遣いの出来るところ、流石師匠だ。

「おはようございます師匠!昨日はご迷惑をおかけしました」

「てめェ……昨日のクソうさぎ女か」

「宇佐見ましろって言います。これからよろしくお願いします。師匠!」

「よろしくしねェわ!!つーか俺はてめェの師匠になった覚えがねぇンだよ!!」

「じゃあ今日から弟子にして下さい」

「あ゛ぁ?!するわけねェだろ!!」


やっぱり。

頭を下げて頼んでみたが即座に却下された。勿論分かりきっていたことなので改めて姿勢を整えて爆豪くんと向き合う。

「今は非公認でもいずれは師匠に公認してもらえるよう頑張ります!」

「誰が公認するか!!」

「あ、こちら昨日のお詫びです」

未だ私に対して文句を零す爆豪くんに紙袋を渡す。そんな私と爆豪くんのやり取りを隣で静観していた緑谷くんはまん丸おめめを更に丸くして“あのかっちゃんが気圧されてるっ“と驚いている。そうだろう、そうだろう。えへんと思わずドヤ顔をしてしまう。私との口論にこれ以上話しても馬鹿らしいと諦めた爆豪くん。この時点で私の勝ちである。

お詫びとして爆豪くんに渡したのはとっても美味しい苺大福。ちなみに私の大好物である。もちもちの生地と舌触りが滑らかなこし餡に包まれた甘酸っぱい大粒の苺。これが美味しくないわけがない。大絶賛する私とは違って彼の反応はイマイチだった。

「宇佐見さん、かっちゃんは辛い食べ物が好きなんだ」

「私と真逆!うわぁーやってしまった……。今日の放課後に辛い食べ物を買い直してきます」

自分の好物を選んでみたけれど失敗した。なるほど、爆豪くんは辛い食べ物がお好き。今後の為に緑谷くんからの情報を心のメモ帳に記しておく。非常に残念だがその苺大福は私が美味しく頂こうと思うので是非とも返品して欲しい。そんな矛盾を抱えた気持ちで紙袋へ手を伸ばす。

「余計なこと言うなクソデク!別に食えるわ!!てめェもいちいち詫びなんて持って来んな。まァ今回は勿体ねェから貰っとくけどよ。……んだその目は」

「…………ナンデモナイデス」

貰っちゃうのかぁ。
残念。




「──って感じで非公認だけど爆豪くんが私の師匠になりました!苺大福食べたかったなぁ」

「……は?……ごめん、ましろ。私に朝から宇宙背負わせないで」

自分の教室に戻った私は爆豪くんが師匠になった事を掻い摘んで友人に話した。恐らくそれがいけなかったのだろう。友人に宇宙を背負わせてしまいました。



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