とんでもなく凄いものを拾ってしまったかもしれない。そのノートのタイトルだけで興味がそそられる。切実に見たいのだけれどこれは誰かの忘れ物なのだ。勝手に見るなんてそんなこと、私には出来ない。
………。
………………。
……………………うん。やっぱり中身を見れば誰の私物か特定出来るかも。
前言撤回。宇佐見ましろ、欲望に忠実な女。ごめんなさいお父さんお母さん。ごめんなさいヒーローミルコ。そして師匠。私は悪い子でした。
お弁当を急いで食べ終え、いざご開帳と表紙を捲る。ちなみにこのノートは先程実験室で拾ったものである。前のクラスの生徒が実験台の下の棚に置き忘れていったのだろう。生徒の中では結構あるあるの話なので。勿論私も前科持ち。それはさておき今はノートだ。
「わっ……凄い」
将来の為のヒーロー分析。表紙にそう書かれている通り、世間で活躍している人気ヒーローから私が知らないマイナーヒーロー、更にはこの学校の生徒の個性まで分析されていた。この持ち主の探究心が止まることを知らない。私たちはヒーローではないのだけれど、もしもヒーローだったら。そんなたらればの話で書かれていた。もしかして、私も分析されていたりするのだろうか。見た目に個性が表れている生徒ばかりがノートに書かれている気がするので期待してしまう。
「あ、あった!私だ!」
最近書き足されたらしく、比較的後ろのページに載っていた。私の名前とクラス、個性。それからその個性を使ってどう
「多分緑谷くんのかなぁ……。あと自称ってところ、非公認に訂正して欲しいな」
「殆ど意味同じでしょ」
「それはそうなんだけど……」
いつものように一緒にお昼を食べていた友人が食後の野菜ジュースをストローでちゅーちゅー飲んでいる。その飲み物のチョイスは私だったら絶対にしない。にんじん1、2本分相当なんて恐ろしい表記が紙パックにされている。やば過ぎる。
「返さなくていいの?丁度昼休みだし」
「ん〜……あともうちょっと読んでから返してくる」
さっきまで勝手に見ちゃ駄目だって言ってたのに。ジト目と共にそんな副音声が聞こえた気がした。だって本当に凄いのだ。この緑谷くんのノートは。ナンバリングされているのでこれより前のものも是非見せてくださいと思えるほど良く出来ていると思う。彼の個性なのだろうか。相手を分析出来るとかそういう。……その割には私の友人のように見た目では分からない個性を持った生徒の情報はやはり載っていない。何より私の分析ページによってそれは違うと確信を持てる。
「私はただの“うさぎ”じゃないんだよね……。ここも訂正箇所だ」
「使いこなせてないならただのうさちゃんだよ、ましろ」
「むっ」
思わずムスッとしてしまうが正論なので言い返せない。使いこなせていないことは認めよう。だがしかしただのうさちゃんは嫌だ。だって、凄い弱そう。うさぎは強いんだから。ヒーローミルコがそれを証明してくれている。
「あーあ。ましろがちゃんともう一つの個性を使いこなせていたらこの夏も快適なのに」
「快適を通り越して凍死」
「そんな火力ないでしょ。せめて霜焼け」
「うきぃぃぃぃ!!」
「突然のさる」
うさぎですけど?!
私の返しに何故かツボにハマった友人は置いといて、ざっくり読み終わったのでお昼休み中に緑谷くんのところに行こう。今頃必死になって探しているかもしれない。
「うっ宇佐見さん?!も、もしかして中見たりとか!!」
「とても参考になりました!!」
「あばばばばば」
運良く教室にいた緑谷くんを廊下に呼び出した。その際に爆豪くんと目があって睨まれた。何故。周りの生徒から告白か、なんて揶揄われてしまっている緑谷くんに申し訳ないと思いつつもノート見せれば真っ赤だった顔が真っ青になった。やはりこれは緑谷くんので間違いないようである。そうして聞かれた問いにグッジョブと親指を立てながら答えれば追い討ちを掛けてしまったのか、頬に両手をあてて奇声を発してしまったではないか。アレに似てる。そう、アレ。昔の画家が描いたやつに。……あ、思い出した。『叫び』だ。
「ごめんね。名前が書いてなかったから中身見ちゃって……」
「そんなっ。そもそも僕が忘れちゃったのが悪いし。むしろ届けてくれてありがとう」
「あ、あと私のところのことなんだけどね」
「うわぁぁぁ。待って!宇佐見さん自分のページまで見ちゃったの?!気持ち悪かったよね!!?勝手に分析とかしててほんとすみません!ぼっ僕、気になったヒーローの個性とか直ぐにノートにメモしちゃう癖というかそれが趣味というかっ。止まらなくなってついにこの学校の生徒までヒーローと仮定して勝手に分析して気づけばどんどん冊数が増えてっ。ああああ」
ぺこぺこと赤べこのごとく頭を上げ下げして謝ってくる緑谷くんをどうどうと落ち着かせる。確かに驚いたけれど別に私は気にしていない。傍から見ても分かりやすい特徴を持った個性なのだ。今更である。これがトップシークレットな体重やスリーサイズとかなら話は別だけれど。
「それでえっと、緑谷くん。話を続けてもいいかな」
「あっハイ!」
「まず自称弟子ってとこを非公認に変えて欲しい」
「そこなの?!」
「1番大事なとこ!!」
いつでもメモを取れるようにかズボンのポケットからペンを取り出した緑谷くんは私の勢いに押し負けて備考欄をせっせと修正している。
「それからもう一つ」
次いで告げた言葉に緑谷くんはあんぐりと口を大きく開けてフリーズしてしまった。おかしいな、雪の個性を使ってないのだけれど。その数秒後に「1番大事なのはそこだよぉぉぉ」なんて叫ばれてしまって私のうさ耳のライフはゼロである。まったく、君の幼馴染揃って私のうさ耳を殺すのが上手いのだから。