白い砂浜に青い海で海水浴。
自然豊かなキャンプ場でバーベキュー。
夜空に花咲く大輪と夏祭り。
「えっ!このカフェ夏限定フローズンストロベリースムージー出すの?!これは飲みた過ぎる……。早く夏休みにならないかな」
夏の特集が盛り沢山の雑誌をうきうきしながら読んでいたのだけれど、目の前に座る友人が置いた分厚い参考書で押し潰された。思わずうげっと顔を顰める。そんな私に友人はというと、黒い笑みを浮かべながら再びその鈍器を手に持ち椅子から腰を上げているではないか。まさかそんな、殺生な。
「ましろ、やる気ある?」
違う殺る気に満ち溢れた友人を前に持参した雑誌を慌てて閉じる。嗚呼、現実に引き戻されてしまった。さようならフローズンストロベリースムージー。近い未来必ず飲むから暫しの別れである。
「テスト勉強に関係ない雑誌を読むな」
「休憩も必要かと……いや、何でもないですっ」
これ以上機嫌を損ねたら参考書が飛んで来る。そう確信したので板書したノートを見返し、テスト対策用に配布されたプリントと睨めっこを再開すればやっと腰を下ろしてくれた友人にひとまず安堵の息をつく。
「………………なるほど。全く分からないね」
どの公式を使えばこの問題が解けるのか。まずこの文章に出てくる男の子が林檎と蜜柑をいくつ買ったかとか興味がないので後回しだ。次の問題は林檎の値段が1個いくらか知りたいらしいが、値札を見ろという気持ちしか湧かないのでこれも飛ばそう。
「それは連立方程式で解くんだよ」
「…………私が知らないやつだ」
プリントに頬をつけて項垂れてみる。グシャっと音がしたが気にしない。私流のお手上げポーズだ。
「いやこっちもお手上げだからね?やっぱり私にましろは荷が重すぎるというか。うーん無理」
「言い方に悪意を感じる!」
「もう諦めな。赤点は友達でしょ」
友人の言う通り赤点とはマブなダチである。だがしかし駄目なのだ。一年生の時とは訳が違う。赤点を取ると夏休みが補習で潰れる。海に行けない、バーベキューも出来ない。噂によると夏祭りの日に補習を被せてくるらしい。慈悲もない。私のバカンスが消え去ってしまうなんて嫌だ。
「なにとぞっ。赤点と絶好したいからなにとぞ!」
「その割にやる気が感じられないから私に出来ることは何も……あー、そうだ。私じゃなくて爆豪くんに教えてもらいなよ」
「えっ?師匠?」
「そうそう師匠。見た目不良で性格に難有りだけど頭は良いの」
去年は一度も順位で勝てなかったと悔しがる友人に驚いた。だって彼女は凄く頭が良いのだ。その彼女の更に上を行くなんて凄すぎではないだろうか。爆豪くん、流石師匠だ。さっそく明日の放課後に勉強を教えてもらおう。友人がまんまと爆豪くんに私を押し付けたことなんて当然私は気付くこともなくその日の勉強会は閉幕した。
「師匠!数学教えて下さい!」
「あ゛?」
慣れた足取りで隣のクラスにお邪魔すれば帰り支度をしている爆豪くんを発見。慌てて駆け付けて彼の机に勉強道具一式を見せびらかす。前の席の気遣い溢れる生徒は椅子を使っていいから勉強頑張ってねと言い残して帰って行った。とても優しい。お言葉に甘えて椅子に座り準備万端さぁこいと机をバシバシ叩いてみる。
「あ、ちょっと!見捨てないで下さい師匠〜」
教室を出て行こうとする無慈悲な態度の爆豪くん。逃すものかと彼の肩に掛かるスクールバックを引っ張る。油断していたのかずるりと肩紐を腕から引き抜ぬけば簡単に人質を奪えた。人じゃないけど。
「返せや」
「数学教えてくれたら返すので!」
「誰が教えるかよ」
「じゃあ返せません!」
どちらも譲らぬ攻防戦にそろそろ爆豪が切れそうだ、青筋浮き出た彼の表情に察した皆は二人をあわあわ見守る緑谷を除いて全員教室を後にした。そんな周りに目を配れない私はぎゅっと人質を抱え込む。
「てめェほんといい加減に──」
「う、宇佐見さん!僕でも良ければっそのっ!……期末テストの範囲なら教えられたり……する……から」
「ほんとに?!」
私と爆豪くんの攻防に控えめな声で割り込んで来た緑谷くんを思わずガン見する。偏見だけれど確かに見た目からしてガリ勉感。ここは自主的に名乗りを挙げてくれた緑谷くんに教わったほうが良いのではないだろうか。
「緑谷くんのが師匠より頭良さそうだし、教えるのも上手そう。ってことで私は緑谷くんに教えて貰うことにするから人質返すね。引き止めちゃってごめんなさい師匠」
胸に抱きこんでいた人質をバチバチさせてる爆豪くんの手に戻し、彼の机に広げた勉強道具を今度は緑谷くんの机に置いて先ほど同様前の席の椅子を拝借すれば準備万端だ。それなのに緑谷くんは何やら真っ青な顔で体が振動している。携帯のバイブレーションの強設定がおかしいのではないだろうか。
「オイ、クソうさぎ女ァ……。誰が誰より頭が良くて教えるのが上手いって?もういっぺん言ってみろやコラ」
どこぞやの白い姫に出てくる魔女の台詞オマージュ発言である。そうか、私は鏡だったのかもしれない。であるならば真実を告げなければ。
「み、緑谷くんのが師匠より頭が良くて教えるのが上手そうだなぁ……って」
「あ゛?上等だ。てめェを今から教え殺したるわ。覚悟して死ね」
「え゛」
殺人予告と共に私の勉強道具を人質に取り自分の席にふんぞり返って座る爆豪くんにこれはどういう状況だろうと私よりも彼と付き合いが長い緑谷くんを見れば引き攣った笑いを浮かべながらリュックを背負い帰る気満々の姿が目に入る。
「待ってよ緑谷くん!魔女……いや魔王がっ!」
「よ、良かったね宇佐見さん!かっちゃんが教えてくれるって!じゃあ僕はこれで……」
私に人質を取られぬよう肩紐をしっかり握りしめて隙のない緑谷くんは私に背を向ける。先程までは教えてくれようとしていたのに突然の裏切りである。虚しくも伸ばした手は掴まれることなく教室の扉が閉まった。残されたのは私と爆豪くんのみ。彼はペラペラと私のノートをめくっている。落書きしてあるからあまり勝手に見ないで欲しいのだけれど。
「とっとと座れや」
「ハイ……」
こちらに親指を下に向けてサムズダウンする爆豪くん。あ、これは赤点どころか下手な点数を叩き出したら殺されると私ですら即座に悟った。