[09]
「…………は?」
死柄木は自分が置かれている状況をある程度理解するのに数分を要した。両腕両脚をヒーローに撃たれた事と襲撃に失敗して撤退した事、それから先生と会話をした事は覚えていた。けれどもそこから先の記憶は全くなかった。此処はアジトの見慣れた一室。傷の痛みに耐え切れず気を失った後、黒霧が個性でも使ってこの部屋に移したに違いない。それは容易に分かった。けれどももう一つ、彼にはどうしても理解し難い光景が目の前に広がっていたのだ。
「…………なんでいるんだ。不法侵入かよ」
死柄木の近くで彼の手を握りしめながら寝そべる止原友莉の姿があった。右手に感じた違和感の正体はこれだったのかと彼は舌打ちをする。自分が五指で触れているのにやはり崩壊しない。こうして彼が身をもって彼女の個性を体感したのは2度目だ。初対面の時は友莉が意識を飛ばした瞬間に解けた。けれども今回はどういう訳か発動し続けている。否、記憶の片隅に追いやっていただけで死柄木は知っているのだ。何故ならどうにかして彼と仲良くなろうと躍起になっていた友莉のほうから身の内を明かすように個性の説明をされたのだから。
直接手で触れた対象の個性を一定時間使用出来なくする。それが止原友莉の個性。直接触れている間は意識を失ったとしても解除されない。しかしながら手を離してから一定時間使用出来なくする為には彼女の意識がなければ駄目で。寝たり、気を失えば解除されてしまうのだ。一年前に比べれば詳細が分かりつつあるが、それでもまだ曖昧な部分も多い。尤も、彼女に限らず自らの個性を全て把握している人なんて殆どいないのではないだろうか。赤子が大人に成長するように個性も訓練次第で向上する。以前出来なかった事が出来る様になる可能性が高いのだ。
個性が突如発現した当初は友莉が睡眠をとったのに個性が解除されず、1ヶ月も爆豪勝己の個性を禁じた。恐らく個性の暴走なのだろう。今はだいぶ制御出来るようになり、彼女の任意で一定時間使用禁止にするかしないかを決めれられる。勿論直接触れている間は否が応でも発動し続けてしまう所は変わらない。これが今現在、死柄木が個性を使用出来ない原因である。
腕を少し動かせば友莉に掌をぎゅっと強めに握られてしまう死柄木。勿論、力任せにこの手を振り解くのは彼にとって簡単な事だけれど、何故だかそうしようとは思えなかった。そんな訳の分からない感情に彼は余計苛立つ。
雄英高校襲撃の際、友莉に対して嫌がらせも含め、幼馴染らしき人物の前に出したのは死柄木である。けれどもついて行きたいと言ってきたのは友莉のほうからだった。もしかしたら、……なんて勝手に期待し絶望した友莉の顔と、そんな彼女が
「……勝己くん」
「俺はおまえの幼馴染クンじゃない……。いい加減起きろよ」
死柄木がここ数日で聞き飽きた名前がその元凶である友莉の寝言から漏れる。口では諦めがついたと言って
「………ん。……え?あれっ。お、おはようございます?」
「おい、なんでおまえがここにいるんだ。……不法侵入だ。つーか手を離せ」
寝ぼけ眼で状況を理解出来ていない様子で友莉は死柄木を窺うが、彼からすれば逆にこうなった経緯を聞きたかった。何がどうなって自分は手を握られているのかと。先程は友莉が寝ていて返される事なく独り言に終わってしまったが、今度は大丈夫だろう。
「不法侵入?!違いますっ。いや違わないです……?えっと、ワープって不法侵入に入りますか?」
「……犯人は黒霧か」
「どちらかと言えば私がここにいるのは死柄木さんのせいかと……。」
「はぁ?」
友莉の説明は死柄木にとって俄かに信じ難いものだった。まさか自分が手を離さなかったから黒霧によって一緒にワープさせられたなんて。
「嘘つくなよ。起きたらおまえの方が握ってた」
「嘘じゃないです……。寝ている間に逆転してしまっただけで、最初は死柄木さんが私の手を掴んで離さなかったんです」
「そんなの有り得ないだろっ……」
死柄木は認めたくなかったが、疑うようならと黒霧の名前を出して来た所で舌打ちするしかなかった。この五指が求めるのは崩壊だけでいいのに無意識に人の温もりを求めていたという事実が気持ち悪いのだ。自分が自分じゃなくなる感覚に彼は吐き気を覚える。
「死柄木さん?!大丈夫ですか!」
「うるさいなぁ。……おまえもう出てけよ」
「それは嫌です!死柄木さんは私に手を差し伸べてくれました。嬉しかったんです。……例え気紛れだったとしても仲間と認めてくれたみたいで。私にはもうここしか居場所がないんです。だからどうか一緒にいさせて下さい。それにあの二択を覚えていますか?私はまだ塵になりたくないです」
何を突拍子もないことを語り出すのかと思いきや、どうやら友莉は死柄木の言葉を間違って捉えたようで。互いの相違に気付き面倒臭いがここは訂正しなければならないと口を開く死柄木。
「……勘違いするなよ。この部屋から出てけって意味だ」
「じゃあこのアジトにはいてもいいんですよね?」
「……先生の気が変わらなければな」
「ありがとうございます!あ、あとオール・フォー・ワンに死柄木さんの補助を頼まれました。銃で撃たれて何かと不便だと思うので遠慮なく私に言って下さい」
友莉のその言葉に死柄木はもはや起きてから何度目か分からない舌打ちをした。
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