[08]



 死柄木さんの機嫌が良かったのだろう。気紛れで私を出久くんと勝己くんの前に連れ出し、彼等とそしてほんの少しだけ彼等に期待していた私に絶望を与える為。だから手を差し伸べてくれたのかもしれない。……それでも良かった。一方的に私が話をしているだけで聞いてくれていなかったと思っていたが、私の名前や幼馴染達の事を死柄木さんは覚えてくれていたし、私の個性を知りつつも手を差し伸べてくれた。それが何より嬉しかったから。

「ってぇ……。両腕両脚撃たれた……。完敗だ」

 スナイプ先生の個性であるホーミングにより正確に弾丸を4発撃ち込まれた死柄木さんはアジトの床に蹲っていた。脳無さんが良いところまでオールマイトを追い詰めてくれたのだが雄英高校の教師陣が来てしまい、死柄木さんも負傷したので黒霧さんの個性で今回は撤退を余儀なくされたのだ。

「脳無もやられた。手下共は瞬殺だ……。子供も強かった……。平和の象徴は健在だった……!話が違うぞ、先生……」

 死柄木さんの嘆きに対して違わないよとモニターから返答があった。その人物は彼が先生と呼び慕うオール・フォー・ワンだ。一度自己紹介をした私であるがヴィラン連合を裏で牛耳る悪の親玉とあってか、声だけでも威圧感が凄くて苦手だった。そんなオール・フォー・ワンと共に聞こえてくるのは自らを彼の主治医と言い張るドクターと呼ばれる人物。

「ワシと先生の共作、脳無は?」

「吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握出来なければいくらワープとはいえ探せないのです。そのような時間は取れなかった」

 そう、黒霧さんの言うように今この場に脳無さんはいない。オールマイトによってヒーロー科が使用する演習場の窓を破り、吹き飛ばされてしまったのだ。あれだけ勢いよく飛ばされたら一溜りもない。常人では死んでいるだろうが、脳無さんは改造人間らしいので生きているはず。私自身がそれを願っていた。忠犬のように私の後ろを着いて回る脳無さんがいなくなってしまった事が寂しい。

「一人……。オールマイト並みの速さを持つ子供がいたな……。あの邪魔がなければオールマイトを殺せたかもしれない……。ガキがっ。……おい、お前の幼馴染クンだろ?地味な緑のほう。……あいつの個性はなんだ?」

「……知らないです。彼、私と同じでずっと無個性だったんです。あんな、あんな凄い力がある出久くんを私は知りません」

 出久くんが今までずっと個性を隠していたとは考え難い。私と同じで中学生の時に発現したのではないだろうか。死柄木さんに殴りかかろうとした彼の攻撃は身代わりになった脳無さんによって吸収されてしまったものの、並大抵の常人が出せるパワーでは無かった。

「あれが無個性なわけないだろっ……。チッ……使えねぇ」

「そう彼女をあまり責めないで。悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ。精鋭を集めよう!じっくり時間をかけて。我々は自由に動けない。だから君のようなシンボルが必要なんだ。死柄木弔!!」

 次こそ君という恐怖を世に知らしめろとオール・フォー・ワンに告げられた死柄木さんの目は強い憎悪と決意に満ちていた。しかしながらそれも一瞬で。まるで糸がぷつりと切れたかのように彼は気を失ってしまった。普通に喋っていたから忘れかけていたが、彼は銃弾を4発も撃たれているのだ。床には血溜まりが出来始めている。

「死柄木さんっ!」

「……止原友莉、君が今すべき事は分かるかい?」

「……し、死柄木さんの手当て……でしょうか?でも私っ!銃で撃たれた人の処置なんてした事ないですっ」

「そんな事は分かっているよ。あちら側のように治癒の個性を持った者が我々にはいないが、闇医者くらいならいる。直ぐ手配しよう。君の役目は治療をし易くする為にその個性で弔の個性を止めること。治療後は彼の補助をして欲しい。暫くは生活に不自由すると思うからね」

「わ、わかりました……」

 少しでも何か役に立てる事が私にもあるならばやろう。むしろ初めからそのつもりだった。ただ、私よりも黒霧さんやそれこそモニター越しにいるドクターの方が適任だと思ったのだ。

 それから間もなく、謎の黒い液体から人が現れた。恐らくその人がオール・フォー・ワンが手配してくれた闇医者なのだろう。白衣は着ているが怪しげな風貌であるその人によって死柄木さんの怪我は処置された。私はその間、ひたすら彼と手を繋いでいただけ。気を失っても傷が痛むのか、時折り私の手を握り締めるのでそれに応じていた。

 細胞の損傷により免疫力が著しく低下した死柄木さんはこれから発熱するだろうからと闇医者は何処から入手したのか分からない内服薬や外用薬、その他必要な医療用品を私に渡すと来た時と同様謎の黒い液体に呑み込まれるようにこの場から消えた。同時にオール・フォー・ワンとドクターとの中継も途絶える。現在は黒霧さんの個性で死柄木さんの私物と化しているアジトの一室に彼を移動したところだ。……私も共に。怪我をしているのに一体何処からそんな力が出るのか分からないが、何故か私の手を掴んで放さない彼に困惑していた私もまとめて黒霧さんがワープさせたのだ。

「それでは死柄木弔をよろしくお願いしますね、お嬢さん。私はこれから後始末等ありますので」

「えっ?!……黒霧さっーー…」

 私にそれだけ言い残した黒霧さんは自らの個性で消えてしまった。待ってと死柄木さんに掴まれていない方の手を伸ばすも虚空を切っただけに終わる。

「……どうすれば」

 未だ放してくれなそうな手。包帯をぐるぐると巻かれているそれは見ていてとても痛々しい。私は猫の様に身体を丸めて眠る死柄木さんを暫く眺め続けることしか出来なかった。


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