[05]



 沈んでいた意識を浮上させ、最初に視界に入ったソレに微睡んでなんていられなかった。慌てて飛び起きるも手首が背面で結ばれているようでバランスを崩し、再び床に倒れてしまう。そんな私に興味深々といった様子でソレは顔を近づけ覗き込んでいる。黒い筋肉質な巨躯。ギョロっとした飛び出しそうな目。裂けているのではないかというくらい大きな口。頭部は理科室で見かける人体模型のように剥き出し。異形型差別は良くないがおおよそ同じ人間とは思えなかった。……正直寝起きにはキツイ。どんなホラーだよと。

「なっ……えっ……?」

「やれやれ、やっとお目覚めかよ」

 声のした方へ視線を向ければ不健康そうな不気味な例のヴィランがいて、顔や身体に人の手を追加していた。いや、全く意味が分からない。気を失う前にはそんなオプション付けていなかったのに。そもそも自分は何故殺されずに助かったのか。

「此処は一体……」

「面倒臭いなぁ。黒霧、やっぱり人質なんて必要ないよ……。俺の個性もこの餓鬼が気絶した時に戻ったしさぁ。それに誘拐しても気付くだろ。天下の雄英高校だぜ?」

 あの時殺しといても良かったと言った彼は手に持っていたグラスを一瞬で塵にした。あれが彼の個性なのか。私もグラスのように塵にされていたのかもしれないと思うと心臓がひゅっとなる。やっぱり死ぬのは怖い。あんなの、私の個性より余程……。口にしてしまいそうな言葉を飲み込む。その言葉は言われて嬉しいものではない。尤もヴィランである彼にしてみれば喜ばしい言葉かもしれないが。

「死柄木弔、何事も慎重にいくべきです。我々がこれから襲撃するのは貴方も知っての通りあの雄英高校です。勿論万全を期すつもりですが、不足の事態に備えることも大切。彼女はその為の人質です」

「はぁ……分かったよ。平和の象徴オールマイトを殺せればなんでもいい」

 雄英高校襲撃予告に平和の象徴オールマイトの殺害予告。穏やかではない。そんな大口を叩けるということは余程彼等は自信があるみたいだ。雄英の教師は一般学校の教師とは違ってプロヒーロー。それに加えてNo. 1ヒーローであるオールマイトをも倒せる策があり、私はどうやら万が一失敗した時の人質になってしまったようである。ついてなさ過ぎる。
それから私をお昼休みに誘拐したからバレると思っているようだが、既に早退したことになっている筈なので雄英側には騒ぎ立てられないに違いない。両親も私が家に帰っていなくても何も言わないだろう。……自分で言うのもあれだが、可哀想だな私。そもそも人質にするほど利用価値があるとは思えない。

「人質って……交渉を有利にする為ですよね?それなら人選ミスです。私、モブですよ」

「……随分良く喋るモブだな。この状況分かってるのかよ。その言葉は自分の首絞めてるぜ。……人質にすらならないなら殺すか。ゲーム開始時点で既に死んでるキャラ決定な、おまえ」

 なんでヴィランを煽ってしまったんだ自分。やっぱり馬鹿だ。普通は命乞いとかするだろう。カウンターチェアから立ち上がりこちらに手を伸ばした彼。手首が拘束されている私はあの時のように個性を使ってやり過ごすことは出来ない。
今度こそ死を覚悟し目を瞑ったのだが、一向に痛みはやって来なかった。変わりに身体を何かで包み込まれるような感覚と小さな浮遊感があった。

「……邪魔をするな、黒霧」

「全く、直ぐ頭に血が上るのも考えものですね。脳無、彼がそこのお嬢さんを殺さないよう見張ってて下さい」

 恐る恐る目を開ける。先程まで目の前に居た彼と一瞬にして距離が空いていた。彼から少し離れた場所に移動した自分と私を背後に隠すようにやって来た巨躯。

「あー……苛々するなぁ。寝る。……作戦会議は後だ」

 首に装着した手のオブジェを器用に避けて皮膚を痒いた彼は奥の部屋へと消えてった。荒々しく扉が閉められたのでとても機嫌が悪いのだろう。きっと私を殺せなかったからだ。

「あの……ありがとうございます。黒霧さん?と……えっと、脳無さん?」

「御礼を言われるとは思いませんでしたね。貴方は我々ヴィラン連合に誘拐されているというのに」

「それでも、殺されそうなところを助けて頂いたので」

「……もう少し危機感を持つべきですよ。怯えていたのは最初だけですか?中々肝が据わったお嬢さんですね」

「死柄木さんは兎も角、黒霧さんは私を殺さないでしょう?」

 こんな私でも人質という利用価値があると思っているようなのでと皮肉を言えば「貴方も死柄木弔同様中々拗らせてて癖が強そうだ」と返された。私からすれば黒霧さんも脳無さんも癖が強いし、見た目のインパクトも半端ないと思うのだけれど。


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