[06]



「やぁ、弔。遅かったね」

「……先生」

 軽い睡眠を取るつもりが思ったよりも寝てしまっていたらしい死柄木。そんな彼が再びバーカウンターのあるメインスペースに戻って来ると、既に先生ことオール・フォー・ワンとの中継が繋がっていた。こちらのモニターは砂嵐状態でその姿を確認出来ないが、どうやら向こうにはこちらがしっかりと見えているようで。気怠げな様子で遅れてカウンターチェアに腰掛けた死柄木にも直ぐに気付いた。

「君が来ない間に黒霧と先に雄英襲撃日や作戦を決めておいたよ」

「……いつだ」

 自分抜きで勝手に計画を進められている事について些か不満があるが、彼にとって最優先事項はオールマイトを殺すこと。策略を立てるといった類いは自分よりも先生や黒霧のほうが向いていると自覚していた。自分は攻略本を手にゲームを淡々と進めてラスボスを効率良く倒せればいいのだ。

 日程や襲撃の場所、作戦等細かく聞いていれば時折耳に入る雑音。耳障りなそれが死柄木を段々と苛つかせた。発生源を見れば例の人質の餓鬼がどこから調達したのか知らない掛け布団に包まれながら空咳をしていた。額に置かれたタオルをちょうど脳無が取って桶で濡らし、再び餓鬼の額に乗せて甲斐甲斐しく世話を焼いている風景も一緒に飛び込んで来て眉根を寄せる。一体自分は何を見せられているんだと。対平和の象徴、改人脳無とは思えない行動っぷりだ。自発的に行動が出来ないので黒霧にでも命令されているのだろうが、コレの本来の使い方ではない。

「お嬢さん、風邪を引いていたようでして。あの後、個性について聞いていたら直ぐにまた気を失ってしまったんです」

「そんなことはどうでもいい。……おい脳無、うるさくて気が散るから捨ててこい」

「ああ、捨てたら駄目だよ脳無。弔、彼女は我々の仲間になってもらおうかと思っているんだ」

「……はぁ?話が違うだろ。この餓鬼は黒霧が人質にするって言うから仕方なく連れて来たんだ」

「中々面白い個性を持っているようでね。向こう側に渡る前に引き込んだほうが都合が良いと先程黒霧と決めたんだ。勿論君にも良い影響を与えてくれるかもしれない」

 個性が欲しいのなら先生の個性で奪えば手っ取り早いのに、何故しないのか。勿論彼が自由に動けないことは死柄木も理解しているつもりだ。そうであってもこの餓鬼を仲間に引き入れる必要性を感じなかった。脳無のようにオールマイトを殺せるだけの手駒になり得るとは到底思えない。弱そうだし、人殺しなんてした事のない表社会の人間。自分に良い影響を与えるなんて想像が出来ないばかりか、何より彼は餓鬼が嫌いなのだ。根本的に受け入れられる気がしない。考えただけで皮膚の痒みが増した。また自分のいない間にとんとん拍子で事が決められていて、この件については納得がいかない。それでも先生が決めた事ならば今は従うしかないのだろう。不本意であるし、認めてもいないが。

「じゃあ弔、まずは手筈通り仲間を集めよう。今回は精鋭じゃなくてもいい。それこそ路地裏にいるような小物でも。襲撃場所は何せ広いからね。色んなタイプの個性を持った同志が沢山必要だ。頼めるかい?」

「……分かったよ」
 
 現状、外で勧誘出来るメンバーは死柄木と黒霧しかいない。この場に残り餓鬼の面倒を看るなんて事になったら堪らないので選択肢は一つだ。すっかり外は日が沈んでいる頃だから先生の言う通り、路地裏にはゴロツキが沢山いるだろう。片っ端からそれっぽいことを言って仲間にしよう。歯向かって来たら殺せばいい。死柄木にとってヴィラン連合への勧誘は手下も増やせるし、鬱憤も晴らせるしで一石二鳥だった。


「……本当に死柄木弔にとって良い影響を与えるでしょうか」

 機嫌が悪そうだった死柄木に出した手付かずのグラスを洗った黒霧は、彼がこの場を去っても尚、中継が切れていないオール・フォー・ワンに向けて話しかける。視界には幾分顔色が良くなった少女と寄り添う脳無。黒霧の命令に従っていたのであるが、ソレの中で母性本能か何かが目覚めている気がしないでもない。尤も元は恐喝の前科がある鱈子唇のチンピラに過ぎないのだが。この脳無にとって彼女は既に守るべき対象と認識しているのだろう。

「人は護るべきものがあると時に驚異的な力を発揮することがある。こちらにもそんなキーとなる人物が必要だと思わないかね?……或いは大切にしていた人がヒーローに殺されて絶望に染まった彼に更なる力がもたらされるかもしれないね。そのシナリオでも良さそうだ」

 声を弾ませながらそう語る彼に黒霧は改めてこの男の心根の悪さを感じた。彼には彼女の命なんてどうでも良くて、自分の後継者として育て上げている死柄木にとって必要か否か。彼女が今後本当にこちら側に身を置くならば、その命は死柄木に握られてるも同然だと黒霧は思った。

「弔にとって吉と出るか、凶と出るか。もし後者だとしたら彼女は始末しなければならないね」


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