[07]



「……あ。し、死柄木さんおはようございます。……えっと、ご飯作ったんで良かったら……」

「……。いらねぇって言っただろ。うぜぇ」

 今までで一番綺麗に焼けた卵焼きが塵になった。死柄木さんは私の顔も見たくないのか、奥の部屋に戻ってしまう。やはり今日も駄目だった。

 あれから、何故か私はヴィラン連合の仲間に勧誘された。勧誘してきたのは黒霧さんではなく、まさかの私に対して嫌悪感満載の死柄木さんだ。風邪でダウンしている間、彼等が誰かと話している様な気もしたけれど、朧げで覚えていない。再び気を失う前に黒霧さんに自分の個性を少しだけ話したので待遇が変わったのはそれが原因だろう。縛られていた筈の手首も私が起きた時には既に外されていた。彼等にとって人質としてよりも私を仲間に入れたいくらいの利用価値が出来たという事。逆を言えば利用価値がなくなればあっさり切り捨てられるのだろう。

 ヴィラン連合に入るか塵になるか、私が死柄木さんに言われた選択肢はその二択で。死ぬ恐怖を体感してしまった私には現状前者しか選ぶことが出来なかった。ヴィラン連合に入るくらいなら死ぬ、なんて覚悟も勿論ないし自ら脱出しようとする気にもならなかった。だって彼等は少なくともこんな私を必要としてくれているのだから。……死柄木さん自身には必要とされていないだろうけれど。

 仲間になったからといって私に殺しなんて出来る筈もなく、彼等に手料理を振る舞ったり、掃除をしたりと家政婦的な役割しか担えていない。死柄木さんに至ってはご飯を作っても食べてくれないし、彼が占拠しているパーソナルスペースも立ち入り禁止だ。当たり前かもしれない。飲食店で働くシェフならまだしも、信用していない人の手料理を口にするのが苦手なタイプも沢山いる。それこそ私が何か毒物を混入しているかもと彼は疑っているのかもしれない。

「……はぁ。あ、脳無さんもご飯ありますよ。食べて下さいね」

 初めこそその風貌が怖かったが、死柄木さんが私に対して睨みをきかせてくると背に隠してくれたり、掃除をすれば後をついて来るだけで特に害はなく、むしろ脳無さんと一緒にいる事が一番多いので慣れてしまった。慣れると忠犬みたいでちょっと可愛いと思ってしまっている自分がいる。

「死柄木弔はもう起きてきましたか?午前が終わってしまっていますけども」

「えっと、起きては来たのですがまた……」

 買い出しに行っていた黒霧さんが自身の個性であるワープゲートを使って戻ってきた。便利な個性だなぁと羨ましく思いつつ、彼の問いに返答する。見るからに夜行性っぽい死柄木さんは夜に仲間を勧誘しているらしく、お昼頃まで寝ているので今日も先程起きてきたのだ。卵焼きの残骸を片付けている私の手元を見て全てを悟った黒霧さんは呆れた様子で溜息をついた。

「全く、食べ物を粗末にするなんて幾つですか……」

「黒霧さんが作れば食べてくれます。私だから駄目なんです」

「彼は癇癪持な所がありますから、私が作っても食べてくれない日のが多いですよ」

 黒霧さんですら駄目な日が多いのなら、私なんて一生無理なのではないだろうか。なんとか死柄木さんに歩み寄ろうと努力しているのだが話術もない。日常的な挨拶をするくらいであるし、そもそも話しかけようとした所で向こうにその気がないので八方塞がりだった。

「まぁ、そう気を落とさないで下さい。……ところで、死柄木弔の個性はご存知ですか?

「触れた相手を崩して塵にする個性だと思っています」

「正確には五指、つまり五本の指全て触れた対象を崩す事が出来る崩壊という個性です。自身でオンオフを切り換える事が出来ないようでして、常に指を1.2本離して物を持つのが癖になってます。……癖、というよりはそうするしかないのですがね」

 五指で触れてしまえば、自分の意志と関係なく崩してしまうからそうせざるを得ないという事。自然と当たり前に癖をつけるのは大変だった筈だ。彼の個性の場合、私の個性と違って手袋で制御出来るとかそういった事は出来ないのだろう。きっと手袋そのものが崩れておしまいだ。

「死柄木弔に崩される事なく触れられるお嬢さんの存在はとても貴重です。ですから貴女には是非とも彼のストッパー兼トリガーにもなって頂きたいのです」

 やはり私の個性が目当てだった。それ以外に考えられなかったから別段驚きはしない。ストッパーは分かるがトリガーになるとはどう言う事だろう。彼の何に対して引き金を引けばいいのか。今の私では皆目見当が付きそうになかった。それでも、此処で生きる為にはどうにかその役割を果たさなければいけない。でなければきっと殺されてしまうのだから。


prev next

目次へ
Top