02
気になってる奴がいる。そいつは同じ雄英生で、朝だと同じ時間の電車に乗ることが多い。空色で雲みてェにふわふわした髪の毛。歩く度にぴょこぴょこと動くアホ毛は他の髪より色が薄い。女子の髪型の名前とか正直分かんねーけど、多分ゆるふわっていうやつ。小柄で色白なそいつによく似合っていた。賑わう駅のホームで空を見上げながら微笑むその姿に目を奪われてからだと思う。そいつを意識し始めたのは。
「うわ〜。切島どうした?顔がニヤついてるじゃん」
「そーいえば今日遅刻してたな。なんか人助けしてたんだっけ?先生に言い訳してたし」
「上鳴に瀬呂、俺は言い訳じゃなくて本当に女子生徒助けたんだって!嘘じゃねェ!」
それも前から気になってた例のゆるふわアホ毛女子。初めて話すきっかけとなったのがあの痴漢野郎のおかげとか正直かっこ悪りぃ。機会はいくらでもあった。それこそ同じ号車乗ってるし、さり気無く近くに寄ってみたり。相手は全く気付いてねェが。……ってやべー、もしかして俺ストーカーじゃん。いやいや、御礼言ってくれたし大丈夫だよな?!しかも貴方は私のヒーローですって……最高過ぎだろ。
「助けた女子に一目惚れされて告白されたとか少女漫画展開起きてお前ニヤけてんの?」
「こ、告白?!何言ってんだよ上鳴!ちげェよ、つか相手は俺の事知らねーし……」
「相手はってなんだよ……相手はって」
「うるせーな瀬呂!そこ強調すんな!!」
墓穴掘った俺の言葉を聞き逃さない瀬呂。容赦ねーなって思っていたら話はその女子生徒の事になってどんな感じの容姿でどんな個性だったとか個人情報漏しちまった。
「……つーか話に聞く限りお前めっちゃその子の事好きじゃね?なんかこう、好き好きオーラがすげーよ」
「ゴフォッ?!っはぁ?!おまっ!瀬呂ォォ!」
瀬呂の奴がおかしな事言うもんだから思わず口に含んでいたお茶を吹き出してしまった。勿論元凶の顔に。汚ぇとか言ってっけどそれ所じゃねェ。確かに小柄で可愛いし、正直タイプではあるけど、そんくらい健全な男子高校生であれば誰しも思う事だろ?
俺の左側で顔を拭いてる瀬呂から目を離し、前の席に座る上鳴に同意して貰いたくて視線を戻す。背凭れに向かって逆座りしているこいつは何かを考えてるような顔をしていた。
「雄英生……小柄で空色の髪にアホ毛、個性が天気?……なぁ、それって青空じゃね?青空千晴ちゃん」
「お前知ってんのか?!しかもちゃん付けとか慣れ慣れしいなっオイ」
「俺、同中だったんだよ。一年と三年の時同じクラスだったから知ってる。雄英の経営科受かったって言ってたけど、切島マジか〜。……まぁ、守ってやりたくなる様な感じの女子だよな。ふわふわしてっし。俺、中学入って直ぐにナンパした事あるけど真面目な感じで駄目だった」
「直ぐナンパっておめェ何してんだよ!」
さらりととんでもねー事言いやがったぞこいつ。見た目通りチャラ過ぎるだろ。俺なんて今日漸く喋ったのに。それも名前聞くのも忘れたし、自己紹介すらしてねェ。……駄目だ、自分のヘタレ具合に凹む。漢気どこ行ったし。机に顔をへばり付けて項垂れていれば、顔を拭き終えた瀬呂が再び会話に混じってきた。
「ニヤついてたり怒ったり凹んだり、今日の切島は忙しいなー。髪の色派手な割に硬派な男だよな、上鳴と違って」
「俺と違ってって……ひでぇじゃん。……しかしまぁ個性が硬化だけに硬派な男、切島鋭児郎ってか?……やっば、俺上手くね?」
「上手くねーよ!揶揄いやがって。……瀬呂も笑ってんじゃねェ!」
悪ぃ悪ぃなんて言ってるがこいつ等微塵もそんな事思ってねェだろ。どっちもゲラゲラ笑ってるし。折角良い気分だったのに最悪だ。
「青空にとって切島は恩人だし、気になってんなら今度から話しかけてみればいんじゃね?」
「そんな簡単じゃねェだろ……。迷惑かもしんねーしよ」
上鳴みてーに気軽に話せたら苦労しねェ。……これだけ気にしてるのは瀬呂の言う通りそういう事なのか?分かんねェ……。今までだって良いなって思った女子くらい何人かいた。だけど良いなってだけで付き合いたいとか思った事はねェし。昔は地毛色の黒髪で、きちんとセットもしてなくて。個性も今より硬度がねェから弱ぇだの地味だのって言われてた。心に漢気があれば個性なぞ関係ねェって思ってはいても、結局個性を含めて自分に自信がなかったから、きっと諦めていたんだ。俺みたいな奴が告白したってフラれるって。
「取り敢えずさ、挨拶とかから始めてみれば?後はそうだなぁ〜……青空って天気の事詳しいし、そういう個性だから毎日今日の天気とか明日の天気とか聞いて話すきっかけにするとか」
「おお、上鳴ナイス。それいいじゃん。切島だってそんくらいならイケるだろ」
どうやら二人の中では俺が恋をしていると決めつけているらしい。勝手にああだこうだと俺を置いて盛り上がっている。どの道もっと仲良くなりてェとは今日話してみて思っていたし、癪だが上鳴の案を採用してみっか。
よし、明日からだ。
明日から頑張れ、漢を見せろ俺!