04

「今日雨降るって言ってなくね〜?俺傘持って来てねぇし!おい切島お前は?」

「おー、俺の置き傘使っていいぞ上鳴」

「え、いいのか!サンキュ〜……ってお前は折り畳み?……まさか俺と相合傘か?!それってなんか気持ち悪くね?」

「ちげェよ!お前とはしねェから!つかお前それ借りる態度じゃねェぞ」

 七限目の戦闘訓練が終わり、更衣室で着替えをしていた。小窓を叩きつける雨粒の音が勢いを増していてうるせェ。青空の言っていた通り、夕方から本格的に降り出した雨。案の定、傘を忘れてる奴がいた。上鳴曰く朝来る時は晴れていたから持って来なかったらしい。俺と同じで学校に置きっぱじゃない事に驚いていれば、一週間前くらいに雨が降った時に使っちまってそのまま家に放置だそうだ。

「お前とはってのはもしかして、例のお天気少女かー?」

「またお前っ、瀬呂ォォ!てめっ!声がでけェ!!」

 この間は周りに人が居なかったからいいものの、今は更衣室だぞ。俺ら以外にもいるってのに反対側で着替えてる瀬呂が大声で言いやがった。この場にいる奴ら全員がこっちを見てくっからホント瀬呂お前っ。空気読まねェし性格が悪りぃ。俺が困るのを分かってて茶化してるだろ。

「切島ぁぁぁ〜。オイラに黙って彼女作ったのか?!作ったんだな?!チクショーー!!リア充爆発しろよぉぉ。爆豪ぉぉ〜頼む」

「うっせェ!!はよ着替えろや玉!てめェらもくっちゃべってンじゃねェ!!」

 ギロリと睨みを利かせて来た爆豪に今回は助けられた。戦闘訓練で緑谷のチームと戦って負けた爆豪の機嫌は悪い。そんなあいつに話しかけるなんて峰田の奴、チャレンジャー過ぎだろ……。これ以上怒らせると面倒なことになりそうだと皆理解したのか、無言且つ超特急で着替え始めたのが正直面白かった。
 
 帰りのHRも直ぐ終わったのでいよいよだ。ついにその時がやって来た。今朝はわくわくしてたけど、次第にその気持ちにも変化があった。置き傘があるのに青空に嘘を付いちまった罪悪感。あの時は頭の中で悪魔の囁きが聞こえたんだ。傘を忘れたって言えば一緒に相合傘が出来るぜ≠チて。……欲に負けちまった。それっぽい言い訳もした。今になって後悔している自分がいる。

「あーーーー……何言ってんだ俺……。クソじゃん」

「どうした切島〜?いきなりしゃがみこんで。……お?あれ青空じゃね?」

「は?!」

 ほら、あそこにと上鳴が指差す方向には確かに青空がいた。恐らく教室や図書室で時間を潰していた青空はヒーロー科の授業が終わるのを見計らって迎えに来てくれたようで即座に俺は腰を上げる。そわそわと落ち着かない様子の青空はA組の下駄箱がある玄関の角で突っ立っていた。上鳴の声により向こうも俺らに気付いたらしく、ぱぁっと花が咲いたような笑みを見せながら小さく手を振ってくれる。その笑顔に数秒見惚れた俺。我に返り隣を見ればデレデレ顔の上鳴が青空に手を振り返していたので思わず叩いちまった。

「じゃあ俺行くからよ。例のブツはさっきHR前に話した通りの位置にあると思うから勝手に持ってけよな!」

「お前言い方が密売人のそれだぞ?色々察したから良いけどよ。借りるわ。じゃあな〜頑張れよ」

 また明日話聞かせてくれと言った上鳴は俺の置き傘を拝借する為に傘立てのある方へ向かった。青空は俺の傘を見た事があるので長居していればバレちまう。そう思った俺は待たせた詫びをしてから帰ろうかと促した。

「傘俺が持つよ。青空ちっせぇから」

「もうっ。気にしてるんだからねっ!少しでも身長伸ばしたくて身体測定の時にアンテナ立てて測ってもらおうとしてもいつも潰されるの。酷いんだよ……」

「青空はちっさくて可愛いからそのままでいいと思うぞ?……あ」

「えっ……」

 やべー、つい思ったことをそのまま言っちまった。この前と逆だ。お世辞でも嬉しいと俺に礼を言う青空の顔をチラッと横目で見れば俯いて照れていたようだけど、アホ毛が荒ぶっていたので思わず笑っちまう。勿論お世辞なんかじゃねェ。本心だ。そう言っちまえば青空を困らせちまうだろうから今は胸の内にしまって置く。瀬呂の言ってた通り、やっぱり俺は青空が好きなんだ。相合傘してェって思ってる時点で今更感があるが。

 肩を並べ、お互いに今日の授業の事とかを話しながら駅までの道を歩いていた。青春してるって感じがするが、俺の心の中にはやはり青空に嘘を付いちまった罪悪感が根付いていて、次第に話の内容が右から左へ流れる。

「切島くん?どうかした?上の空っぽいけど……」

「あーー!やっぱ駄目だ。罪悪感が!すまねェ青空!実は俺、お前に嘘付いちまった!」

 人によっては些細な嘘だろって思うかもしんねェけど、俺の性格的に無理だ。絶対諜報向きのヒーローじゃねーな、俺って。本当は学校に置き傘があって、だけど青空と一緒に相合傘したくて嘘付いちまった事を包み隠さず話した。その後直ぐにこれって殆ど俺が青空を好きだって言っちまってるようなもんだと気付く。鈍そうだけれど、変な所で鋭そうな感じがするし、やべーかもしんねェ。

「……そんなに謝らなくて大丈夫だよ。私もその……切島くんと相合傘出来て嬉しいから」

 頭の中で葛藤していて青空のクソ可愛い発言を聞き逃すところだった。俺の聞き間違いじゃねェよな?青空が俺と相合傘出来て嬉しいって……。それはつまり……。傘に当たってる雨粒の音よりも俺の心音の方が大きいかも。なんだこれ。これが恋煩いか?!分かんねーけど!

 その後は駅まで何事もなかったかのように、明日の天気とか日常会話に戻っちまったけど俺の頭ん中はさっきの青空の台詞がぐるぐる駆け回っていた。

 なぁ、これって期待してもいいんだよな?

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