05

 本日の天気は晴れ。
雲ひとつない快晴とまではいかないが、絶好の体育祭日和だ。

「おはよう、切島くん。いよいよだね」
 
「おう!晴れて良かったわ」

 いつものように駅のホームで待ち合わせした私と切島くん。大きな欠伸をする彼に寝不足なのかと聞いてみた。なんでもここ最近は夜遅くまで筋トレをしていたらしい。今朝もいつもより早く起床し、早朝ランニングをして来たと言うものだから驚きだ。運動があまり得意ではない私からしたら考えられない。

「一年生の今年の一種目目ってなんだろうね?」

「分かんねェけど、毎年最終種目はタイマン勝負してっからある程度人数落とさなきゃだよな。11クラスもあるしよ」

「人数多いからごちゃごちゃしそうだよね。個性使用も認められてるし……。楽しみというより私はちょっと怖いかも」

「あんま無理すんなよ。怪我とかしたら心配する」

「ありがとう。切島くんも気をつけてね」
 
 そう言い返せば苦笑いされた。分かってはいる。一位を目指している彼等が無傷でなんてのは到底無理な話。毎年テレビ中継で雄英体育祭を見ていたが、最終種目に参加している殆どの生徒がボロボロだった。それ程熾烈な戦いになる。今年も例外ではないだろう。日々頑張っている事を知っているので切島くんには是非勝ち残って欲しいが、無茶はして欲しくない。我ながら矛盾しているなと思った。いつもより口数が少ない切島くんは精神統一をはかろうとしているのか、目を閉じてゆっくり深呼吸を繰り返す。そんな彼の邪魔はしたくなくて。
私は心の中で彼を激励しつつ電車を待った。


 体育祭会場付近のみ何度も気温の差が激しくなると私のアンテナが察知していたが、その意味を理解した。第一種目開始と同時に凍る地面。気付いた時には遅く、動けなくなった私はあっという間に離脱。今現在はクラスの応援席に戻って観戦をしている。巨大なロボや綱渡りに地雷原。早めに棄権しといて本当に良かった。マイク先生の実況で切島くんがロボに潰されたと聞こえて来た時は肝が冷えたが、無事9位で予選を通過した彼にほっと息を吐く。次いで第二種目である騎馬戦。彼の会話でよく出てくる噂のばくごーくんを前騎馬でアシストし、最終種目出場の切符を手に入れたのだった。

「切島くんっ!お疲れ様!」

「青空!」
 
 午前の部が終わり、お昼休憩。
大食堂でカツ丼を運んで席を探してる切島くんを見かけて思わず声をかけた。彼の周りには上鳴くんの他に私の知らない男子生徒が数名。恐らく彼等とご飯を食べる予定だったであろう切島くんは上鳴くんに断りを入れて私の所にやってきた。背の低いブドウのような髪の男子生徒が何やら叫んでいたが平気なのだろうか。

「上鳴くん達と一緒に食べなくていいの?」
 
「平気平気。それよりお前1人?」

「さっきまで一緒に食べてたんだけど、友人は売り子をしてるから午前中に売り上げた飲み物の計算とか午後の準備しに行っちゃった」

 バキュームのようにパスタを吸い込んだ友人はものの数分で大食堂から去って行ったのだ。普段から食べるのが早いと思っていたけれど、今回は新記録かもしれない。

「すげーな、お前の友人。……つか青空は売り子しねェの?」

「私はその……切島くんを応援したかったから……」

「えっ!俺が理由なのか?!」

 自分はあまり社交的じゃないから売り子なんて恥ずかしくて出来なかったのもあるが、一番の理由は切島くんの応援に集中したかったからだ。

「そうか、俺が理由……。まじか、ありがとな!青空。お前の為にも最終種目頑張るからよ」

 カツ丼を頬張り闘志を燃やす切島くん。きっと勝つ為にカツ丼を食べているのだろう。単純ではあるが、切島くんっぽいなとくすっと笑ってしまう。そんな私に彼は首を傾げていた。
 
 
 午後の部最初のレクリエーションが終わっていよいよ最終種目。ちなみに余談だが、友人と大玉転がしに参加した私。友人がボールに巻き込まれて一緒に転がってしまったので追い掛けるのが大変だった事だけ言っておく。

 一回戦7組目。切島くんの相手は彼の個性と似ているB組の生徒。激しい激闘を繰り広げた結果は両者引き分けで。腕相撲の末勝利した切島くんであるが、二回戦目のばくごーくんに惜しくも敗れてしまい、表彰台に上がることは出来なかった。

「すまんっ青空!応援してくれたのに勝てなかった。鉄哲にだって引き分けだしよ。かっこ悪りぃな」

 閉会式の後、私を呼び出した切島くんは律儀に優勝出来なかった事を謝って来た。頭に包帯を巻き、至るところに擦り傷を作っている彼は申し訳ないと頭を下げる。

「謝らないでいいよっ。それに切島くんはいつもカッコ良くて……。そんな切島くんを私はっ」

「わーー!待て青空!そういうのは普通男の俺から言うもんだろ?……一応確認すっけどよ……自惚れていいんだよな?俺の勘違いとかじゃねーよな?」

 勢い余って告白しようとしてしまった私を止めた切島くんの問いにこくりと頷く。これは私も期待して良いんだよね?自惚れや勘違いじゃないよね?どくどくと心臓の音が煩い。

「本当はさ、体育祭優勝して最高にカッコイイ俺の時に言うつもりだったけどよ。今言わなきゃお前に先を越されそうだから言わせてくれ。……好きだ、青空。俺と付き合ってくれ!」

「私も切島くんが好き……。私で良ければ是非、よろしくお願いします」

 私が返事をするや否や切島くんが抱きしめてきた。突然の事に驚いてオロオロしてしまう。数秒遅れて今の状況に気付いたらしい彼は俊敏な動きで私から離れた。消えた温もりに少し寂しさを感じる。

「わ、悪りぃ!すげー嬉しくてついっ」

「だ、大丈夫だよっ。私も嬉しいから」

「……じゃあさ、もう一度抱きしめてもいいか?」

「ど、どうぞ?」

 慣れてないのでどう待つのが正解なのか分からず、手を広げて構える。少し大胆過ぎたかもしれないなんて思っていれば、再び切島くんに抱きしめられた。好きな人と両想いになるなんてこんなに嬉しい事なのか。彼の背に手を回し、今はただこの幸せをひたすら噛みしめるのだった。

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