06
時刻は午前8時。千晴と初めてのデートだから遅刻したくなくて。待ち合わせの1時間前に集合場所に着いちまった。この日の為に携帯でデートプランを調べたり雑誌とか読みまくった。デートとか初めてだし、すげー緊張する。そわそわと頭の中で今日のプランの確認をしていれば、とてとてとこっちにやって来る千晴が視界に入った。花柄のふんわりした白いワンピースに灰色のカーディガンを羽織った千晴。
……いや、クソ可愛い過ぎだろ。一瞬息するの忘れちまったわ。
「鋭児郎くんっ。まだ約束の時間じゃないのに何で先にいるのっ。……聞いてる?鋭児郎くん」
お互いに名前で呼び合うようになってそれ程時間が経ってねェから千晴に鋭児郎って呼ばれただけで顔がニヤつく。俺が早く着き過ぎた事に対して頬を膨らませてプンスカ怒ってっけど全然怖くねェ。むしろ可愛いわ。そう心の中で悶えていれば怒っていた筈の千晴がふふっと笑った。
「鋭児郎くん、慌ててお家出て来たでしょ?」
「え?」
「寝癖ついてるよ?」
ほらココと背伸びをして俺の寝癖を直す千晴。確かに朝は急いでた。きちんと整髪料でキメて来た筈だったのに恥ずい。初っ端からかっこ悪ぃとこ見せちまった。
「鋭児郎くん可愛いね」
「可愛くねーよ!つか可愛いのは千晴だろ!」
「えっ」
「いやっ。違っ……くわねーな。あー……そのよ……服、良く似合ってるぞ」
「ありがとう……。鋭児郎くんに可愛いって思ってもらいたくて選んだから凄く嬉しい……鋭児郎くんも私服カッコイイよ」
そう言ってワンピースの裾を触りながらもじもじと照れている千晴。言動と動作がいちいちグッとくんだよ。俺今日死ぬんじゃね?千晴に悶え殺される自信がある。
「サンキューな。……じゃあ、予定より早ェけど向かうか」
歩き出そうとしたら俺の服の袖が軽く引っ張られた。勿論犯人は千晴で。何か言いたげな様子の千晴に首を傾げる。
「えっと……手を、繋いでもいい?」
「おおう?!か、構わねェぞ。……悪りぃな。こういう時は男の俺がリードしなきゃいけねェのに。俺、彼女できたの千晴が初めてでさ。女子とデートとかした事ねェし緊張しちまって」
「むしろ鋭児郎くんが女の子慣れしてなくて安心してる。私も鋭児郎くんが初めての彼氏さんだから。お互い分からない事だらけで緊張もするけど今日はとにかく水族館楽しもう?」
融通が利かない俺が遅れて差し出した手に千晴の小さな手が乗せられる。少しでも力を入れたら折れちまうんじゃねーかって心配になる。俺は細心の注意を払いながらゆっくり千晴の手を握りしめた。
「イルカとアシカのショー凄かったね〜。クラゲリウムも綺麗だった」
「久しぶりに水族館来たけどすげーな」
初めてのデートに選んだ場所は無難に水族館にした。俺も千晴も小学生の時に遠足で来た以来だったからあの頃に比べて進化している水族館に驚きの連続だった。今は一通り周り終わって併設されているカフェで休憩しているところだ。深海生物のメンダコをイメージしたケーキを写真に収めた千晴。食べるのが勿体ねーって言ってた割に速攻頭から真っ二つにしてるのはウケる。
「甘いっ」
「そりゃあケーキなんだから普通は甘いだろ。食レポ向いてねーな」
「む。じゃあ鋭児郎くん食レポしてっ」
千晴の下手くそな食レポを笑っていれば一口サイズのケーキが乗ったフォークを俺に向けて来た。待て待て待て。それは所謂あれだろ?……マジか。いいのか俺が食っても。千晴は全く気にした様子でもねェし、逆にここで食わなかったら俺だけが過剰反応してるみてェじゃん。平常心を保て俺。フォークを持った千晴の手に俺の手を重ねてそのままケーキを口の中へ放り込んだ。
「あまっ……」
結局俺も上手い食レポなんてもんは無理だった。千晴と同じでありきたりな味の感想しか出てこねェわって笑っていたら、当の本人は顔を赤らめ先程水槽の中で見た魚の様に口をパクパクしていた。漸く自分が何をしたのか理解したみてェだ。
「ごっごめんね!鋭児郎くん、私ったら公共の場でなんて事をっ」
「皆気にしてねェだろ。俺は驚いたけど別に嫌じゃねー」
「そ、そう?じゃあ良かったらもう一口どうぞ!」
キョロキョロと店内を見回して自分達に視線を向けられてない事を確認した千晴は再び俺にケーキを寄越したけど、そのフォークを奪ってお返しとばかりに食えよとケーキを千晴の口元に持ってく。少し躊躇いがちに食べていたけど美味しいと頬を緩めるその顔に満足した。
「あ、鋭児郎くんがいっぱい並んでる!」
カフェを出てお土産コーナーに訪れた俺達。何を買って帰るか悩んでいれば千晴が不思議発言をした。どういう意味だと思って指差している方向を見る。そこには棚にずらりと陳列したサメのぬいぐるみがあった。
「俺?」
「歯がギザギザしてるっ!心なしかこの表情も鋭児郎くんに似てるっ!」
「そうかぁ?」
千晴と同じようにそれを手に取る。モフモフしていて肌触りはかなり良い。千晴はひたすらサメのぬいぐるみを堪能してっからかなり気に入っちまったらしい。本当は女子が好きそうなアクセサリーとかをプレゼントしようと思っていたけど、これでもいいかもしんねェ。
「……俺が千晴にこれ買ってやるよ」
「えぇ?!悪いよ……」
「気にすんな。初めっから何かあげたかったし」
「うーん……あ!じゃあ私も何か鋭児郎くんにプレゼントするっ」
「まぁ、千晴ならそう言うと思ったわ」
予想通りの返答。遠慮することは分かってた。俺へのプレゼントを物色し始めた千晴と共に目に入ったのはメンダコのぬいぐるみ。ピンっと伸びた小さな両耳につぶらな瞳。ケーキの時は気付かなかったが、心なしかちょっと千晴と似ていて。成る程、千晴もこんな感じに俺とサメが似ているかもって思ったのか。
「……これにするわ」
「メンダコさん!鋭児郎くんがぬいぐるみ選ぶの意外だ。もっと普段遣い出来そうなの選ぶかと思ってた!」
「おー、なんかこれ千晴に似てっからよ」
「ええっ?!そんな理由で?!」
「いや、千晴と理由同じだぞ?」
本当だ、なんて笑い合う俺達。俺がサメのぬいぐるみを、千晴がメンダコのぬいぐるみの会計をして交換する。高校生にもなってぬいぐるみ交換なんて子供っぽかったかもという杞憂は全て千晴の笑顔で吹き飛んじまうからすげー。
「このサメジロー、一生大事にする!」
「もう名前付けてんのかよ!」
「駄目だった?」
「別に駄目じゃねーよ」
良かったと呟いた千晴は何を思ったのか、俺の手元にあった千晴似のぬいぐるみの口らへんに千晴曰く俺似のぬいぐるみの口を押し当てた。無意識なんだろうからタチが悪ぃ。
これからも千晴の言動や行動に振り回されて悶える自分が容易に想像出来た。そんな未来がずっと続けばいい。俺の隣で楽しそうに笑う千晴をこの先もずっと守ってやりてェと思った。