ないものねだり
「じゃあお昼ご飯買ってきますね〜」
そう言って部屋を出て行くニルさんとひなさん。東の任務に小柳が呼ばれてニルさんもひなさんに会いたいという事で連れて来たらしく、楽しそうに話していたところ、そろそろ昼の時間だからと買い出しに出かけた二人を見送って、小柳の方を見る。言いにくいな、と思うけど相談なんて出来る相手、そうそう居ないしな、とゆっくりと口を開く。
「なぁ小柳」
「ん?」
「俺さ、ひなさんとこのまま一緒にいて良いのかな」
俺の言葉に小柳がこっちを向く。何言ってんだ、と言わんばかりに呆れた表情をした小柳に、やっぱりそうなるよなぁ、と思いつつ言葉を続ける。
「俺らヒーローってさ、大切な時にそばに居てやれない事が多いだろ? それに、いつどうなるかも分かんねぇこんな男が、ひなさんの傍に居ても良いのかなって」
そこまで言うと、小柳が眉間に皺を寄せる。
「それ、俺にも言えんだけど」
「でも小柳は強いじゃん。俺は、キリンちゃんが居なきゃただの人間で、きっと、すぐに死んじまう。だから、すげぇ不安なんだよ。もし、ひなさんを残して死んだ時、ひなさんに悲しんで生きて欲しくない……」
怖い。彼女を置いていってしまうのが。彼女の笑顔を奪ってしまうのが。それなのに離れられなくて、離れたくなくて、いつからこんな我儘になっちまったんだろう。
「宇佐美はさ、ひなさんのこと、なんもわかってねぇよ」
小柳が小さな声で呟く。顔を上げると小柳は俺を真っ直ぐ見ている。
「置いていかれる覚悟なんて、してない訳ないだろ」
「置いていかれる、覚悟……」
「俺はニルと絶対一緒には生きていけない。アイツが老いて行くのを見守ることしか出来ない。でも、その時間を止めようなんて思わねぇし、何より、少しずつ離れて行くアイツと今、生きて行くことを選んだんだ」
「それは小柳が長く生きてるから……」
「舐めんなよ。あの人がどんな気持ちでお前の事待ってるか考えた事あんのかよ。毎回もしかしたら帰って来ない可能性だってあるお前を『いってらっしゃい』って見送るのがどれだけ怖いことか、お前に分かるのかよ」
「っ……わかんねぇよ!わかんねぇから悩んでんだよ!俺の頭じゃそこまで考えが及ばなくて、ひなさんを悲しませたり苦しませたりしない為にはどうしたらいいかって考える度に、離れる方法しか思いつかねぇんだよ!俺より良い人見つけて、幸せになって欲しいって、そう思っちまうんだよ……!」
「宇佐美、歯ァ食いしばれ」
小柳が立ち上がり、勢い良く俺の頬を殴る。
「なに、すんだよ!」
反射的に殴り返すと吹っ飛んだ小柳が凄い剣幕で立ち上がり俺の胸ぐらを掴む。
「甘えてんなよ!お前は好きな女と添い遂げる覚悟もねぇのかよ!男なら意地でも死なずに帰るって誓ってみろよ!」
「それが出来たら苦労しねぇんだよ!」
もう一発殴ろうとした瞬間勢い良くドアが開く。
「こら!!喧嘩しない!!」
しかめっ面のひなさんと今にも泣き出しそうなニルさん。ニルさんの前で小柳を殴る訳にも行かず、拳を解いて小柳から離れると、大慌てでニルさんが小柳に駆け寄る。思いっきり殴っちまった事を後悔していると、ひなさんがゆっくり俺に近付く。背伸びして俺の頬を強めに、ぱちん、と叩いてそのまま頬を包む。
「うさみくんのばか」
「……ごめん……」
「そばにいさせてよ、ね?」
少し泣きそうに眉が下がっているひなさんを見て胸が苦しくなる。ぎゅっとひなさんを抱き締めて「うん……」と小さく呟く俺は、本当に情けない。
小柳たちと別れて帰宅してる途中。ひなさんがふと口を開く。
「私はさ、うさみくんが好きだからそばに居たいの。これだけは、覚えといて欲しい」
小さな手で俺の手をぎゅっと握る。指先が冷たくなっていて、本当に申し訳ない気持ちになる。立ち止まり、ひなさんをまっすぐ見て、口を開く。
「ひなさん」
「なぁに」
「俺も、ただひなさんのそばに居たい」
「うん、居てよ」
「うん……」
こくり、と頷くと、ひなさんが嬉しそうににっこりと笑う。
「よし!じゃあ、今日の晩御飯は何にしよっか」
「俺ひなさんが作ってくれるならなんでも嬉しい」
「うーん、じゃあ、オムライスの材料買って帰ろっか」
ひなさんの小さな手を握り、スーパーへ向かいながら、やっぱりこの人が好きだ、と思った。大切にしたい。ずっと、それこそ、俺の命が尽きるまで、ずっと。帰ったら、大切な話をしよう。ずっと、一緒にいる為の話を。