ねがいごと

「ここでいい?」
「うん、ありがとう!」
お店に飾る七夕用の大きな笹をうさみくんに設置してもらいながら、折り紙を何枚も短冊の形に切っていく。お店に来るお客さんに少しでも季節感を楽しんで欲しくて、笹と短冊、おまけに七夕ゼリーまで用意して準備は万端。みんなの願い事が叶ったらいいなぁ、なんて思いながら入口の横に置いて貰った大きな笹の隣に、ペンと折り紙で作った短冊とこよりを設置。
「うさみくん、運んでくれてありがとね」
「これくらい任せてよ」
「ふふ、じゃあお手伝いしてくれたうさみくんには特別に一番最初に短冊を飾る権利をあげましょう」
ペンと短冊を渡すと、きょとん、とした後に、うさみくんが「願い事か〜……」と少し困ったような顔をする。やっぱりうさみくんって無欲なんだなぁ、なんて思いながらコーラを用意する。
「お願い事ない?」
「無い訳じゃ無いんだけどね」
「自分の力で叶えたい系だ」
「まぁそんな感じ」
うさみくんの願い事ってなんだろう、と考える。個人の事? それともヒーローとしての事? どっちも自分の力で叶えたがりそうだなぁ、と思っていると、うさみくんがジッとこっちを見ている事に気付く。
「どうかした?」
「いや、ひなさんは願い事あんのかなーって」
「いっぱいあるよ、願い事」
まずはお店の繁盛でしょ。それから健康で居られますように、とか、美味しいものいっぱい食べられますように、とか……、とぺらぺらと願い事を喋ると、うさみくんが楽しそうに笑う。
「俺も美味いものいっぱい食べられますように、にしようかな」
考えたらいくらでも思いついてしまうくらいには、私の願い事は山盛りだ。そんな私に反して、全く筆が進んでいないうさみくんを見て、本当に無欲な人だなぁ、と思う。絶対うさみくんにも叶えたい事はあるだろうに、書かないのか、書けないのか、うーん、うさみくんって意外と秘密主義だからなぁ、と色々考えていると「あ」とうさみくんが呟く。
「何か思いついた?」
「ひなさんは短冊何書くの?」
自分が飾る事を考えていなかった私は、その言葉にきょとんとしてしまう。皆がお願い事いっぱい飾ってくれたら嬉しいなぁ、くらいしか考えてなかった。そっか、私も飾った方がいいよね。
「え、何書こう」
「あはは、ひなさんも困ってんじゃん」
「一個って悩むね」
短冊を目の前にして、うーん、と考える。願い事自体はいっぱいあるけど、短冊に書く願い事となると話は別だ。一番叶ってほしい願い事。うーん……
「お店の短冊だし、お客さんがいっぱい来ますように、かなぁ」
「じゃあ、俺もそうしようかな」
「えっ、うさみくんのお願い事は?」
「やっぱダメかぁ」
短冊に『お客さんがいっぱい来てくれますように』と書いて、こよりを結ぶ。どこに吊るそうかなー、と考えていると、短冊に願い事を書き終えたのか、うさみくんが隣に来て「一番高いとこが、一番願い事叶いそうじゃね?」と私の短冊を上の方に吊るしてくれる。その隣に、うさみくんの短冊も結ばれて、高い所にふたつだけ並ぶ短冊が出来上がった。
「結局何書いたの?」
「んー、ひみとぅ」
そう言ってコーラに口を付けるうさみくん。すかさずポケットからスマホを開いてカメラアプリを起動して、短冊をパシャリ。うさみくんが「え」と呟いた時には、うさみくんの短冊のお願い事をばっちり見てしまった後。
「……見た?」
「見ちゃった」
うさみくんの短冊には『ひなさんのご飯がたくさん食べられますように』と書いてあって、そんなの短冊に書かなくてもいっぱい作ってあげるのに、と笑ってしまった。
「今日は何食べたい?」
「……じゃあ、オムライス」
特別に作ったオムライスにキリンちゃんを描いてあげると、嬉しそうに目を輝かせていたので、私に叶えられるお願い事なら、何だって叶えてあげるのに、と、美味しそうにオムライスを食べるうさみくんを眺めた。