バカップルwith大寿くんA


「あのさ」
「なんだ」
「なんかふと気付いたんだけど、私ってめちゃくちゃ可愛くない?」
「とうとう頭が湧いたか?」
「いや、よく見て。ほら見て。見た? 見たよね? テレビに出てそうじゃない? 雑誌の表紙のモデルより可愛いよね?」
「……風邪引いてんならさっさと帰ったらどうだ」
「マジのトーンで心配するのやめて。わりと本気で言ってる。ほら、竜胆くんってさ、結構私に可愛い可愛いって言うじゃん。でも私としては、私って綺麗系じゃないかなって思ってたわけ。ヒナちゃんよりゆずちゃんタイプって言うの?」
「テメェと柚葉が同列みたいな言い方すんな。その足りねぇ頭ぶん殴ってやろうか」
「普通に足りてますけど。もー、大寿くんってば話あちこちに飛ばすのやめて! そうそれでね、竜胆くん、最近はテレビとか雑誌とか見ててもすぐにリコの方が可愛いって言ってくれるのよ。でも私的には、いや普通にその子たちの方が可愛いでしょ、私可愛いって言うか綺麗系だからその子たちにはさすがに勝てないよって思ってたの」
「足りてる人間のする話じゃねえから言ってんだろうが」
「うんうんそうだね。でね、だけどね、なんかこう、今ビビッときたわけ。私めちゃくちゃ可愛いじゃん、世界一じゃない? ってさ……」
「それはテメェの飲んでる酒の見せるまやかしだろ。さして強くもないくせにアホみたいに酒を飲むのはやめろ」
「いや、普通に私可愛いから……一緒に酒飲んだ時に半間も言ってたじゃん。なんだっけ、あの……あの…………ジャンガリアンハムスターみたいで可愛いって……」
「飼ってるジャンガリアンハムスターが可愛いって話だったろうが。勝手に記憶を捏造するな。ジャガーみたいだっつわれてたんだよテメェは」
「ジャッカルってなに? ラスカルの亜種? アライグマみたいに可愛いってこと?」
「ジャッカルじゃねえ、ジャガーだ。ヒョウの仲間みたいなもん。アライグマを捕食する側の肉食動物」
「この世は弱肉強食ってわけね…………」
「誰もそんなこと言ってねえぞ。おい、寝るなら帰れ。灰谷呼べ」
「……あのさ、明日、婚姻届出すんだけどさ……」
「はあ? ……は⁉︎」
「私も明日から、灰谷になるってわけ。うう……涙出てきた…………ここまで長かったよね……色々あったんだよ……竜胆くんは少年院に入るし、私は一虎に殴られるし、半間に轢かれるし、なんか刀で思いっきり切られるしさ……死にかけてばっかだけど、でも、きょうだいが増えて、大寿くんに出会って……ほ、ほんと……幸せで…………」
「高賀……」
「大寿くんに出会えたから、私、ここまで頑張ってこれたんじゃないかなって思うんだ……なんだかんだいって励ましたり、協力してくれたり、課題写させてくれたり、レポートの資料まとめてくれたりしてさ……教授の付き添いで青森の方行った時なんて、私替えの服も下着も全部忘れて、大寿くんにそこら辺の服屋まで走ってもらったりして……ゼミの飲み会で酔っ払ってゴミ捨て場で吐いてた時も、竜胆くんに連絡してくれたし……竜胆くんが出張で一週間家空けてるのにケータイと鍵失くして部屋入れなくなった時も、お兄に連絡したりしてくれて……」
「ろくな事してねえな。灰谷は本当にこんな女でいいのか」
「ほんと、自慢の大親友だよ……! あっ待って吐く」
「おいテメェ、ふざけんなクソ女! ここで吐くな! やめろ!」
「あわ……トイレ行くから…………これケータイ、あげる……」
「いらねえからさっさと行け! 途中で吐くなよ! 置いて帰るからな! ……おい待て高賀…………あのクソ女、電話が入ったからオレに押し付けやがったな。灰谷からの電話なんだから吐きながら出りゃあいいだろうが。……チッ」
『……もしもし、リコ? 今どこ居んの? もう日付変わりそうだけど、帰り遅くね?』
「高賀なら今便所に吐きに行った」
『は? あ、大寿? 今日半間と飲み行くっつってたけど、なんだ、大寿と一緒か。吐くほど飲んでんなら迎え行くわ。オレ今日は素面だし、お前のことも送るから待っといて。いつもの店だろ』
「オレは酔ってねえから別にいい。自分で帰れる。あの馬鹿がテメェの話ばっかしてうるせぇからさっさと来い。っつーか、あんだけ飲んでりゃ明日二日酔いで役所なんて行けねえんじゃねえのか」
『遠慮すんなって。オレはリコほど運転荒くないの知ってんだろ。ってか、役所? 一日家にいるって話だったけど、リコ役所行く予定あんの?』
「はあ? 明日テメェと婚姻届出しに行くっつってたが。違ェのか」
『ん? それ今日。午前中のうちに出してきてる。何、明日出しに行くっつってんの? え、いや、リコめちゃくちゃ酔ってんじゃん』
「えあ〜……気持ちわるいぃ…………あ、大寿くん……ちゃんとトイレで吐いてきたよ……」
「報告してくんなアホ。おい灰谷、テメェの馬鹿に変わるぞ。高賀変われ」
「え、なに、竜胆くん? もしもーし? あ、竜胆くんだ。うん、リコだよ〜。そー、半間はハムスターの散歩があるから来れないって、それで大寿くんと二人で飲んでたの。……うん? うん、まあ、でも大寿くんに言われた通りちゃんとトイレで吐いたから、平気! …………えー? つまり、なに、私はもう竜胆くんのお嫁さんってこと? ……うん、……うん、私も大好き。キャー! うふふ、うん、……うん、分かった。や、でも、今乗ったら吐くかも。ちょっと前にさあ、マンジローと蘭ちゃんとご飯食べいった時に、ほら、私とマンジローめちゃくちゃ酔って蘭ちゃんの車で吐いて大変なことになったじゃん。そうなる予感がしてるっていうかあ」
「……本当に灰谷はこんな女でいいのか…………?」


(ジャンガリアンハムスターの名前はじゃがいもです)